映画公開年別マイベスト 1980年

映画年別マイベスト

今回の記事では、公開年別のマイベスト映画作品をご紹介します。
評点は5.0~1.0まで、0.5点きざみの9段階評価で、平均以上となる3.0以上の作品をランクインさせています。

今回取り上げたのは1980年で、8本の作品が3.0点以上でした。

8位 ザ・フォッグ 3.0

B級ホラーの帝王ジョン・カーペンターが出世作「ハロウィン」に続いて手がけたオカルトホラー。
かつて殺害されて財産を奪われた富豪たちの怨霊が、100年の時を超えて子孫たちに復讐するために霧と共にやって来る物語です。
怨霊たちは事前にその到来を霧で教えてくれるので、ブギーマンのような神出鬼没さはないですし、パワフルさや不死身さもありません。
残虐シーンもなければ殺される人も少ないので恐怖の対象としてはパワーダウンしているはずで、前半は退屈さも否めないのですが、それでも怖くておもしろいのは演出力の賜物で、特に霧が意志を持ったように忍び寄っていく場面は美しくすらありました。
モンスターやスプラッタ描写を期待してしまうと肩透かしですが、心霊映画をカーペンターお馴染みのフォーマット”籠城して撃退する”に落とし込んだ作品として観るのが正解だった気がします。

7位 グロリア 3.0

ハードボイルドな世界に母性を持ち込んだ唯一無二の傑作サスペンスアクション。
冒頭の展開を筆頭に設定が「レオン」と比較されることの多い本作ですが、年齢を超えた危険な恋愛という印象が強いあちらに比べると、こちらは血の繋がりを超えた親子愛なのでだいぶ印象は異なりました。
むしろやむなく行動を共にした二人が衝突しながらも関係性を築いていく過程には、制作年代の近い「クレイマー、クレイマー」を思い起こしました。
話が進むに連れて主人公の言動を少年が真似するようになっていくことで、二人の関係の深耕を表す演出もうまかったです。
本人自身が途中で勝ち目がないと悟りながらも引き返せない逃避行はニューシネマ的で、考察を生んだ終盤のシークエンスとも相まって切なさを煽ります。
ただ、マフィアの追及がゆるめなので話せば分かってもらえそうに感じてしまい、二人が行き場を失っていく心細さや八方塞がりな閉塞感が弱まっているだけでなく、ストーリーからスリルが失われているのは難点だと思いました。

6位 ブルース・ブラザース 3.0

ドタバタな展開と無表情な二人のギャップがおかしい傑作音楽コメディ。
バンド仲間を集める旅路の最中に、行く先々で騒動を巻き起こしていく兄弟の物語です。
タイトルからブルースへの引用や言及が多いのかと想像していましたが、ソウルにゴスペルにR&Bといわゆる黒人発祥音楽の名曲を網羅的に登場させ、ジェームズ・ブラウンにアレサ・フランクリン、レイ・チャールズといったビッグネームがそのパフォーマンスを披露する豪華な内容でした。
いかにも保守的な白人層が集まるカントリーバーでの音楽的趣向の違いによるギャグも、音楽映画ならではで良かったです。
本筋とは関係ありませんが、序盤のJCペニー内でのカーチェイスで二人が呑気に品揃えの豊富さに感心するギャグは、小売の実店舗が崩壊した現代では成立しなくなっており、まだショッピングモールの物質的豊かさで消費者が満足できていた時代へのノスタルジーを感じられました。

5位 インフェルノ 3.0

前作「サスペリア」、プロデュースしたロメロの「ゾンビ」と立て続けにヒットを飛ばしたダリオ・アルジェントが続けて手がけたオカルトホラー。
ニューヨークのマンションに隠された秘密と、その秘密に近づいて命を落としてゆく人々の物語です。
赤と青のライティングが冴える独特の映像美と手の込んだ惨殺シーン、マッチしているのか否か分からない音楽の使い方、そして添え物程度の扱いで雑に片付けられるストーリーとアルジェント節を存分に堪能できました。
特に猫にネズミに虫にと生き物たち大活躍の演出には、デビュー以来のこだわりを感じニヤリとさせられます。
ただ全体的に「サスペリア」の二番煎じ感は否めず、しかもどの要素においても前作より劣っているのが残念で、画を持たせるジェシカ・ハーパーのような存在がいないのも弱みに感じました。

4位 殺しのドレス 3.0

デ・パルマがヒッチコック愛を発揮したサスペンスミステリーの秀作。
殺人事件に巻き込まれた女性が自らも犯人に命を狙われながらも、真犯人を突き止めようと奔走する物語です。
ストーリー自体は際立ったものではなく、「サイコ」をオマージュした終盤に明かされる真相も驚くほどではないのですが、極端に奥行きを強調する構図やヌルヌルと動き回るPOVショット、鏡を使った惨殺シーンにまだ続くのかと思わせるしつこいエピローグなど、溢れんばかりに詰め込まれた演出やカメラワークのおもしろさだけでも十分に観る価値がありました。
個人的な趣味に走りがちなデ・パルマですが、今作では暴走することなく、観客の求める娯楽性の中に効果的に自分のやりたいことを盛り込んでいた気がします。
終盤で突如持ち上がる母親を失った少年とのバディもの的な展開もおもしろく、これだけで一本観てみたかったです。

3位 エレファント・マン 3.5

これが実在の人物を描いた物語であることがまずショッキングなヒューマンドラマ。
冒頭のシーン含め悪夢的なイメージからは、デヴィッド・リンチらしさが感じられました。
主人公には知性があって会話もできるが、それを示すのが怖かったと告白するシーンは、彼の背負った宿命と生きてきた環境が推し量られて良かったです。
しかし、人並みの知性と感受性がある一方で、人並みの暮らしをしてこなかったことによるピュアな心があることは分かるのですが、聖人かのような特別扱いをされることには違和感がありました。
彼を祭り上げることは彼を見世物にしたり、おもちゃや動物のように扱うことと変わらないのだと言っているような気もしたのですが、悲劇と絶望の底でストーリーを終えることはせず、安らかな死を与えて良い話として着地したことは少し残念でした。

2位 シャイニング 4.0

超常的な能力をタイトルにしながら、その存在をストーリーからほとんど排除し、あくまで人間の狂気を恐怖の根源として描いたキューブリック唯一のホラー。ホテルの造形や役者の表情、さらにはカーペットの模様に至るまで、印象的なビジュアルは後に数多くのパロディを生みました。商業的成功を条件に制作されたためか、キューブリックらしくないこけおどし的な演出も時折見られますが、それがとっつきやすさにもなっています。

1位 普通の人々 4.0

ハリウッドきっての二枚目として君臨したレッドフォードが監督初挑戦でいきなりアカデミーを制したヒューマンドラマ。
長男の事故死で残された両親と次男がそれぞれの傷を抱え、やがて互いの傷が家族の溝を深めていく過程を丹念に描く物語です。
次男は兄を慕っていたからこそ、多くの人にとり兄は自分よりも必要な存在であったと分かっていて、それゆえその心に罪悪感が重くのしかかっています。
愛されることに飢えた少年が恋や友人の悲劇を通じて家族との向き合い方を模索していく姿は「理由なき反抗」以来の王道でしたが、今作の肝はむしろ母親の描写にありました。
恐らくは愛情の唯一の向け先であった長男を失い、都合の悪い出来事はなかったことにして外面を取り繕い精神の均衡を保っている姿は痛ましかったです。
「クレイマー、クレイマー」では親子の絆の象徴だった朝食のフレンチトーストが、今作ではその断絶を効果的に表しています。
他にも灯りが漏れる息子の部屋を素通りしたり、写真撮影で爆発した息子より割れた皿を気にしたりといった描写の積み重ねが母親の心の歪みを見事に印象付けていき、葬儀の時でさえ夫のシャツの色を気にするというエピソードでその根深さが強調されます。
カウンセラーが有能すぎたり、周辺キャラクターの描き込みが物足りなかったりはしますが、名作の名に恥じない素晴らしい作品でした。


いかがでしたでしょうか。
1980年はホラーでありながら美しい名作、ドラマでありながら恐ろしい傑作など奥行きのある作品が印象的な年でした。
次回の記事では、1975年を取り上げます。

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