今回の記事では、公開年別のマイベスト映画作品をご紹介します。
評点は5.0~1.0まで、0.5点きざみの9段階評価で、平均以上となる3.0以上の作品をランクインさせています。
今回取り上げたのは2005年で、10本の作品が3.0点以上でした。
10位 太陽 3.0
ソ連時代には作品が上映禁止処分を受けるなど憂き目を見たソクーロフが、日本においては語ることすらタブー視される天皇の人間的な側面を描いた権力者四部作の一つ。
太平洋戦争終結時の数日間で神としての責務と一人の人間として感情の狭間で苦悩する昭和天皇の姿が映し出されることは、公開当時大いに話題となりました。
撮るべき被写体をあえて画面の中央から外すフレーミングやグレーがかった独特の画作りが印象的で、寂しさや哀しさといった人間的な感情を表現することが許されない苦しみをのぞき見ているような気持ちになりました。
ドラマチックなエピソードを意図的に避けるストーリー構成は退屈なのですが、狙いにはマッチしていたと思います。
人物像や出来事が史実と異なろうとあくまでフィクションであると割り切って観れば、特異なシチュエーションに置かれていた普通の人物がその状況を脱して肩の荷を下ろす過程を静かに描いたドラマとしておもしろく観られました。
9位 チャーリーとチョコレート工場 3.0
ティム・バートンらしい独特な世界観が堪能できるファンタジー。
子どもたちが次々に退場していく展開はブラックで楽しく、ウォンカの子どものような無邪気さと純粋ゆえの邪悪さとが同居するようなキャラクターが魅力的でした。
後半は家族愛に物語が収束を始めるので、ダークさが物足りず、肩すかしされる印象です。
そもそもチャーリーが金のチケットを当てたのはネコババしたお金で、純粋で誠実な少年というより、家族とチョコが大好きなだけに感じてしまったことも違和感の原因だった気がします。
8位 トランスポーター2 3.0
ジェイソン・ステイサムの看板シリーズの2作目。
運び屋稼業のクールな男が思わぬ企みに巻き込まれていく物語です。
前作同様に意外にもカーアクションや銃撃戦は少なく、ジャッキーリスペクトが感じられる機転を効かせた格闘の詰め合わせとなっているのが楽しかったです。
ストーリーの適当さとアクションの荒唐無稽さも相変わらずなのですが、下手に欲を出さず、期待通りのものを見せてくれる潔さが好きでした。
ジェイソン・フレミングとの共演もニヤリとさせられますし、あっさりした幕の引き方も良かったです。
7位 ブロークン・フラワーズ 3.0
ジャームッシュがカンヌでグランプリを勝ち取ったオフビートなヒューマンコメディ。
かつてはプレイボーイとしてならした初老の男の元に隠し子の存在を告げる差出人不明の手紙が届き、心当たりのある四人の昔の恋人を訪ねて回る物語です。
四人とはそれぞれ別れ方も異なり、その後歩んだ人生も違うために突然現れた主人公の受け入れ方が四者四様で、再会した時に生まれる微妙な気まずさが楽しかったです。
序盤でビル・マーレイが披露するフレッドペリーのジャージの数々はそれだけで笑えたのですが、それが終盤への伏線になっているだけでなく、そのままオチにもなっているのがおもしろかったです。
カンヌのグランプリ作品というハードルを脇に置き、シチュエーションコメディ集として気楽に観れば存分に楽しめました。
6位 ヒストリー・オブ・バイオレンス 3.5
カナダの奇才クローネンバーグが人間に呪いのように付きまとう暴力性を描いたクライムサスペンスの秀作。
ダイナーを営みながら家族四人で仲良く暮らしていた主人公の店が強盗二人組に襲われるも、一瞬にして返り討ちし、主人公は町の英雄としてメディアに取り上げられ、学校でイジメにあう息子からは憧れの眼差しを向けられます。
しかし当の本人は浮かない顔で、やがて物騒な雰囲気の謎の男たちが家族に付きまとうようになるというミステリアスで不穏な物語です。
一度芽生えた暴力性はどんなに打ち消そうと努めたところで、そのうちに再び姿を表し、世代を超えて引き継がれて暴力の歴史を紡いでいく虚しさを描いています。
尺が短くて観やすいのは良いのですが、その分主人公の内面の設定を描ききれていない印象で、過去を精算するための決闘シーンがまるでヒーロー誕生の物語かのように見えてしまっています。
新しい人生を築く場であったはずの自宅へ出向いて来た兄を返り討ちにする流れの方が、断ち切ったつもりでも、これからもきっと暴力の呪縛からは逃れられないであろうことに気がつき、呆然と食卓につく哀しさは強調されたような気がしました。
5位 シン・シティ 3.5
独特の世界観を持つコミックスを原作にしたハードボイルドなバイオレンスアクション。
共通の登場人物と舞台設定を持ちながらも独立した複数のエピソードが順に語られる形式で、いずれも各話の主人公のモノローグがノワールっぽい雰囲気を作りながら、テンポ良くストーリーを運んでくれて良かったです。
愛する女のために命をかける男たちの姿はかなり大げさではありながらも、性と暴力にあふれた作品の世界観を見事に構築していました。
かなり残酷な描写が多いのですが、モノクロの映像とそのコミックスらしい世界観のおかげでさほどグロテスクに感じませんでした。
4位 真夜中のピアニスト 3.5
フランスの名匠ジャック・オーディアールが国内の賞を総なめにした代表作。
父親の影響下で不動産業界の裏稼業に生きる男が、十代の頃のピアノの恩師に偶然再会したことから心の奥底にしまい込んでいた音楽への情熱を呼び起こす物語です。
主人公はその手を暴力にまみれた本業に使うか、美しい音色を生み出すことに使うか、その間で揺れ動きます。
その過程で関わる二人の女性が象徴的で、同僚の妻とは不倫関係に陥る一方、中国人のピアノ講師とはプラトニックな関係が続きます。
前者とは体を重ねてもその繋がりはその場しのぎの表層的なものに感じられ、後者とは午後2時のレッスンでしか顔を合わせることはなくとも感情的なぶつかり合いに真剣さが感じられます。
主人公の苦悩が今ひとつ描けていないために終盤に起きる悲劇の哀しさが薄くなっている気はするものの、その後の運命がどちらに転ぶのかスリリングなラストシーンは素晴らしかったです。
3位 ある子供 4.0
カンヌの常連として知られるベルギー出身のダルデンヌ兄弟が二度目のパルムドールを受賞した代表作。
若く貧しい男女に子どもができたことで直面する厳しい現実と、起こる悲劇を淡々と生々しく描いた物語です。
極悪人ではないものの、短絡的で思慮の浅い主人公にカメラが寄り添い続けるので、観客は彼を観察させられることになります。
無邪気にふざけたかと思うと平気で悪事を働く分別のない言動は正に子どものようで、子どもが子どもを作ってしまった先に待つ出口の見えない底辺の暮らしを見せつけられます。
主人公の明確な成長や環境の変化は描かず、世界のどこかにある、そしてどこにでもある一つの現実をただ提示しながら、最低限のストーリー性も担保したバランス感覚が素晴らしかったです。
2位 ルナシー 4.0
ポーとサドからの引用をしながらも、まぎれもないオリジナリティが発揮された精神的ホラー映画。
人間が築く社会組織はそれが自由主義であれ、管理主義であれ不完全なもので、人間が自由であるためには、結局は個人として抗い続けるしかないのだというメッセージは、社会主義国家で創作を続けてきたシュヴァンクマイエルらしいテーマではあります。
善も悪も、食欲も性欲も、美徳も背徳も、全てがない混ぜになった狂気の世界は常軌を逸しており、嫌悪感を引き起こすのにどこか魅力的です。
シーンの合間に挿入されるストップモーションの悪夢的イメージには既視感が否めず、過去の短編の焼き直しという印象。
意外にもストーリーがしっかりしているので、つなぎはなくても良かった気がします。
1位 僕がいない場所 4.5
母親からは露骨に拒絶され、不良少年たちからは敵視され、仕事仲間の男からは蔑まれる。この世のどこにも居場所がない少年を描いたあまりにも切なく悲しい物語です。
どんなに尊厳を踏みにじられてもプライドを失うことのなかった少年と、劣等感に苛まれて酒に溺れる少女。孤独を共有した2人ですが、貧富の差と姉の賢明な判断によってやるせない結末を迎えます。
幼い頃の記憶の描写はやや感傷的すぎる気がしますが、基本的には率直にこの救いのないストーリーを描ききっています。
少年の顔に刻まれた苦悩の印のようなしわと、消えることのない誇りを感じる力強い眼差しが鮮烈な印象を残す傑作です。
いかがでしたでしょうか。
2005年はヨーロッパ映画に多くの傑作、秀作が生まれ上位を占めた年でした。
次回の記事では、2016年を取り上げます。
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