映画公開年別マイベスト 1920年代

映画年別マイベスト

今回の記事では、公開年別のマイベスト映画作品をご紹介します。
評点は5.0~1.0まで、0.5点きざみの9段階評価で、平均以上となる3.0以上の作品をランクインさせています。

今回取り上げたのは1920年代で、17本の作品が3.0点以上でした。

17位 霊魂の不滅 3.0

スウェーデン映画の父と呼ばれるシェストレムの代表作であり、サイレント期の北欧映画の最高傑作と名高いオカルティックなドラマ。
人も自分も愛してこなかった男が死神と同行する羽目になり、自分を愛してくれていた人と自分が愛していた人の死に際に立ち会わされることで改心するまでの物語です。
ストーリーテリングは冗長ですし、主人公の改心に時すでに遅しと厳しい現実を突き付ける戒めの結末を期待すると、甘く感傷的なラストに拍子抜けしますが、シスターのような監督の無償の愛と赦しを感じることはできました。
フラッシュバックを多用した構成と多重露光を駆使した幻想的な映像は素晴らしく、映画創成期における最重要作品の一つとされるのも納得でした。
「シャイニング」の名シーンの元ネタとも思える斧で扉を破る場面の緊迫感もワクワクしました。

16位 犬の生活 3.0

これまでにも様々な小道具でギャグシーンを生み出してきたチャップリンですが、今作では犬の存在を効果的な小道具として、ギャグシーンのみならず、ストーリー展開上のキーマンとしても活用しています。
チャップリン自身も今作をターニングポイントとして認識していたようですが、転換していく場面設定含め、確かに以前の作品にはなかった映画らしい”物語”が取り入れられています。

15位 チャップリンの寄席見物 3.0

チャップリンが劇団時代の出演作品を翻案した秀作短編コメディ。
劇場を訪れた紳士と二階席の酔っぱらいの二役をチャップリンが演じ、観客から出演者までを巻き込んで大騒動を繰り広げるストーリーです。
いつもの調子で周りに迷惑をかけるだけでなく、自身がやられ役にも回ることでギャグがバラエティ豊富になっています。
オチとなる放水ギャグも地味目な小ネタを積み上げてきたからこそ、クライマックスとしての役割を担えている気がしました。
カット割りによる引きと寄りのバランスも良く、映像作品としてのクオリティがまた一段上がった印象でした。

14位 キートンのセブン・チャンス 3.0

多額の遺産を相続するために今日中に結婚せねばならなくなった男を描いたキートンの代表作の一つ。
恋人にいつまでもプロポーズできない主人公の情けないキャラクターと結婚を急がねばならない状況設定が巧いです。
前半のやたらにプロポーズしまくるも空振りするギャグ、後半の花嫁たちの大群から逃げる全力疾走のアクションが見せ場であるのは間違いありませんが、狭間の時間を知りたいだけの場面にも四つ五つギャグを詰め込んでくる手数の多さが素晴らしく、密度の濃い作品でした。

13位 戦艦ポチョムキン 3.0

編集によるカットの繋がりが生むモンタージュ効果は映画創成期に米ソでそれぞれ研究され、映画を映画たらしめる概念としてその芸術的発展に多大なる影響を与えました。
そのソ連側の筆頭であるエイゼンシュテインの監督二作目にして、モンタージュの代名詞ともなった代表作。
オデッサの階段での虐殺シーンがモンタージュ理論を象徴する名シーンとして有名ですが、第二幕も良くできており、固定カメラでもフレーミングとカットの繋ぎで銃殺のサスペンス、反乱のドラマとスペクタクルが見事に作り出されていました。
そして第四幕は言わずもがなの迫力で、銃弾を浴びて倒れ、群衆に踏みにじられる少年の哀しさはプロパガンダとして十分な威力を持っています。
ただシーン単体での出来の良さに対して、全体通して観るとストーリー性の弱さは否めませんでした。

12位 骸骨の踊り 3.0

ディズニーによるシリーシンフォニーシリーズの記念すべき一作目。
墓地を舞台にフクロウや黒猫といった動物に始まり、墓の下に眠る骸骨までもがリズムに合わせて踊り出すストーリーです。
モノクロであることも相まってなかなかの不気味さで、子供の頃にはその怖さが絶妙にクセになったのを思い出しました。
反復するリズムに乗せた滑らかな骸骨のダンスと演奏が素晴らしく、良い意味でディズニーらしからぬ、シュヴァンクマイエル作品かのような仕上がりでした。

11位 チャップリンの放浪者 3.0

チャップリンのミューチュアル社時代の秀作短編。
路上のバイオリン弾きで日銭を稼ぐチャーリーがジプシーの元で虐げられて暮らす女性を救い出す物語です。
前半は挨拶がわりのギャグと追いかけっこを披露しますが、女性を救出してからは切ないロマンスが展開され、特に虚しいテーブルセッティングは後の「黄金狂時代」の名シーンを彷彿とさせます。
切ない展開を甘んじて受け入れる姿は単に笑えるだけではないドラマとしての進化を感じさせるものでした。
シンプルなハッピーエンディングは短編ゆえに仕方がないとは言え、長編になってからの複雑な感情を呼び起こされる一捻りある結末に比べてしまうと物足りなさが残りました。

10位 チャップリンの移民 3.0

チャップリンの制作スタイルがまだ質より量だった時代末期の作品。
戦後のハリウッドに吹き荒れた赤狩りによってチャップリンは国外追放の憂き目を見ましたが、今作はその根拠の一つとして指摘されたそうです。
前半は移民船、後半はニューヨークのレストランで展開され、ストーリー性はまだ欠けていますが、ギャグの質には明らかな進化が見られます。
特に食事のシーンが素晴らしく、前半の揺れ動く船内での食事は「黄金狂時代」の原型を感じさせますし、後半は最早ドタバタせずとも笑いを取る方法を確立した感すらあります。
さらにドタバタしなくなったことはバストショットの割合の増加にも繋がっており、より映画的なコメディが完成に近づいたことを感じさせました。

9位 グリード 3.0

サイレント期のハリウッドを代表する巨匠シュトロハイムの代表作。
三人の男女を中心に、タイトル通り人間の強欲さとその愚かしさを描いた物語です。
長大な作品が大幅にカットされ、現存するのは監督の意に沿わないバージョンであると伝えられていますが、二時間程度で程良くまとまっているように感じました。
一度手に入れてしまうと、それが自分の手元を離れた時に嫉妬する。
いわゆる所有欲や独占欲がどのように人間に芽生え、育っていくのかを丹念に描き、その行き着く先では金など意味のない状況に陥っても執着を捨てられない、欲に支配された恐ろしくも哀れな姿を広大なデスバレーに映し出します。
短縮された名残りなのか、物語上の重要な展開を字幕での説明に頼り気味なのが残念でしたが、カット割とフレーミングは巧みで、ロングショットとクローズアップ、さらにはイメージカットまで組み合わせた映像的な語り口が素晴らしかったです。

8位 吸血鬼ノスフェラトゥ 3.0

サイレント期の名作ホラーとして名高いヴァンパイアものの古典。
同時期に同じくドイツで制作された「カリガリ博士」の凝ったストーリーテリングと比べると字幕に頼りすぎの感は否めませんし、さすがに古い作品とあって映画としての怖さは後世のホラー映画と比べれば劣ります。
しかし逆にモノクロの不鮮明な映像だからこそ、ぱっと見のビジュアルに関しては粗が目立たず、夢に見れば現代の人でも十分に恐怖すると思います。
ぎこちない動きも不気味さを増す良い味となっており、そしてなにより光と影の芸術と言えるクライマックスは一見の価値ありです。

7位 裁かるゝジャンヌ 3.5

カトリック教会による改変や火事によるネガの消失といった苦難を経て語り継がれるデンマークの巨匠カール・テオドア・ドライヤーの名作。
異端審問にかけられたジャンヌが老練で狡猾な審問官たちに追及を受け、心を揺さぶられながらも信仰を貫き火刑に処されるまでを描く物語です。
裁判という名の精神的リンチがモンタージュを拒絶するようなクローズアップの応酬で描かれる前半は観客にも凄まじい圧を与え、ジャンヌが受けた息苦しさを追体験させられます。
後半の処刑シーンに向かうに連れて画角が広がり、苦痛と絶望が見事にモンタージュされます。
それはジャンヌにとりこの結末がストーリーとしての救いの無さとは裏腹に、神の意志を理解しない俗世からの解放を表現しているように感じました。

6位 幕間 3.5

その名の通りバレエの幕間に流すために制作された映像コラージュ的な短編。
シュールレアリスムを代表する映像作品として並び称される「アンダルシアの犬」が取り留めのない悪夢をフィルム上に再現したようなものだとしたら、今作は白昼夢とでも言えそうな能天気な明るさを備えています。
筋書きはないものの、ユーモアは感じられることがその要因かもしれません。
コマ撮り、スローモーション、多重露光、移動撮影、トリック撮影とあらゆる映像技法を披露するだけでなく、バレリーナを床下からとらえたカットや屋根の上を漂うようなカットなど100年後でも通用するカメラワークも楽しめます。

5位 アンダルシアの犬 3.5

シュールレアリスムの何たるかを映像で知る上での最高の教科書的作品。
ブニュエルの監督デビュー作であり、後に20世紀を代表する画家の一人としてその名を轟かせる若きダリと共同で制作しています。
月にかかる雲と眼球を切り裂くカミソリという有名な冒頭のシーンに代表されるように、連鎖的なイメージのコラージュで構成され、何でもないカットと異様なカットが論理やつじつまを無視して共存しています。
全くの支離滅裂でなく、筋がありそうでないことがまた観客を翻弄しますが、そこには作為的な意思を感じざるを得ません。
脚本、撮影、編集と工程間に段階的な区分があり、その都度作り手の明確な意図が入り込む映像は、無意識や偶然性が求められるシュールレアリスムには向いていない表現手法だったのかもしれません。

4位 サーカス 3.5

サーカスというドタバタにはうってつけの舞台を用意しながら、むしろその舞台裏で多くの笑いどころを作っており、チャップリンが試みてきたドタバタとストーリーの融合の一つの到達点とも言える作品。
一団が去った後、たった一人でトボトボと歩き出すラストシーンに象徴されるように、哀しさよりもそれを受け入れた先にある寂しさが強調されています。

3位 カリガリ博士 4.0

映画創成期を代表するスリラーの名作であり、ドイツ表現主義の象徴的作品です。
夢遊病者を操り殺人を繰り返す狂人カリガリ博士と、友人を殺された主人公の攻防を描いています。
そしてアイリスショットが執拗に繰り返され、一連の物語が誰かの脳内の断片的な記憶を覗き見て繋げたものであるかのような感覚になります。
そしてそれが単なる視覚的な演出ではなく、二転三転するストーリーのタネと結びついているのだから見事です。
歪んだ背景や家具の異様さは作品の恐ろしい雰囲気を決定付けており、観る者の不安を煽ります。
さらにそれが作り手の芸術的表現というだけでなく、主人公の内面を表しているものだったと判明した時の驚きは素晴らしかったです。

2位 チャップリンの黄金狂時代 4.0

数々の名シーンで知られるチャップリンの代表作。
序盤の30分は雪山で飢えをテーマに得意のドタバタコメディが繰り広げられ、靴を食べるギャグは良く知られています。中盤の30分はロマンスパートになっており、映画史上最も切ないカットバックの中で、チャップリンはこちらも有名なパンとフォークのダンスを披露します。終盤は再び雪山でのドタバタをはさんだ後、ほろ苦いハッピーエンドへと向かいます。
ストーリーテリングにまだぎこちなさはあるものの、悲劇と喜劇のコントラストをこれまでにないほど見せつけた傑作です。

1位 キッド 4.5

ドタバタコメディから完全に脱却し、映画としての物語を完成させたサイレント期を代表する名作。
窓ガラス修理の自給自足や夢の中でのワイヤーアクションなど、有名な笑えるシーンの数々をつなぎ合わせているのは、現実の厳しさを見せつけるようなシーンと涙を誘うシーン。
笑いと涙、喜劇と悲劇が絶妙なバランスで配置されています。
とってつけたようなハッピーエンドですが、チャップリンの横顔と背中から感じられるのは再会の喜びというよりも戸惑いであり、必ずしもハッピーではない10分後の展開を想像させる余白が素敵です。


いかがでしたでしょうか。
1920年代は映画が芸術と娯楽産業の双方でめざましい発展を遂げた時代でした。

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