映画公開年別マイベスト 1950年

映画年別マイベスト

今回の記事では、公開年別のマイベスト映画作品をご紹介します。
評点は5.0~1.0まで、0.5点きざみの9段階評価で、平均以上となる3.0以上の作品をランクインさせています。

今回取り上げたのは1950年で、6本の作品が3.0点以上でした。

6位 歓喜に向って 3.0

巨匠ベルイマン初期のドラマ。
ヴァイオリニストの男が妻の死を知らされ、そこから7年前の結婚後に2人が辿って来た紆余曲折が振り返られて行く物語です。
まだ何も成し遂げておらず稼ぎも少ないのに野心と自尊心は高く、思うように評価されない慰めを外の女に求める夫としては最低な主人公にはまだ若い監督自身が明らかに投影され、スウェーデン映画界のレジェンド監督ヴィクトル・シェストレムがベルイマン後の名作「野いちご」に先立ち出演し、師匠的な役柄を演じているのも示唆的です。
ストレートなお話はありがちと言えばそうなのですが、分かりやすく感動して切ない想いに浸れる作品でした。
以前のベルイマン作品と比べるとクローズアップの使い方や画面の奥行きの出し方が秀逸なカットが増え、演奏中に鳴る電話をうまく使った演出も効いており、映像作家としての進歩が見られるのも良かったです。

5位 愛と殺意 3.0

イタリアが誇る巨匠ミケランジェロ・アントニオーニの監督デビュー作。
富豪の男が美しい妻の過去に疑念を持ち探偵に調査を依頼するが、それが皮肉にも妻とかつての恋人を引き合わせることになる物語です。
夫は嫉妬と言うより所有物を鑑定するように探偵を雇い、妻は昔の男への情熱が燃え上がる程に夫への嫌悪感が増していき、昔の男は再会によってかつて2人を引き裂いた事故への自責の念を募らせていきます。
探偵が夫の差金とは知らない妻が、昔の男に金儲けさせるためにわざわざ2人を引き合わせようとするも、ドロドロした展開に発展することはなく、むしろ不可抗力的に状況が解消されます。
しかし当然その先にハッピーエンドが待つはずもなく、すれ違う想いの連鎖によって図らずも全員が不幸になる虚しい愛の末路というテーマは、デビュー作にしてアントニオーニの真骨頂と言える気がしました。

4位 イヴの総て 3.0

上に行くためなら使える人脈はとことん利用し、世話になった人でも踏み台にするショービジネス界の恐ろしさをまざまざと見せつけたバックステージものの名作。
素直で純真に見えた人物に、計算高く自分を出しにする腹黒さが垣間見えた時の恐怖はさながらサイコスリラーでした。
終盤に秘密を暴かれた際の取り乱し方は、人間味というよりキャラのブレに感じてしまい、その後そしらぬ顔で賞を受け取り、感謝の言葉を述べる姿にはイマイチつながりませんでしたし、さらにその後の部屋でのファンに対する横柄で高慢な態度も違和感でした。
因果応報を思わせる強烈なラストを用意しているなら、真実を知られようと意に介さずにのし上がるような冷酷さと図太さを強調していた方が、その皮肉がより際立ったような気がしました。

3位 サンセット大通り 3.5

ビリー・ワイルダーが絶頂期に放ったハリウッドの光と影を描く名作。
同じく舞台裏の闇を扱って同年のオスカーを争った「イヴの総て」が、人を蹴落としてでも成り上がっていく人間の冷酷な恐ろしさと、去る人と来たる人との循環構造を描いているのに比べると、今作はモノクロからカラー、サイレントからトーキーへと移り変わる業界全体に押し寄せた時代のうねりの中で取り残されていった人々の悲哀をより大きな視点で見つめながら、それを1人の人物の狂気へと集約しています。
テレビが普及し始め、映画業界が変革を求められていた時代だからこそ、その流れを乗りこなせるか否かは当時の映画人にとって他人事ではないテーマだったのかもしれません。
哀しさと狂気が入り交じる壮絶なラストシーンの迫力は圧巻で、ラストカットでカメラへと伸ばされた手は、目新しいものへ飛びつく観客へと迫っているような気がしました。

2位 羅生門 3.5

黒澤の名を世界に知らしめた日本映画史上の名作。
芥川龍之介の二つの短編を組み合わせ、独自の結末を付け加えることで、初期の芥川作品に通底する人間のエゴというテーマはそのままに、まったく後味の違う作品へと仕上げています。
そこに見え隠れするのは単純な嘘ではなく、見栄や欲望という自分勝手な思惑で、コンパクトな尺の中に数多の感情が詰め込まれた構成は圧巻でした。
後に黒澤が作り出した数々の名アクションシーンに比べると、男2人の格闘シーンには決闘のカッコよさはまるでなく、醜い争いを傍観するような視点で描かれているのが印象的でした。
希望を持たせる結末を付け加え締まりを良くしたことは長編作品としては適切に思え、人間性を失わせないあたり黒澤っぽさも感じられるのですが、個人的には原作の持つ容赦のなさと受け手任せの余白の方が好みでした。

1位 忘れられた人々 4.0

ブニュエルがカンヌで監督賞を受賞したシリアスな傑作社会派ドラマ。
戦前の活動では映画監督というよりシュールレアリストという呼称がふさわしかったブニュエルが初めて主要な国際映画賞で評価を受けたメキシコ時代の代表作です。
貧しいながらも懸命に生きる人々をロケーション撮影で生々しく映し出すスタイルはネオリアリズモの作品群と見まごう雰囲気ですが、帰る場所などない少年たちのヒリヒリとした熱気は「シティ・オブ・ゴッド」の原型のようにも感じられました。
教育とは無縁で犯罪行為に手に染める日々を送る少年が罪悪感と求愛を垣間見せるも、年長者たちに引きずり降ろされる姿が哀しく胸を打ちます。
悪夢のシーンは少年の心境変化の発露として重要な場面でしたが、舞台を客席から遠巻きに眺めるような画面構成と必要性の分からないスローによって、センシティブさよりも異様な不気味さを感じさせるあたりにブニュエルらしさを感じました。
結末はその終えどころの唐突さも相まってあまりにも容赦のない強烈なラストシーンでした。


いかがでしたでしょうか。
1950年は巨匠・名匠の傑作が映画賞を賑わせた年でした。
次回の記事では、1963年を取り上げます。

コメント

タイトルとURLをコピーしました