今回の記事では、公開年別のマイベスト映画作品をご紹介します。
評点は5.0~1.0まで、0.5点きざみの9段階評価で、平均以上となる3.0以上の作品をランクインさせています。
今回取り上げたのは1964年で、6本の作品が3.0点以上でした。
6位 シュヴァルツェヴァルト氏とエドガル氏の最後のトリック 3.0
シュヴァンクマイエルの映画監督としてのデビュー作は、意外にも生身の人間が登場する仮面劇でした。
デビュー作にはその作家のエッセンスが詰まっていると言われますが、たしかに今作には、役者も人形も小道具もアニメも全ては自分の脳内イメージを具現化するためのツールにすぎないと思っていそうな演出態度はすでに確立されています。
オープニングから曲をぶつ切りにし、人に不快感を与える天性のセンス、偏執的に繰り返す構成、それら「シュヴァンクマイエル的」な要素があちこちにあふれています。
5位 幸福 3.5
絵に描いたような幸せな家庭の変化を描くゾッとするような物語です。
罪悪感のかけらもなく愛人を作る夫、愛人でも構わないと言う女、突発的な行動に出る妻。
登場人物の心情が描かれないことでその言動は唐突かつ不可解に感じるのですが、そこで起きている出来事だけを並べると割とありきたりになるギャップが恐ろしかったです。
子どもたちを送り、ベッドで愛し合い、そして四季の移ろいを感じながらピクニックを楽しむ。
そんな幸せな家族を象徴するような一連のシークエンスの中で、妻が入れ替わっていても、母親が入れ替わっていても、何事もなく過ごす一家の姿はこの上なくブラックでした。
4位 2000人の狂人 3.5
南部の町に迷い込んだ北部の若者6人が見舞われる惨劇を描いたスプラッター映画のカルト的傑作。
前作では殺人に一応の理由があり、自分を正当化しながらも、隠したり逃げたりする描写からそれが罪であると分かっている様子がありましたが、今作では用意周到ではあるけれど雑な仕掛けを用いて、それがまるで単なるイタズラであるかのように楽しみながら行っているところに狂気が感じられました。
音楽も前作では儀式っぽいドラムの音が使われていましたが、今作では陽気なカントリーが流れ続け、その明るさがより狂気じみていて良かったです。
残酷描写もパワーアップしていますし、南北戦争を背景にした予想外の結末も驚きました。
3位 荒野の用心棒 3.5
マカロニウエスタンの一大ブームを巻き起こした記念碑的作品。
無骨だが優しい面があり、銃の腕が立つだけでなく頭もきれる。リンチされて死にかけることがあっても持ち前のタフさで生き延び、たとえ汚い手を使ってでも目的を果たす。このダーティハリーにも通じるイーストウッドのパブリックイメージは、この作品の主人公によって形作られたといっても過言ではないでしょう。
あれだけの実力差があるならばもっと効率的な稼ぎ方がある気がしますが、そんなストーリー運びの粗さを補うだけの魅力がキャラクターにあります。
2位 赤い砂漠 3.5
アントニオーニ初のカラー作品であり、その色彩感覚を遺憾なく発揮した佳作。
得意のロングショットで空気と海を汚染する工場地帯をまるでモノクロのようにとらえ、それが色鮮やかなシーンと好対照を成しています。
ストーリーは主人公の不安や孤独感を断片的な出来事に重ねてつなぎ合わせたようなもので、結末に至ってもほとんど何も進展せず、抽象画を観ているような感覚が残りました。
1位 博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか 4.0
ブラックコメディの傑作。
ストレンジラブ博士を筆頭としたキャラクターの強烈さ、ストーリーの間抜けさは、カリカチュアライズのお手本のようです。
終始おふざけのようなシーンが続く中で挿入される戦闘シーンの妙なリアリティが、作戦室と戦場の温度差を感じさせます。
ラストのオチは今でこそ突飛に感じますが、制作年代に気が付いた時にゾッとさせられます。
いかがでしたでしょうか。
1964年はアートフィルム、カルトムービー、マカロニウエスタンと個性の強い作品がたくさん生まれた年でした。
次回の記事では、1957年を取り上げます。
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