今回の記事では、公開年別のマイベスト映画作品をご紹介します。
評点は5.0~1.0まで、0.5点きざみの9段階評価で、平均以上となる3.0以上の作品をランクインさせています。
今回取り上げたのは1970年で、3本の作品が3.0点以上でした。
3位 鏡の中にある如く 3.0
ベルイマンが世界的巨匠としての地位を確立するに至った”神の沈黙”三部作の一作目であり、その後何度も舞台とすることになるフォーレ島で撮った初の作品。
統合失調症の治療から退院するも危うい精神を垣間見せる女、それを支えようと自らに言い聞かせるように愛の言葉をかけるも無力な医師の夫、家族からの愛に飢えながら湧き上がる性的衝動を姉に対しても抑えきれない17歳の弟、娘を案じ絶望する一方で題材としてその経過を観察したい好奇心にかられる父親。
文明から切り離されたような孤島で4人の家族はそれぞれが苦悩し救いを求めますが、そこに舞い降りるのは神ではなく病院へ連れ帰るためのヘリコプターという皮肉が強烈です。
神の救済は訪れないのだから愛という不確かなものを見出してすがるしかないという宗教観が主題ではありますが、それよりも3人の男に投影された無力感と孤独感、そして自己嫌悪が印象的で、特に娘への愛情よりも芸術家としての創作欲求が勝ってしまう父親の姿は芥川の「地獄変」に通じる狂気ぶりで、一見仲の良い一家に見えてもその関係が実は静かに破綻していることが示されてゾッとしました。
2位 夜 4.0
とある夫婦の愛が崩れていく一夜を描いた傑作。
精神に起因する愛を求めていたことに気が付いた妻と、肉体に起因する愛こそが愛だと信じて疑わない夫。そのすれ違いの溝は一晩の間に大きくなり、暴力的とも言えるラストのラブシーンで衝突を見せます。虚しい愛を描かせたら右に出る者はいないアントニオーニの真骨頂です。
まだ戦後十数年にも関わらずやけに都会的な建物と貧しさの残る光景が同居する街並みは、そのままこの二人の心のギャップを象徴しているように感じます。そしてその街並みをまるで絵画のように仕立てる光と影を駆使した画作りが秀逸です。
1位 用心棒 4.0
黒澤明が娯楽性を突き詰めた傑作アクション時代劇。
凄腕の浪人が対立する2つの勢力の間で巧みに立ち回り、両者共倒れを目論む物語です。
単純明快なストーリー、スピーディなアクションに適度なバイオレンス、トーンを崩さない程度のユーモア、そしてあごを撫でる仕草や粋な台詞回しを真似したくなるほど魅力的な主人公と娯楽作品としてのバランスが完璧でした。
仲代達矢演じる敵方のキレ者も効果的で、彼の存在によりそう簡単には事が運ばない緊張感が出ていたと思います。
時代劇らしからぬ音楽や衣装も印象的でしたが、特に良かったのはカメラワークで、シネスコサイズの画面をフル活用した見事な構図、望遠ズームで背景が流れることにより生まれる迫力は素晴らしかったです。
いかがでしたでしょうか。
1961年は各国の巨匠の傑作がそろった年でした。
次回の記事では、1940年代を取り上げます。
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