今回の記事では、公開年別のマイベスト映画作品をご紹介します。
評点は5.0~1.0まで、0.5点きざみの9段階評価で、平均以上となる3.0以上の作品をランクインさせています。
今回取り上げたのは2000年で、17本の作品が3.0点以上でした。
17位 ディナーラッシュ 3.0
トライベッカに実在するレストランを舞台に忙しない厨房とごった返すフロアで繰り広げられる人間模様を描いた群像劇。
相棒をマフィアに殺されたオーナーを中心に、早く店を任されたい料理長の息子、ギャンブル依存の副料理長、シェフと関係を持つウェイトレスたち、2人組のマフィアに警官夫婦、物知りバーテンダーとバーに居座る金融マン、画商と画家の一行に料理評論家などとにかく多くの登場人物の細かなエピソードが調理シーンと交互にテンポ良くと言うより慌しく映し出されていきます。
思わせぶりな出来事が多いので散りばめられた全ての点がラストで一本の線になるのかと期待して観ていると、繋がるのは割と同一線上にあったものだけで、少なからず放置されるエピソードがあるのは拍子抜けでした。
ただ退屈はしなかったですし、描きたかったのはあくまでもイタリア系らしいケジメのお話であり、それ以外の要素はカモフラージュであり尺稼ぎだと思って観ればスピーディーな展開を楽しめました。
16位 オーロラの彼方へ 3.0
時空を超えた親子愛の物語というと近年では「インターステラー」を想起しますが、こちらはその15年前にもっとライトなノリで作られた娯楽作品です。
歴史改変による未来への影響度合いを都合良く解釈しているので強引な展開も多いのですが、記憶や感情といった人の内面が変化するだけでなく、物体の変化までもが即座に未来に反映されるあたりユニークで、理屈を考えるよりもファンタジーとして割り切って観るとおもしろかったです。
前半に親子の絆を描いた後は、遠隔操作によって事件を捜査するミステリーをはさみ、終盤は犯人との攻防をサスペンスフルに描く展開へと目まぐるしく変化していくストーリーにはやはり軽さは否めませんが、盛りだくさんで飽きずに楽しめました。
15位 オー・ブラザー! 3.0
ブルースやゴスペルなどアメリカ南部発祥の音楽をフィーチャーしたサントラもヒットしたコーエン兄弟によるロードムービー風コメディ。
30年代の南部を舞台に脱獄した三人衆が逃亡しながらかつて隠したお宝を探し求める物語です。
道中ロバート・ジョンソンにベビーフェイス・ネルソンと当時の実在の人物に出会って物語が展開していく「フォレスト・ガンプ」風の構成で、ユルい雰囲気ながらテンポが良くて飽きずに楽しめました。
コーエン兄弟にしてはシュールさが控えめで、独特の作風が苦手な人にもとっつきやすい作品だと思います。
14位 アメリカン・ナイトメア 3.0
60〜70年代に放たれたホラー映画のマスターピースの制作背景をその作り手であるレジェンド監督たちが振り返る豪華なドキュメンタリー。
当時のアメリカが抱えた社会不安を結び付ける視点に目新しさはないですが、ロメロはベトナム戦争や公民権運動とその後の大量消費社会について、フーパーは本能に訴えるプリミティブな恐怖体験、クローネンバーグは人間の肉体への考え方など、誰もが作品から感じ取れたことを本人の口から聞けるという点では、ど真ん中にストレートを投げ込んでくれる満足度の高い内容でした。
評論家の講釈はあくまで補助的で、短い尺の中にレジェンドたちの言葉を割と均等にバランス良く詰め込んでいるのも素晴らしかったと思います。
欲を言えば互いの作品へのコメントが聞いてみたかったところです。
13位 キャスト・アウェイ 3.0
無人島でのサバイバルを描いたヒューマンドラマ。
荷物を届ける配達員という設定を活かし、流れ着いた荷物をストーリー展開上のキーアイテムとして利用するだけでなく、物語の落としどころにもなっているところがうまかったです。
作品のテーマはサバイバルの過程ではなく、予期せぬ空白ができたことで変わってしまった人生にどう向き合うかという点にフォーカスされているのですが、無人島での件がおもしろい分、その前後のドラマは冗長に感じてしまいました。
12位 隣のヒットマン 3.0
愛のない結婚生活を送る歯科医の男が隣に越してきた殺し屋と出会ったことで、保険金目当ての妻や殺し屋の命を狙う組織を巻き込みそれぞれの思惑が交錯し始めるコメディです。
ストーリーにはご都合主義な点が多いのですが、下手にスタイリッシュな演出を施したり、派手な見せ場を強引に作ったり、無理に笑わせようとせず、平凡な作品であることを自覚しているかのように素朴な演出に徹していることに好感が持てました。
謎に二人の友情へと収束する結末もこじんまりとしていて良かったです。
11位 グラディエーター 3.0
ローマ帝国の将軍だった男が策略によってその身を落とし、剣闘士として死線をくぐりながら復讐を図る姿を描いた歴史大作。
ドラマチックなストーリーとアクションシーンのスペクタクルが見事に融合しており、同年のアカデミーでも高い評価を得て名匠リドリー・スコットの代表作となりました。
冒頭から容赦のない戦闘シーンで主人公の英雄ぶりを示すと共に、物語のトリガーとなる因縁も自然とおり込む手腕は素晴らしかったです。
中盤にはコロッセオでポエニ戦争を再現させられる迫力のシーンと因縁の相手との再会の場面を重ね、正にクライマックスを迎えます。
しかし、その後の展開はそれ以上盛り上がることはない上に、主人公を必要以上に高潔な人物として扱いすぎている気がして、熱狂していく観衆とは反対に観ているこちらは冷めてしまいました。
10位 最終絶叫計画 3.0
ホラー映画のみならず、90年代のカルチャーをイジり倒したおバカ映画シリーズの一作目。
くだらない下ネタばかりなようで、意外とキレのある風刺をちょくちょく差し込んでくるので思ったよりも笑えました。
やたらとカッコいいラストシーンも不釣り合いでおもしろかったです。
9位 スターリングラード 3.0
「プライベート・ライアン」とまではいかないもののリアルで迫力のある冒頭の戦闘シーンと、息を潜めて行われる生々しいラブシーンとが話題となった戦争映画の佳作。
第二次世界大戦におけるスターリングラードでのソ連とナチスのせめぎ合いの中、双方のスナイパー同士の対決に、英雄となった主人公を広告塔として担ぎ上げようとする国の思惑と主人公の葛藤、英雄に憧れたが故に悲劇に至る少年の視点、そして三角関係のロマンスまでを盛り込んでいます。
テーマが多い分それぞれの描き込みはあと一歩物足りなかったですが、娯楽作品としては十分なスリルとドラマが詰まっており、それら多様な要素をうまくまとめ上げていました。
ただ、バッドエンドを嫌う観客を意識するあまり付け足してしまったような不必要に都合の良い結末は、違和感が否めない残念な着地でした。
8位 タイタンズを忘れない 3.5
人種の壁をスポーツで乗り越えた実話に基づくストーリー。
作中で描かれる差別が比較的マイルドな部分だけであること、差別を受ける側の立場がある程度は対等であるように見えること、選手たちが壁を乗り越えるのが物語の序盤であること、それら演出やストーリーの構成によって、これがいがみ合う隣町同士が合併したくらいのとてもライトな対立に見えてしまうので、人種差別という根の深い問題を楽観的に捉えている感は否めません。
単純に娯楽作品として観れば、テンポが良く、キャラクターも個性的な優れた青春スポーツものとして楽しめます。
アメフトのルールがよく分からなくても、リアクションや音楽で状況を説明してくれるので安心です。
7位 あの頃ペニー・レインと 3.5
音楽ジャーナリスト志望の15歳の少年が、ひょんなことから人気中堅バンドのツアーに同行することになる青春映画の秀作。
大人と子どもの狭間にいる年齢の主人公が少し背伸びをするストーリーはノスタルジーにあふれています。
憧れていた世界の現実を知ること、年上の女性に恋をすること、それらはどちらもほろ苦さを伴うのですが、それが一人前の大人として夢への第一歩を踏み出すことでもあるというストーリーには胸が熱くなりました。
全てが丸く収まるわけではなく、それぞれがそれぞれの道へ一歩前進する結末も絶妙でした。
ロックがまだ選ばれし者による音楽だったパンク前夜の70年代前半を舞台に、バンドという共同体を保ちながら前進することの難しさを描いた音楽映画としても優れています。
6位 アメリカン・サイコ 3.5
表面上はエリートビジネスマンだが、裏の顔は自己の優越感のために殺人を繰り返すサイコパスである男を描いたスリラー。
「ファイト・クラブ」でも否定的に描かれていた物質主義に陥り、誰かに作られた豊かな暮らしを追い求めるあまり、自分自身の存在が不確かになっていく現代人の愚かな姿をより極端なケースで嘲笑しています。
社会的ステータス、ルックス、知性、センス、それらの高さを象徴するのが人気レストランの予約と名刺のデザインというバカバカしさ。
そのマウンティングはツールをブランドものやパートナー、SNSに替えながら、あらゆるコミュニティで行われ続けているものです。
その愚かさに気がつかず、むしろ取り憑かれた主人公は凶行に走り、さらに映画の殺人鬼に自らを重ねた妄想で自らを混乱させていきます。
その顛末を終盤はカオスとして描きながら、クリスチャン・ベイルの怪演がシニカルなコメディとして成立させています。
5位 オテサーネク 妄想の子供 3.5
チェコが生んだシュールレアリストのヤン・シュヴァンクマイエル四本目の長編作品。
作中のアニメーションとして挿入される愛妻でありアーティストのエヴァによる絵本は民間伝承らしい昔々の設定で描かれているのに対し、ヤンは不妊により精神を壊していく妻と何かにつけて好奇心の強い隣人の少女の存在を置くことで、人間の願望が屈折していく様を強調しています。
序盤は周囲に妊娠したフリがバレないように悪戦苦闘するコメディのように見せながら、オティークが動き出してからは一気に物語が常軌を逸し始め、シュヴァンクマイエルらしいグロテスクさとユーモアが入り混じっていくのがおもしろかったです。
最後まで後戻りできなくなっていく夫婦の視点で描いていたら作家としての新境地だったと思うのですが、終盤は少女の視点に移行してしまい、想定内の結末に収まってしまった気がしました。
4位 マレーナ 3.5
第二次大戦中のムッソリーニ政権下のシチリアを舞台に、ミステリアスな町一番の美女に心惹かれる少年の心情の移り変わりを描いたドラマ。
トリュフォーの「あこがれ」をバージョンアップしたような内容で、少年の目を通して語られるノスタルジックな雰囲気はトルナトーレの真骨頂でした。
モニカ・ベルッチも全ての男を虜にする美女という役柄に見事にハマっていました。
美しすぎるが故に周りの女からは妬みと陰口の対象とされ、男からは欲望の眼差しの対象となり、孤独の中でやがて身を持ち崩していくマレーナの悲哀を本人の内面を一切描写することなく、あくまで少年の視点で妄想を頻繁に交えながら描くことで感情豊かなテンポの良い作品となっています。
自らも欲情に駆られながら、彼女を崇高なものとして好奇な目を嫌悪する少年のアンビバレンスは、天使と娼婦を重ねて見る思春期の少年心を見事に映し出していました。
3位 スナッチ 3.5
前作の焼き直しと言ってしまえばそれまでですが、良いところをきちんと引き継いでくれた良い焼き直しだと思います。
それぞれのエピソードは前作ほど拡散せず、ダイヤというキーアイテムの元に収束し、最後には狙い通りに勝ち抜ける人がいる点は新たな要素です。結末を運任せにしなかったことでクライムムービーっぽさが増しています。
前作から引き続き出演の若きステイサムはまだセクシーな筋肉を封印しており、その役目はブラッド・ピットに譲っています。
2位 ダンサー・イン・ザ・ダーク 3.5
後味が悪く賛否両論あることで有名なパルムドール受賞作。
貧しく閉鎖的なコミュニティの中で繰り広げられる、主人公に情け容赦のないストーリーは素晴らしかったです。ただ、物語上のキーマンである警官の情緒不安定な描写がイマイチなのと、裁判以降の展開がやや冗長なのが気になりました。
ドキュメンタリーのような手持ちカメラが特徴的な分、魂が天国に登っていくようなラストカットが印象に残りました。
ビョークの歌声はやはり特別で、特に主人公の行動原理を理解する上でも重要な”I’ve seen it all”は、サントラでのトム・ヨークとのデュエットも含めて必聴です。
1位 レクイエム・フォー・ドリーム 4.5
救いのない鬱映画として知られるドラッグムービーの傑作。
主要人物の4人は初めから一般的な平穏や幸福の中にはいないのですが、ストーリーが進むに連れてどこまでも落ちていく姿は衝撃的で、とはいえそれがドラマチックなものでなく、やけにリアルなところが余計に恐怖を倍増させます。
歪んだレンズでの接写や浮遊感のある移動撮影など、理性が失われて倒錯していく登場人物たちの心情を表したカメラワークが秀逸でした。
4者4様の転落をカットバックで見せるクライマックスは壮絶で、人間の弱さとその末路を見せつけます。
物語としては母親の存在が効いており、孤独と見栄、承認欲求、禁断症状と幻覚とその成り行きは作品を単なる向こう見ずな若者の失敗談ではなく、誰しもに起こりうる普遍的なものに引き上げています。
いかがでしたでしょうか。
2000年は作家性と娯楽性を高次元で融合させた良作が多く生まれた年でした。
次回の記事では、2014年を取り上げます。
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