映画公開年別マイベスト 1953年

映画年別マイベスト

今回の記事では、公開年別のマイベスト映画作品をご紹介します。
評点は5.0~1.0まで、0.5点きざみの9段階評価で、平均以上となる3.0以上の作品をランクインさせています。

今回取り上げたのは1953年で、5本の作品が3.0点以上でした。

5位 第十七捕虜収容所 3.0

名匠ビリー・ワイルダーによる脱獄ものの傑作。
第二次大戦中のドナウ川付近の捕虜収容所を舞台に、スパイと疑われたウィリアム・ホールデン演じる主人公が潔白を証明して本当の裏切り者を見つけ出そうとする物語です。
前半はそれなりに楽しく暮らす下士官たちの日常をユーモラスに描きつつ、時折ピリッとするバランスが巧みでした。
後半は孤立した主人公の孤独な戦いとなるのですが、コミカルなタッチは変わらずで、もう少しシリアスに舵を切ってしまっても良かった気がしますし、主人公が罠を仕掛けるような頭脳戦や駆け引きを見せてほしかったです。
それでも実質ワンシチュエーションの2時間を全く飽きさせない手腕はさすがでした。

4位 ピーター・パン 3.5

永遠の少年ピーターパンの活躍を描いたディズニークラシックの名作アニメーション。
親がおらずに大人になることを拒絶するピーターの存在は示唆的で、イマジネーションを否定する大人への抵抗というディズニーらしいテーマに置き換えられてはいるものの、ピーターとその手下の子どもたちの野蛮さには育児放棄によって人格を否定された子どもたちが抱える大人という存在への失望を感じました。
宿敵のフック船長は物理的に命を奪おうとしてくるあたり悪役としての恐ろしさは十分ですし、さらに単純な敵味方でないワニとインディアンの一族が利害を基準に絡んでくることで物語に奥行きが生まれています。
影を使った演出が冴えていて、ビジュアル的にも楽しめました。

3位 飲みすぎた一杯 3.5

チェコアニメ界の巨匠ポヤルの出世作。
酒に酔ったバイク乗りの青年が迎える悲しい末路を描いた人形アニメです。
地面の落書きにそっと微笑みを書き加えるような穏やかな主人公が豹変したようにスピードの出しすぎ、あおり運転、飲酒運転と危険な運転の数々を繰り返し、当然とも言うべき結末に至る物語です。
危うさを体感できるスピード感の表現が素晴らしく、まるでバイクに同乗しているかのような感覚になりました。
序盤にはカタツムリやちょうちょと触れ合うディズニー映画の主人公のような青年の純真さを描きつつ、攻撃性も垣間見せていることが意味深です。
単にお酒を飲んで運転するのは危ないという主張ではなく、お酒は人の秘めたる顔を解き放ち、それが時に死に至らしめることもあるのだと言われているような気がしました。

2位 ローマの休日 3.5

街中では出会うはずのなかった2人の束の間の邂逅を描いたロマンチックコメディの名作。
住む世界が違うことによるギャップ、お互いに隠しごとをしていることによるギャップ、それが絶妙な笑いを生んでいます。
主演2人の魅力が存分に映しとられていて、初期ハリウッドを代表する名匠の円熟の技が存分に楽しめます。
ただ、クラシックにありがちですが、恋愛モードへの唐突な転換はドラマチックなようで、やはり違和感は拭えませんでした。
また、ほろ苦くも爽やかな結末は良かったのですが、会見の場での思わせぶりなやり取りは、変な誤解を生みそうでハラハラしました。

1位 青春群像 4.0

イタリアが誇る巨匠フェリーニ初期の傑作で、キューブリックやスコセッシらが高く評価したことでも知られる青春映画の古典。
女好きで身を滅ぼす男の話を中心に、姉の駆け落ちを止められない男や芸術に身を捧げるも実らない男、そして彼らを眺めながら最後にはひっそりと旅立つ男を描いています。
エピソードの羅列的な構成で、ストーリーラインの弱さは否めません。
しかし、いい歳になってもまともに働くこともせず、現実逃避するかのように目の前の快楽に溺れる若者たちの群像劇には、90年代を生きたダメ人間にとってのバイブル的青春映画「トレインスポッティング」の原型が見られ、時代を経ても変わることのないモラトリアム期の若者の心情を描き出したという点で先駆的な作品であったことを感じました。
ラストには現実逃避を繰り返す日々から脱出する為にとりあえず街を出るけれど、かと言って何か当てがあるわけでも確信を得ているわけでもない不安感が漂っています。
ベッドで眠る友人たちから物理的に遠ざかるカットを並べて心情を表現すると同時に、幼くしてしっかりと働き、未来へのレールが既に敷かれているかのような少年との対比が鮮烈で素晴らしかったです。


いかがでしたでしょうか。
1953年は青春映画にラブコメにアニメーションとキャッチーなジャンルにおいて芸術性を発揮した作品が目立った年でした。
次回の記事では、1960年を取り上げます。

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