今回の記事では、公開年別のマイベスト映画作品をご紹介します。
評点は5.0~1.0まで、0.5点きざみの9段階評価で、平均以上となる3.0以上の作品をランクインさせています。
今回取り上げたのは1974年で、8本の作品が3.0点以上でした。
8位 サブウェイ・パニック 3.0
70年代の映画ブームの最中公開された作品の一つであり、シチュエーションサスペンスの佳作。
ニューヨークの地下鉄を舞台にハイジャックされた人々のパニック、そして犯人グループと交通局側との駆け引きを描いた物語です。
スリリングな展開の中にも乗客や市長を使ったユーモアが顔を出し、作品のテンポに緩急を付けているのが巧みでした。
冒頭から時折差し込まれるいかにも70年代風のケレン味あふれる音楽も素敵でした。
限定空間から脱出する方法が肝になっているだけに、そのピークの後の展開をどうするのか心配でしたが、伏線を見事に回収する鮮やかな幕引きで素晴らしかったです。
7位 ゴッドファーザーPARTⅡ 3.0
映画史上指折りの傑作続編として一作目にも劣らぬ評価を受ける一大叙事詩。
前作で組織を引き継いだ2代目と、若き日の初代のエピソードを交互に描き出します。
組織としてのファミリーと家庭としてのファミリーが、着々と築き上げられていく過程と奮闘むなしくバラバラになっていく様が鮮やかに対比されています。
何気ない家族の一場面への回想で物語を終える辺りは、男としていかに家族を守り成すべき仕事を果たすかという前作から変わらぬテーマを感じさせます。
しかしそのテーマに200分間集中し続けられるほど惹かれたかといえば、個人的にはそうでもありませんでした。
6位 ある結婚の風景 3.0
とある夫婦の関係が変化し、やがて崩壊していく過程をベルイマンが描いた六話からなるテレビシリーズ。
優しいようで自己保身や責任逃れの勝手な言動をする夫と、献身的なようで実際は依存的で無神経な面を見せる妻、別れを口にしながら熱いキスを交わす2人の姿は夫婦のあるあるとは程遠い気がするのですが、惹かれ合うほど反発し、愛するほど憎たらしくもなる感情は決して特殊ではないような気もしました。
夫婦という形態が愛し合うペアであると同時に、共同生活する家族でもあることの難しさがよく表現されていました。
2人は互いに同じような日々が繰り返されることにうんざりしていましたが、むしろその日々の反復を尊く思えなければ、関係は続かないことが痛いほど伝わってきます。
五話目は特に痛ましく、罵り合いや殴り合いよりも、虫メガネでおどけて飄々としたフリをする妻が哀しかったです。
一話目の冒頭でその存在を示しながら、その後子どもたちを不気味なほど登場させないのは、2人の揺れ動く感情が父と母としてではなく、夫と妻という立場に拠っていることを際立たせていました。
5位 ファントム・オブ・パラダイス 3.0
「オペラ座の怪人」などを下敷きにしたデ・パルマ流のロックミュージカル。
自らの曲をレコード会社に横取りされてしまった挙句、投獄され、さらには顔も声も失ってしまった作曲家が劇場に潜む怪人と化して復讐を期する物語です。
状況設定を猛烈な勢いで仕上げてみせる冒頭の30分が凄まじく、特に脱獄からレコード会社へ踏み込む件は素晴らしかったです。
中盤ややトーンダウンかつ話の収集がつかなくなっていきますが、クライマックスのカオスな狂騒ぶりはキレイにまとめる気など更々ない潔さで良かったです。
公開当時は酷評されたそうですが、「ロッキー・ホラー・ショー」や「トミー」よりも先にこれを作ったデ・パルマのセンスがすごいですし、大した実績もない若手監督にこれだけ好き放題撮らせたのも驚きです。
4位 ラビッド・ドッグス 3.5
イタリアンホラーの巨匠マリオ・バーヴァが晩年に監督したクライムスリラー。
強盗犯が買い物帰りの女性と病気の子どもを病院に運ぶ途中だった父親の3人を人質にとって車で逃亡を図る様をスリリングに描いたワンシチュエーションのストーリーです。
70年代に入って興行的に苦戦が続いたバーヴァが路線変更を期して挑み、大方撮影を終えるも資金難で生前の完成と公開には至らなかった作品を後に息子のランベルトが仕上げています。
その気になればここまで作家性を薄めながら良質な娯楽作品を作れることにバーヴァの演出家としての底力が感じられます。
短気な小心者、下劣な大男、理性的なリーダーと犯人グループのキャラクターのバランスが良く、次々とハプニングが起きては切り抜けていく飽きさせない展開も素晴らしかったです。
そして颯爽と駆け抜けるまさかのラストも切れ味抜群でした。
3位 自由の幻想 3.5
ルイス・ブニュエル晩年の傑作コメディ。
意識の飛躍を登場人物間のバトンタッチによって映像化して物語の筋を追いかけようとする観客を煙に巻く手腕は円熟の域に達しており、しかもそれを悪夢的にではなく、シュールなコント集のように描くあたりに懐の深さを感じさせます。
特に中盤の食事と排泄が逆転した食卓のバカバカしさ、娘を連れて行方不明の娘を探す不条理さは素晴らしかったです。
ゴヤにフラメンコとスペイン出身らしい要素を散りばめる遊び心にもニヤリとさせられました。
物語ることを放棄し、主人公を置くことを拒絶したスタイルは、自身を物語の主人公として人生に意味を見出そうとする人々を嘲笑うかのようですが、そんな推察をサラリとかわしていく軽快さと毒気を合わせ持った作品を70歳を超えてから作ってしまうブニュエルの鬼才ぶりを堪能できる作品でした。
2位 まわり道 3.5
ロードムービーの名手としてのヴェンダースの作風を形作った初期の代表作の一つ。
母に促され、作家としての経験を積むために旅に出た主人公は、途中何気なく仲間を得ながら移動を続けます。
明確な終着点もないまま続く旅の中で、それぞれが自身の哲学を論じ、自作の詩を披露し、昨晩の夢を語ります。
しかしそこに建設的な会話はなく、不毛なコミュニケーションが行われます。
口をきかない少女の眼差しが最も雄弁なのがなんとも皮肉でした。
旅と旅先で出会う人々との交流は、作家としての人生経験という目的をまるで果たさず、虚しさだけが募っていきます。
5人が合流と分裂を何気なく繰り返しながらそぞろ歩くシーンは作品のテーマを象徴しているようで素晴らしかったです。
1位 悪魔のいけにえ 4.0
80年代のスラッシャー映画や00年代のフレンチホラーを筆頭に、後のホラー映画に絶大な影響を与えた伝説的な傑作。
観客を驚かせることが恐怖演出だと勘違いしている作品も少なくない中で、恐怖すら越えた理解不能な不快感と不安感を強烈に与えるこの作品はホラー映画の極地に達したと言えます。
その感情がショック演出や残酷描写によるものでなく、画面から溢れんばかりの理不尽さによるものであるのは、レザーフェイスによる殺戮シーン以降の方が恐ろしいことから分かります。
日常が何の因果もなく唐突に奪われる恐怖、常軌を逸した一家のコントのように家庭的なやり取り、ラスト10分間のカオスからの鮮烈なラストカット、そのすべてが素晴らしいです。
いかがでしたでしょうか。
1974年はスリリングなサスペンスから重厚な人間ドラマ、アートファイルにスラッシャーホラーまでバラエティ豊かな傑作が生まれた年でした。
次回の記事では、1982年を取り上げます。
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