今回の記事では、公開年別のマイベスト映画作品をご紹介します。
評点は5.0~1.0まで、0.5点きざみの9段階評価で、平均以上となる3.0以上の作品をランクインさせています。
今回取り上げたのは1965年で、6本の作品が3.0点以上でした。
6位 アルファヴィル 3.0
人間的感情が失われたディストピア的な近未来都市を舞台にスパイの奮闘を描いたゴダールのフィルモグラフィにおける異色作。
翌年にトリュフォーも「華氏451」で書物が禁じられた近未来を描いていますが、今作でゴダールがモノクロで撮っただけのパリの街の方が古臭くない未来像を感じさせるのは驚きでした。
ストーリーは平凡ですし、派手なアクションもなければスパイものらしいスリルにも欠けるのですが、美しさと冷たさを映し出す画作りの素晴らしさだけで観ていられました。
それだけに例のごとく引用を多用してひたすら言葉で語ってしまうのがもったいなかったです。
5位 カラー・ミー・ブラッド・レッド 3.0
スプラッター映画の元祖となったハーシェル・ゴードン・ルイスの初期三部作の三作目。
血の赤色に魅入られた芸術家の狂気を描いており、芸術至上主義的なテーマを感じさせつつも、その内面を掘り下げていくよりもあくまで娯楽作品に徹しているところに好感が持てました。
三部作の中では残酷描写がもっともソフトで物足りなさはあるのですが、その分ストーリー性にはもっとも優れており、構成力も格段に改善されていました。
一方で、カットのつなぎのぎこちなさ、フィルムの節約的な引きでの長回し、フォーカスの甘さといったテクニカルな面は素人目にもその疎さが分かるほど進歩がないのですが、それも一つの味として楽しめるのだから不思議でした。
4位 石のゲーム 3.0
時が来ると蛇口が石を絞り出し、石たちは音楽に合わせてダンスするように動き回る。
モノトーンの美しさに見とれ、オルゴールの音色に聞き惚れていると突然訪れるパターンの崩壊と静寂。
永遠に続きそうな規則性とその唐突な瓦解を描く展開は、社会主義国家の閉塞感と解放への渇望を表現する上でのシュヴァンクマイエルの十八番となりました。
石で作ったアルチンボルド風の人物が登場したり、互いに喰らい合う展開は後の傑作「対話の可能性」を予感させます。
3位 バニー・レークは行方不明 3.5
オットー・プレミンジャーのキャリア晩年の秀作ミステリー。
保育園に預けた娘が姿を消すも、その行方はおろか存在自体が認識されておらず、警察には逆に嫌疑をかけられる中、娘を探して奔走する母の物語です。
捜索の前提を証明しなければならない良質なミステリーである前半は疑わしい人物が次々と現れて的を絞らせてくれず、それに飽きる前に真実を明かして以後は一気にトリッキーなサスペンスへと傾く構成が素晴らしいです。
ゾンビーズ始め真相とは関係のない撹乱要素がやけに印象的なのも上手かったと思います。
儚げな美しさのキャロル・リンレーも得体の知れない雰囲気のキア・デュリアもハマり役でした。
ソール・バスの秀逸なタイトルデザインも作品の質を一層引き上げていました。
2位 夕陽のガンマン 3.5
マカロニウエスタンの代表作であり、西部劇の傑作。
特徴的な音楽と極端なクローズアップの連発がやはり印象的で、それが洗練されているとは思いませんが、その荒さが唯一無二の個性となっています。
ワイルドな自己紹介のシーンを筆頭に、凄腕の賞金稼ぎ2人の関係性は魅力的に描かれていました。しかし2人と悪党たちの間に力の差がありすぎて、逆に仕事として成り立っているのか心配になるほどでした。
それだけに、ボスには姑息な真似をせず、最後まで大きな壁であってほしかった気がしました。
1位 気狂いピエロ 4.0
男女の刹那的な逃避行の物語を思索的なフレーズを断片的に散りばめながら、鮮やかな色彩と共に描いたゴダールの代表作。
哲学的な問いかけ、ミュージカルのようなかけ合い、本の朗読、劇中劇、詩の引用とあらゆる言語的表現を取り入れ、時にはカメラ越しの観客へのつぶやきやト書きをそのまま読んでいるかのようなナレーションで得意の越境表現も使いながら、言葉と映像を巧みにコラージュし、その思想を表現しています。
芸術と表現に対するスタンス、人生における愛の捉え方、男女のディスコミュニケーション、アメリカに対する文化への憧れと国家への怒りが入り混じった愛憎、ベトナム戦争とメディアへの批判的な見解、そんなテーマが浮かび上がっていると感じます。
衣装や家具といった人工物と自然を組み合わせた色彩が美しく、スクリーンをキャンバスとして使うかのような原色の配置が素晴らしいです。
港での再会前後からストーリー的な推進力が失われていく気がしますが、皮肉で自虐的な結末は鮮烈な印象を残します。
いかがでしたでしょうか。
1965年はヨーロッパ製の作品や低予算作品が目立つ中でゴダールが2本の傑作を放った年でした。
次回の記事では、1959年を取り上げます。
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