今回の記事では、公開年別のマイベスト映画作品をご紹介します。
評点は5.0~1.0まで、0.5点きざみの9段階評価で、平均以上となる3.0以上の作品をランクインさせています。
今回取り上げたのは1930年代で、13本の作品が3.0点以上でした。
13位 キング・コング 3.0
特撮技術を駆使して作り上げられた怪獣映画の金字塔。
無骨ながらも正義感あふれる勇敢な男に、か弱くもいざと言う時はたくましい美女、ストーリーを進行させる強引な脇役とそのキャラクター造形はあらゆるパニック映画、アドベンチャー映画のひな形として、計り知れない影響を与えています。
コングの表情やしぐさは愛らしく、怪物感は薄めです。むしろ動物っぽさがあるので、恐竜や大蛇の倒し方がエグいのがやけにリアルでした。
ジャングルでの怪獣同士の闘いも良いのですが、やはりクライマックスでのニューヨーク上陸後の大都会とコングという違和感のあるコントラストが魅力的でした。
12位 透明人間 3.0
映像でこそその設定が活かされる透明人間ものの古典。
主人公のマッドさが冒頭からフルスロットルで、置いてけぼり感は否めないのですが、その大胆さと強引さはただでさえ尺の短い作品のテンポをさらに押し上げていました。
その後も狂いぶりが落ち着くことはなく、いたずらレベルから殺人まで、暴虐の限りを尽くしていく容赦のなさが良かったです。
当時にしては、という枕詞が不要なほど映像技術も素晴らしく、制作者の創意工夫が感じられました。
あっさりしたクライマックスには物足りなさがあるものの、きちんとオチをつけてくれるあたり満足度は高かったです。
11位 ミッキーのお化け退治 3.0
ミッキーたち扮するゴーストバスターズが「キャスパー」に出てくるようなイタズラ好きのチンピラ幽霊たちに立ち向かう短編アニメーション。
その設定はシンプルながら先駆的なアイディアでした。
されるがままのミッキー、怒り狂ってツッコむドナルド、ボケを上塗りするグーフィーと三者三様のリアクションが楽しめます。
流れるような展開からの見事なオチも良かったです。
10位 フリークス 3.5
カルト映画の古典として名高い映画史上屈指の問題作。
サーカスの一座では自らを見せ物とすることを生業にした人々が共同生活を送っていますが、そこには健常者と障碍者の間の隔たりがあります。
ステレオタイプな描き分けによって障碍者側に感情移入させられた後のクライマックスでは、地を這うフリークスたちの姿に怪物映画でモンスターに対して抱くのと同じ恐怖を感じている自分に気がつきます。
醜い人間は異形の姿をした障碍者たちなのか、彼らを見下し陥れようとした健常者たちなのか。
自分の価値観が試されているようで心が揺さぶられました。
9位 ミッキーの移動住宅 3.5
後に「ピノキオ」「ファンタジア」「ダンボ」とディズニークラシックの名作を手がけるベン・シャープスティーンによる短編アニメーション。
ワクワクする未来的ハイテク移動住宅で暮らすミッキーたちの身に起こる騒動を描いています。
前年の「大時計」でもアクロバティックなアクションを披露していましたが、今作ではスリル満載な下り坂でのアクションだけでなく、ドナルドに追い払われた鳥が画面に向かって飛んでくるようなダイナミックな映像表現まで大いに楽しめました。
グーフィーのおとぼけなキャラを活かしたオチも素晴らしかったです。
8位 三十九夜 3.5
ヒッチコックのイギリス時代の集大成的作品。
テンポよく進むストーリーの中に列車や羊の群れ、手錠、そして何と言ってもミスター・メモリーと効果的なギミックを散りばめており、無駄のない展開は物足りなさを覚えるほどです。
特に手錠は相変わらず取ってつけたようなロマンスを盛り上げており、小粋なラストカットにも役立っています。
7位 M 3.5
ドイツの巨匠フリッツ・ラングの代表作である名作サスペンススリラー。
実在した殺人鬼をモデルに少女を標的に起きる連続殺人事件の顛末を追う側と追われる側双方の視点から描いた物語です。
トーキー黎明期に制作され、言葉に頼らない映像的な語りを保持しつつ、口笛という音を巧みに活かした演出で映画表現の可能性を押し広げた手腕は巨匠の名に恥じぬものでした。
二方向からの捜査が中盤で突然進展すると同時に、視点が追われる側へとガラリと切り替わる大胆な構成は斬新で、それにより作品に多角的なメッセージを持たせることにも成功しています。
特にクライマックスの裁判シーンはサイコキラーの痛切な叫びとオーディエンスの怒号が死刑制度の是非や集団心理の怖さを感じさせるのですが、序盤で挑発的な手紙を書いていたことを思い出すと全てが演技のようにも思えてゾッとしました。
いろんな見方ができるのはおもしろかったのですが、分散した視点を親への注意喚起という真っ当すぎるメッセージに集約してしまうのは肩透かしでした。
6位 ミッキーの大時計 3.5
ミッキー、ドナルド、グーフィーが時計台の掃除をする最中に様々な騒動を巻き起こす傑作短編アニメーション。
シチュエーションを活かしたコント集のような構成でストーリー性は皆無なのですが、短編の尺にそれが抜群にマッチしています。
特にグーフィーの高所でのアクロバティックなパフォーマンスが素晴らしく、よくできたカット割りと共に今作のハイライトとなっています。
3人揃っての可愛らしいオチも良かったです。
5位 西部戦線異状なし 3.5
初期のハリウッドを代表する反戦映画の名作。
ドイツ兵の目を通して反戦を訴える作品をアメリカ映画として作ったことが、直後に待ち受ける歴史を知る今では皮肉に感じてしまいます。
ピクニック気分で戦地へ向かった若い兵士たちを待ち受けていた過酷な現実は、英雄となる憧れを瞬く間に打ち砕き、死への恐怖は精神を破壊していきます。
そして戦地での死と隣り合わせの恐怖や仲間を失っていく恐怖よりも、地元に戻った時に感じた違和感、机上の空論への憤りはより強いメッセージとなって心に響きます。
化学兵器が導入され、悲惨な消耗戦となった第一次大戦は近代的な戦争の始まりであり、それゆえに戦地と国民とのギャップはそれまで以上に激しかったのかもしれません。
有名なラストシーンは映画史に残る悲しいカットバックです。
4位 バルカン超特急 3.5
そこにいたはずの人が忽然と姿を消し、誰もがそんな人はいなかったと言う。
覚えているのは自分だけで、記憶すら疑わしくなる。
そんな不条理劇のような展開は早々に切り上げ、老女探しのミステリー、犯人とのスリル溢れる攻防、そしてクライマックスの銃撃戦と息もつかせぬ展開で走り抜け、最後にはロマンスのおまけつきと、ヒッチコックのサービス精神が爆発した盛りだくさんのストーリーです。
3位 モダン・タイムス 4.0
サイレントとトーキーを絶妙に使い分けながら、労働から家庭まで、様々なシチュエーションで風刺の効いたギャグが矢継ぎ早に披露されボリューム満点です。ただ、場面設定の移行が早すぎて、シーン毎のツギハギ感は否めません。一連のストーリーとしての完成度はチャップリンの他作品に劣ると思います。
急速に資本主義化していく中で人間性が失われていく社会を皮肉りながら、批判を笑いに昇華する手腕は見事で、巧みに権力を描き分けています。思考停止して、目の前に現れた犯罪者らしき人を感情的に捕まえるだけの警察。思考はあっても感情が希薄で、生産性だけを求める雇用主。どちらも違う意味でロボットのようで、人間味がありません。
終盤、工場での労働から離れ、カフェで働き始めたチャーリー。歌詞を失いうろたえつつ、それでも愛する人と夢のために、デタラメながらも素晴らしい歌を披露します。チャーリーの歌声が流れる瞬間は鮮烈な印象を残し、このシーンであふれ出る人間性は前半での生産マシーンのような姿と好対照を成しています。
2位 或る夜の出来事 4.0
ラブコメの雛形を作った作品として、そして娯楽のための映画の完成形として、今後も永く語り継がれるであろう名作。
頼もしくて頭も切れるが見栄っ張りで意地っ張りな男と、勝ち気で世間知らずだが素直で大胆な女という二人のキャラクター。
最悪な出会いに始まり、止むに止まれぬ事情で行動を共にし、反発をしながらも協力して困難を乗り越え、お互いに意識し始めるがすれ違いと外的要因によって引き離される展開。
それら今作が作り上げたフォーマットは制作から一世紀近く経とうという現代においても、このジャンルの決まり事かのように絶大な影響力を持っています。
ただし、そんな歴史的な価値に留まらず、純粋にストーリーがおもしろく、台詞回しが抜群に心地良く、ニヤリとさせるシチュエーションを作り出す気の利いた演出と魅力的なキャラクターがいることに本作の価値があり、完成された娯楽作品としていつまでも楽しまれる要因なのだと思いました。
1位 街の灯 4.0
ドタバタを完全に卒業したチャップリンが描いたおかしくも悲しい愛の物語。
絶妙なすれ違いが生む笑いが後のコメディに与えた影響は計り知れません。
ラストシーンで”You”の一言に含まれた感情の交錯、”see”にこめられた何重もの意味はチャップリンが描いた悲劇と喜劇を凝縮した完璧なラストシーンです。
いかがでしたでしょうか。
1930年代は映画が産業として確立され、その作品としての質も大きく発展した時代でした。
次回の記事では、1920年代を取り上げます。
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