今回の記事では、公開年別のマイベスト映画作品をご紹介します。
評点は5.0~1.0まで、0.5点きざみの9段階評価で、平均以上となる3.0以上の作品をランクインさせています。
今回取り上げたのは1966年で、8本の作品が3.0点以上でした。
8位 大魔神 3.0
大映が誇る特撮シリーズの一作目。
人間の愚かで無礼な振る舞いに怒った武神が成敗を下す物語です。
腕をかざすと穏やかな表情が鬼のように変化して暴れ回る大魔神の姿は強烈なインパクトで、特撮も十分に見応えのある仕上がりでした。
善悪の区別なしに人間たちに罰を下す魔神は自然災害のメタファーのようで、自然の中に神を見い出す日本人らしい発想が感じられておもしろかったです。
7位 続・夕陽のガンマン/地獄の決斗 3.0
この時期量産されたマカロニウエスタンの中でもとりわけ名作として評価の高い作品。
ガンファイトにだまし合い、リンチに首吊りに一攫千金とらしい要素をこれでもかと詰め込んだこのジャンルの集大成的な仕上がりです。
3人のメインキャラクターの個性が絶妙なバランスで成り立っており、タイトルのように善い者と悪い者では単純に割り切れない関係が魅力的でした。
中盤は戦没者への弔いまで盛り込んでしまいややダレている気がしますが、クライマックスの三つ巴の決闘からオチまでの緊張感は素晴らしいです。
6位 エトセトラ 3.0
執拗なまでの反復。そこに生まれるリズムは不思議な心地よさと同時に、これが永遠に抜け出せない迷宮であるかのような不安感を生み出しています。
この「繰り返し」は後の作品でも何度となく使用されるシュヴァンクマイエルの代名詞的なフォーマットです。
毒気が薄く、物足りなさはありますが、最小限の起承転結を成立させており、子供にも見せられる数少ないシュヴァンクマイエル作品です。
5位 仮面/ペルソナ 3.0
スウェーデンが誇る世界的巨匠ベルイマン中期の代表作。
人格が分裂し、対立し、統合する様を抽象的なモンタージュと2人の女の対話劇を通して描いた物語です。
冒頭の映像のコラージュは生と死、神、性といったベルイマン的なモチーフからカートゥーンまで、映画という媒体の様々なチャンネルの中からこれから流れる内容をチューニングしているかのようでした。
そこからのオープニングクレジットと病院のシークエンスは撮影もライティングも編集も神がかっており、特に画面の中のどこに何を配置するかという点でベルイマンのセンスがずば抜けていることを如実に示しています。
妻として、母としての重圧から逃れるために自分を偽り、仮面を被って誰かを演じることの是非を自問する 2人のやり取りは、死体のように安置された少年が観る劇中劇として配置されているように見えました。
答えの出ない2人の行く末よりもむしろ、冒頭よりもぼやけ、やがて消えていく顔を恋しげに撫でる少年の方にこそ焦点が当てられているように思えてなりませんでした。
4位 アルジェの戦い 3.5
アルジェリア戦争下における出来事をリアリスティックに描いてヴェネツィアで最高賞を得た戦争映画の傑作。
刑務所を出てからゲリラとしてフランス国内での暗殺やテロ行為に身を投じていく青年を中心に、仲間のゲリラたちやそれに対抗しようとする政府軍の様子を描いています。
元々ジャーナリストだったポンテコルヴォらしく日時を示しながら事実に基づく出来事を断片的に映し出すことで、アルジェリア独立に至るまでの凄惨な争いの数々を物語っています。
爆破テロや銃撃戦にで死傷する人々を淡々と見せていくのが恐ろしいですが、市民の間に不安が高まるとそれが記号としてのアラブ人への憎しみに代わり、無関係の老人や少年に報復の矛先が向く場面はもっとゾッとしました。
もちろんテロも無関係な市民を巻き込む卑劣な行為には変わりなく、暴力の連鎖の虚しさを厭世的にではなく、パワフルに見せつけてくる作品でした。
3位 修道女 3.5
カトリック教会の反対運動による数年間の上映延期を経て公開されたジャック・リヴェットの代表作。
意に反して修道院に入れられた女が院長次第で方針の変わる腐敗した環境の中で翻弄される物語です。
教会の反応も分からなくはないですが、それよりもむしろ策略だらけの組織の中で長いものに巻かれることを拒む者の生きづらさという60年代らしい体制による支配への反発が強烈に描かれていると感じました。
檻や格子が直接的に主人公の閉塞感を表す映像的な巧みさだけでなく、吹き荒れる風の音や打ち鳴らされる鐘の音といった映像内には存在しない音で心理状態を効果的に示す演出が秀逸です。
前半でじわじわと追い詰められた後の中盤の過酷さをハイライトに、後半またペースを落とし、そこからの展開に気を持たせた直後に唐突に訪れるあまりに冷徹な結末はショッキングながら、物語の着地として凄まじく説得力がありました。
2位 華氏451 4.0
書物が禁じられ、ファイアーマンこと消防士の仕事は本を探し出し焼き尽くすこととなった近未来の世界を描いた寓話的SF。
国民の思想を統制し管理下に置こうとする全体主義的な国家への批判であり、どこか滑稽な未来像は資本主義への風刺でもある気がします。
本の扱いはまるで現代社会におけるドラッグで、主人公の本への傾倒が危うい恋と重ね合わせて描かれています。
人間にとって価値あるものは思考であり、その結果としての知識こそ、人間らしい文明の源であり、その象徴としての書物は風刺にするには直接的すぎるアイテムな気がしますが、ロマンティックでありながら理にかなっている結末が素晴らしいです。
1位 欲望 4.5
カンヌ映画祭でパルムドールを受賞したアントニオーニの代表作。
逢引を盗撮した写真を現像すると、そこには死体が移っていた。ここから写真家の主人公はその謎に巻き込まれるというより、取りつかれていきます。
ミステリー風のストーリーが不条理劇へと化していく様はシュールかつスリリング。アントニオーニとしては珍しく愛を主題とせず、存在の不確かさや価値の曖昧さに焦点を当てています。
狂騒の対象だった物が一瞬でガラクタになるライブシーン、見える物と見えない物の境界がなくなった瞬間に、存在しなかった物は音を立てて姿を現し、存在していた者の姿は消えてなくなるテニスシーンと、終盤の畳みかけるような名シーンの連発は映画史上屈指のクライマックスです。
いかがでしたでしょうか。
1966年はニューシネマ前夜のアメリカ映画の停滞とは対照的に、ヨーロッパ映画に元気のあった年でした。
次回の記事では、1953年を取り上げます。
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