今回の記事では、公開年別のマイベスト映画作品をご紹介します。
評点は5.0~1.0まで、0.5点きざみの9段階評価で、平均以上となる3.0以上の作品をランクインさせています。
今回取り上げたのは1997年で、16本の作品が3.0点以上でした。
16位 メン・イン・ブラック 3.0
当時主演作が立て続けにヒットし、飛ぶ鳥を落とす勢いだったウィル・スミスをさらなるスターダムへと押し上げた大ヒットシリーズの一作目。
実は宇宙人は人にまぎれて地球で暮らしており、それを取り締まる秘密組織がいるという設定がまず楽しく、宇宙人たちとのコミカルなやり取りがおもしろいです。
2人の相棒であり師弟でもある関係性が微笑ましく、ストーリーは平凡ではありますが、娯楽作品として十分な仕上がりです。
15位 グッド・ウィル・ハンティング/旅たち 3.0
後に役者として大成功するマット・デイモンとベン・アフレックの幼なじみコンビが脚本を書いたヒューマンドラマ。
天才的な頭脳を持ちながらも育った環境によって心にトラウマを抱え、人との距離感をうまく測れずに不良仲間と荒れた暮らしを送る青年の成長物語です。
彼の才能を知った大学教授はその有効な使い道を提供しようとサポートする一方で自分が凡人であることが証明されるのを恐れ、彼の心の傷を癒そうとするもう一人の教授は対話の中で自らの傷も癒されていきます。
そして親友は彼と毎日つるみながらも、才能を知っているからこそ相応しい場所への旅立ちを願っています。
主人公を取り巻く人々があまりにも理解のある人ばかりだったり、主人公の悪事がケンカくらいしか直接的には描かれないことで感情移入しやすくなっていたり、作為的な演出に違和感は覚えるのですが、素直な心で観れば爽やかな後味を残す感動の物語として楽しめました。
14位 オースティン・パワーズ 3.0
大ヒットコメディシリーズの一作目。
いわゆるおバカ映画でありながらそれなりの予算がかけられている感じがするので、つい真面目に観てしまいそうになりますが、やっていることはとことんくだらないギャグです。
この手の笑いは好き嫌いがはっきりと分かれると思いますが、個人的にはそれなりに楽しめました。
ただ、楽しむべきは007のパロディや下品でしょうもないギャグよりも、むしろスウィンギング・ロンドンを再現したカラフルな画作りだと思います。
13位 コン・エアー 3.0
90年代後半にはジェリー・ブラッカイマーは大味だが派手でいかにもハリウッド的なアクションを製作するプロデューサーとして認知されていましたが、そのイメージを構築するのに一役買ったサスペンスアクション大作。
囚人護送用の飛行機がハイジャックされ、不幸にも巻き込まれた正義感あふれる主人公が悪党たちに立ち向かっていく物語です。
正義感が強すぎて最早融通の効かない主人公、冷酷で頭のキレるボスとその手下に力自慢の乱暴者と口が達者なお調子者、さらには裏切り者やただひたすら操縦と運転だけをする男と深みのない判で押したようなキャラクターがむしろ魅力的で、観客の考える手間を省いたような分かりやすさは娯楽映画のお手本のようでした。
演技に見えないスティーブ・ブシェミはハマり役でしかなく、最後のおいしいところを持っていくあたりもニヤリとさせられました。
各キャラクターが立ちすぎていて削れなかったのか、待ち伏せ作戦のシーンでは五つも六つもの視点が同時進行になっているのがカオスすぎて笑えました。
着陸後の息をもつかせぬ怒涛の展開は強引なところが一つや二つではないのですが、下手に整合を気にしたりせず勢いで突っ走る潔さが楽しかったです。
12位 ガタカ 3.0
遺伝子操作によって人間の優劣とその運命が生まれた時点で確定するようになった未来を舞台に、自ら運命を切り開こうと奮闘する男を描いたSFドラマ。
いかにもSF的な設定でありながら突飛な世界観ではなく、あくまで現代の現実世界の延長線上のようなビジュアルイメージが作品に説得力を与えていて良かったです。
正体を偽ることで生まれるサスペンスがおもしろく、身分発覚の危機の乗り切り方がやけにアナログなのはイマイチでしたが、殺人事件の発生によって更なるサスペンスが上塗りされていく展開は良かったです。
人間のアイデンティティとは何か、予め最適な形に定められた運命は幸せと言えるのか、そんな哲学的テーマを含みながらも娯楽作品として成立させているバランス感覚が見事でした。
しかしラストの検査での手助けはあまりにも簡単に為されてしまっており、主人公が人生をかけて闘ってきた重みを台無しにしている気がしました。
11位 コンタクト 3.0
地球外生命体とのコンタクトを荒唐無稽なファンタジーとしてではなく、科学的な探究を続けた人々の人間ドラマとして描いたSFドラマ。
壮大になりすぎて共感を得づらくなりかねないテーマに父と娘の関係を重ね合わせることで、万人が受け入れやすい物語に落とし込んだプロットは後の「インターステラー」への影響を感じさせます。
男性社会の中でたくましく自分の信じる道を突き進む主人公像にジョディ・フォスターはハマり役でしたし、ロマンスも過度にロマンティックにしすぎないバランスは保っていたとは思いますが、科学と信仰というセンシティブなテーマを描くには要素を詰め込みすぎた気はしました。
クライマックスは映像技術というよりもイマジネーション不足だった印象で、そこの説得力があれば感動はもっと大きくなっていただけにもったいなかったです。
10位 桜桃の味 3.0
イランの名匠アッバス・キアロスタミのパルムドール受賞作。
自殺を手伝ってくれる相手を求めて車で彷徨う男の物語です。
説明が少なくとも主人公の虚ろな目があまりにも雄弁でしたし、フロントガラスのフィルター越しにその表情をとらえるショットが連発されることで、カメラレンズの存在を意識させられました。
それはこのシンプルな命にまつわるストーリーがドキュメントではなく、誰にも当てはまる寓話のような創作物であることを強調している気がしました。
それゆえ指の骨折の例えなど内容的には秀逸なお説教もやや語りすぎでしたし、フィクションであることを明示するエンディングも親切すぎて蛇足に感じてしまいました。
それでも土と埃まみれなのに美しい画が単調な話の運びを補い、目が離せない魅力的な作品ではあると思います。
9位 タイタニック 3.0
公開当時、世界中で興行収入記録を塗り替えた大ヒット作。
ストーリー自体はいたって平凡なメロドラマですが、有名な史実を下敷きにすることによって説明不要で観客とサスペンスを共有できており、そのタイムリミットと悲劇性がロマンスを盛り上げています。
ジェームズ・キャメロンらしい強い意志を持って生き抜いていくヒロイン像は健在で、古典的で表層的なキャラクターが多い中では際立っています。
8位 ライフ・イズ・ビューティフル 3.0
ナチスによるホロコースト下で苦難を強いられても、決して失われることのない父親から息子への愛情を描いた物語。
前半はクラシカルなコメディパートとなっており、ベタな笑いとともに男女のなれ初めを描くのですが、ほとんどファンタジーの牧歌的な展開をいい歳した2人が披露することが悪いとは言いませんが、違和感があるのは否めませんでした。
悲劇と喜劇は表裏一体とはよく言いますが、収容所へ移ってからのつらい暮らしの中でこそ、主人公のユーモアがギャグとして光るようになった気がします。
しかしその一方で、史実として多くの命が奪われた状況下で、主人公の振る舞いはずいぶんと身勝手な気もします。
これをファンタジーでありコメディだからと気楽に楽しめるか、不快に思うかで評価が分かれると思います。
7位 フル・モンティ 3.5
かつては製鋼業で栄えたイングランド中部の都市シェフィールドを舞台に、それぞれの事情を抱えた無職の男たちが一発逆転を狙ってストリップショーに挑戦するコメディ。
とはいえすごく小さな達成であり、それに代わる代償の方が明らかに大きそうなのですが、そんなことを気にしない能天気さが心地良いですし、それを分かっているからこそのラストの引き際も良かったです。
人間関係の描き方は浅いのでドラマとしては物足りないのですが、そこもサラッとライトに扱い、笑いとして処理している潔さに好感が持てました。
90年代のイギリス映画に出てくるクズ人間はどこか憎めないのが不思議です。
6位 オープン・ユア・アイズ 3.5
スペインの俊英アレハンドロ・アメナーバルの出世作となったサスペンススリラーの秀作。
金にもルックスにも恵まれ、それでいて特に傲慢だったり高圧的なわけでもない主人公のキャラクター設定がやけにリアルで絶妙でした。
欠点と言えば女性関係がだらしないところなのですが、それが原因となって愛も友情も失い、人生が破滅に向かっていく恐ろしい物語です。
何でも思い通りだった主人公は、物語の結末においても同様に、意のままの人生を送れる立場にいます。
しかし魅惑的だった人生は味気ないものへと変わり果てており、幸せのために必要なものが何なのかを問いかけてくるようです。
メッセージ性を持ちながらスリラーとしての筋のおもしろさも兼ね備えた今作の構成がいかに優れていたかは、キャメロン・クロウによるリメイクがキャストと音楽でしか上積みできていない事実が物語っています。
5位 ゲーム 3.5
疑心暗鬼に陥るストーリー展開と一見シュールな演出は、後のシチュエーションスリラーや悪夢的サスペンス演出の模範となっているであろう佳作です。
歪んだ人格を矯正する恐ろしいゲームに悪戦苦闘する主人公の姿は滑稽でありながらも恐ろしく、また、基本的に合理的に行動してくれるので、自分ならどうする?を考えながら観ると楽しめるタイプの映画です。
4位 スターシップ・トゥルーパーズ 3.5
プロパガンダ映画を徹底的にパロディしてヴァーホーヴェンがそのブラックなユーモアと人体切断を連発する悪趣味っぷりを炸裂させたSF戦争アクション。
前半は青春映画によくある設定、キャラクター、台詞、演出をコピーして小馬鹿にする展開が笑えました。
全体主義的な世界を批判すると同時に、アイデンティティが不確かな若者を社会が戦争へと駆り立てていく様を風刺的に描いています。
冒頭から随所に挿入される擬似CMにも皮肉が満載で良かったです。
しかし後半にはそのCMが姿を消し、普通の戦争アクション然としたシーンが続くので、いつの間にかシニカルな視点を失って観ることになります。
そしてまんまと没入させられたところで、ラストに今作自体が擬似プロパガンダ映画であったことに気付かせる構成が見事でした。
3位 ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア 4.0
余命宣告を受けた若者2人が、人生の望みを叶えようと病院を抜け出して目指したのは海でした。
90年代らしいスタイリッシュで軽いノリのクライムムービーですが、バディもののコメディ的な要素と青春映画のような爽やかさをプラスしたロードムービーにもなっています。
基本的にとぼけたシーンが多いのですが、何度か繰り返される発作のシーンが迫真なほど、終盤の救急車ではそれが笑いになり、もう助けないラストシーンでは言葉がなくとも優しさを伝えることに成功しています。
2人の青臭いやり取りは観ていて恥ずかしなるような場面もありますが、粋な結末はじんわりと心に染みます。
2位 CUBE 4.0
00年代に流行したシチュエーションスリラーの先駆的作品。
単調ながらスタイリッシュな映像と設定への説明を放棄するスタイル、外の世界をいっさい描かない構成は低予算であるがゆえの苦肉の策だったのかもしれませんが、それがかえって絶望的な閉塞感を生み出しており、後の作品にも多大な影響を与えていると思います。
何度も観ると、トリックは冒頭のシーンがピークだったり、仲間割れする展開が強引だったり、雑さが目に付きますが、初見の時のインパクトは絶大です。
1位 ファニーゲーム 4.0
不条理系シチュエーションスリラーの先駆的な作品であり、観客に強烈な不快感を与えるショッキングな内容が物議を醸した問題作。
ハリウッド映画の痛みを伴わない暴力描写に対するアンチテーゼと言われる今作は、フィクションの中の暴力を徹底的に生々しく描き、それが現実世界に存在する時の痛ましさと忌むべき理不尽さを映し出すことに成功しています。
カメラの先の安全圏にいる観客への問いかけは観客を作品の中へ引きずり込み、メタ的な発言や有名な巻き戻し演出が現実と虚構の境目を曖昧にしていきます。
中盤の長回しはとてつもない喪失感を感じさせると同時に、恐怖からの解放感をも味わわせることで感情を激しく揺さぶり、そこで一旦の緩和が生まれることで終盤の絶望感が更に強調されています。
暴力はアクション映画の中で描かれるような一瞬の激しさとその合理的な動機と共にあるとは限らず、今作で描かれるようにむしろもっと不愉快で、もっと不条理なものとして身の回りに存在しているような気がしました。
中空からのショットは神の視点に例えられることがありますが、今作冒頭のショットはまるで悪魔の視点かのようで、空を漂う悪魔がとある一家の車に目をつけて、車内に入り込んできたときに優雅なクラシックが破壊的な音楽に塗りつぶされているように感じました。
いかがでしたでしょうか。
1997年はハリウッド映画に良作が多く生まれる中で、ヨーロッパ映画に傑作が生まれた年でした。
次回の記事では、1980年を取り上げます。
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