今回の記事では、公開年別のマイベスト映画作品をご紹介します。
評点は5.0~1.0まで、0.5点きざみの9段階評価で、平均以上となる3.0以上の作品をランクインさせています。
今回取り上げたのは2011年で、13本の作品が3.0点以上でした。
13位 硫黄島からの手紙 3.0
名匠としての風格が板についてきたイーストウッドが太平洋戦争を日米双方の視点から描いた硫黄島プロジェクトの日本編。
日本人俳優が多数出演し、ほぼ全編日本語であることも話題となりました。
英語圏以外の地を舞台にしながら、時には宇宙人でさえ当たり前のように英語を話す不自然さはハリウッド映画がよく受ける指摘で、特にシリアスな物語の時には作品の説得力を失わせる要素として働きます。
今作はその点で誠実に描かれている印象で、プロジェクトのテーマをよく理解して制作していることが伝わってきました。
アメリカ編に比べると素直な構成で、フラッシュバックの入れ方もベタながら観やすかったです。
あちらが写真をキーとしていたのに対し、こちらは手紙をキーに物語が進行していきます。
前半では主要人物が書く手紙、中盤ではアメリカ兵が持っていた手紙が作品のメッセージに直結しており、ラストには涙を誘うアイテムとして効果的に使われています。
それぞれの正義の元に敵を殺すことを正当化するのが戦争だとしても、個人レベルでは善も悪もない同じ人間なのだという主張は日本編の今作の方がよく伝わったきました。
12位 虫おんな 3.0
「MAY」のラッキー・マッキーが監督したマスターズ・オブ・ホラーのシーズン1の一編。
レズビアンの昆虫学者が親しくなった女性を家に招くも、最近家に届いた攻撃的な昆虫がケースから抜け出し忍び寄る物語です。
冒頭から割れた卵柄の枕カバーがやけに印象的と思ったら、それがしっかりキーアイテムになる展開は上手かったですし、ソファで肩が触れるような繊細な描写も良かったです。
「MAY」でも主演したアンジェラ・ベティスが影のある主人公を好演していますが、ソフトコアポルノ出身のエリン・ブラウンはそれ以上の熱演で、美しさと怪しさを併せ持つ役柄にハマっていました。
簡潔ながらブラックなオチまで見事にまとまっていたと思います。
11位 プラダを着た悪魔 3.0
ファッション誌業界で働くことになったジャーナリスト志望の女性の奮闘を描いたコメディ。
優しい彼氏に怖いけど尊敬できる上司、厳しくも優しいアドバイザーに仕事で出会ったイケメン。仕事も恋愛も全力でがんばる日々。
働く女性にウケが良さそうなテレビドラマのラブコメの最上級版という印象です。
主人公が始めから特にダサく思えなかったり、キラキラしたファッションの世界に惹かれなかったり、共感しづらい点はあっても十分に楽しめます。
10位 ミッション:インポッシブル3 3.0
前作の陽な雰囲気を捨て去り、シリアスなトーンとスパイものらしいチームワークを獲得してシリーズを立て直した3作目。
青みがかった映像と意図的に手ぶれを多用するカメラワークが印象的です。
愛する人が人質になったり、内部に黒幕がいたり、前2作から構成要素を引用したようなストーリーは比較的分かりやすく、悪役にいたってはシリーズ最高の存在感です。
しかし、主人公の私的な感情を描くことが重視されたためか、アクションが全体的に地味な仕上がりで、クライマックスもあまりにもあっさりな戦闘なのが残念でした。
9位 トゥモローワールド 3.0
人類に子どもが生まれなくなった近未来、各国が崩壊していった中かろうじて国家としての体裁を保っているイギリスを舞台に、人類最後の希望を守るために政府と反政府組織の両方を敵に回した男の物語。
SFなので、なぜ子どもが生まれなくなったのか、その中でなぜ彼女だけが特別だったのか、そこになんの説明もなく、そういう設定ですという前提で押し切られることに文句はありません。
ただ、その設定がエンタメとしてのアクションやサスペンスを生む為のものである内は強引さも受け流せますが、後半の不法移民たちの描写や神々しささえ感じさせる大げさなクライマックスには明らかに強い主張が感じられ、そうなってくるとこの状況への疑問やそこに至るまでの人々の心理の変化の過程が気になってしまいました。
評判となった長回しのシーンの緊迫感は良かったので、娯楽映画の顔をしながら示唆的なメッセージがそれとなく潜んでいるくらいのバランスの方が、主張は胸に深く響いたような気がしました。
8位 ディパーテッド 3.0
傑作香港ノワールのリメイクにして名匠スコセッシにオスカーをもたらした代表作となったクライムサスペンス。
二人のスパイが互いの存在を知らぬまま、それぞれの立場で責務を果たそうとすることで物語にうねりが生まれていく展開は見応えがありました。
スパイとしての孤独や苦悩は今一歩描ききれていない気がしますし、二人が互いを認識してからは同じ境遇だからこその心理的な駆け引きをもっと見せてほしかったですが、空きビルで一堂に会するシーンの緊迫感は素晴らしかったです。
そこから終盤にかけて裏切りと報復とが入り乱れての応酬となるクライマックスは怒涛の展開というよりも、慌てて詰め込んだ結果、駆け足すぎて余韻も何も無くなってしまっているような印象でした。
ドラマとしては深みが足りず、サスペンスとしては長尺すぎるのが難点ではありますが、十二分に楽しめました。
7位 ブラックブック 3.0
ヴァーホーヴェンが久しぶりに本国オランダに戻って制作した戦争サスペンス。
第二次大戦下でスパイとしてナチスの指揮官に接近したユダヤ人の女とレジスタンスたちの闘いをスリリングに描く物語です。
ヴァーホーヴェンが盟友ジェラルド・ソエトマンと15年以上かけた脚本をオランダ映画史上最も予算をかけて制作した力作となっています。
いつものエログロ趣味が控え目な至って真面目な作りは物足りなくも感じますが、ハリウッドで培ったエンタメ作品を仕上げる手腕が存分に発揮されていて面白かったです。
終戦後の終盤にはきっちりらしさを垣間見せてくれるサービス精神も嬉しく、人間の醜さをもっとえげつなく描いて欲しいという欲求を多少満たしてくれました。
6位 ナイト ミュージアム 3.0
ニューヨークの自然史博物館を舞台にしたファミリー向けファンタジーコメディのヒット作。
夜警を務める主人公が夜な夜な動き出す展示物たちの巻き起こす騒動に振り回される物語です。
アトラクションのように次々と登場する個性豊かなキャラクターが楽しく、ワクワクして観られました。
主人公の人物像は類型的で、添え物程度のストーリーはあまりにも印象に残らないのですが、子どもが繰り返し観て楽しめるタイプの作品としてはその単純さが最適だったような気がします。
5位 パンズ・ラビリンス 3.5
アメコミヒーローものを二作手がけ、娯楽作品でもそのファンタジックな世界観と代名詞とも言える特異なビジュアルのクリーチャーを持ち込めることを証明したギレルモ・デル・トロが放ったダークファンタジーの秀作。
内戦時代のスペインを舞台に、孤独な少女が妖精に導かれて不思議な世界へと足を踏み入れる物語です。
レジスタンスと独裁政権の争いが激化し、愛する人々が自分の元を去っていく辛い現実が、寂しく不安な少女の心に空想世界の逃げ場を与えます。
その世界観はインスピレーションの元になっているであろう「不思議の国のアリス」の不気味な部分だけを抽出してグロテスクに仕上げたようなビジュアルで、デル・トロのセンスが炸裂しています。
現実世界で繰り広げられる暴力描写の過酷さは、恐ろしいクリーチャーのいる世界を暖かく優しい場所に感じさせ、辛い日々を生き抜くためには想像力による心のエスケープゾーンを肯定する作り手のメッセージが伝わってくるようでした。
4位 パフューム ある人殺しの物語 3.5
18世紀のフランスを舞台にした世界的ベストセラーの映画化。
常人離れした嗅覚をもって生まれた主人公の恐ろしくも悲しい生涯を描いた物語です。
終始かなり変態的であるにも関わらず、落ち着いた演出と重厚感のある画面作りによってどこか荘厳な雰囲気すら漂っています。
主人公が追い求めた極上の香りは、大衆には性の喜びをもたらしましたが、本人にとっては生の喜びをもたらすものでした。
生後すぐに失われるはずだった主人公の命はその嗅覚によって生き長らえ、完璧な香りを作り出すという使命を全うし、自らこの世から姿を消す流れは美しく、芸術至上主義的な見応えのあるストーリーでした。
場面設定が汚く悪臭漂うパリから香水産業が盛んな美しい田舎町に変わるので視覚的にも楽しませてくれる上に、後半には一時的に視点を娘を守る父親に置くことでサスペンス要素が加わり、長尺ながら飽きることなく観られました。
3位 アートスクール・コンフィデンシャル 3.5
「ゴーストワールド」のテリー・ツワイゴフとダニエル・クロウズが再びコンビを組んだ青春ブラックコメディ。
変わり者だらけの美術学校に入った画家志望のさえない青年のひねくれた青春に学園で起こる連続殺人事件が絡む物語です。
野望とプライドが高い割には結局モテたいだけであることに自分自身気付いていないイタさは、多くの芸術家崩れの痛点である気がします。
主観的評価の世界のバカバカしさ、作品外の付加価値に左右される愚かしさにも痛烈な皮肉が効いています。
事件の真相や淡い恋の行方が微妙に処理しきれていない気がしますが、その中途半端さも惨めな青春の消化不良感を強めていて良かったと思います。
2位 街のあかり 4.0
前作「過去のない男」の主人公が絶望的な状況の中でも目の前に転がる小さな幸せをそっと受け止める男だったのに対し、今作の主人公の男はさしたる不満もない暮らしをしていたにも関わらず、それに気が付かずに自ら身を滅ぼしていきます。
相変わらず少ないセリフと感情表現で描かれたコインの裏表のような2作は、カウリスマキが生涯を通して描き続けるテーマの集大成であり、到達点であると思います。
1位 リトル・ミス・サンシャイン 4.0
R.E.Mやスマパン、レッチリらいわゆるオルタナ勢のMVを手がけてきたコンビによる傑作コメディ。
娘のミスコン出場の為、癖のある一家が一台の車に乗り込んで1000キロ以上の旅に出るハートウォーミングなロードムービーです。
一家は誰もが何かしらを抱えた個性的なキャラクターですが、決して突飛すぎない絶妙なラインに設定されているのが良かったです。
そしていくらでも語るネタがありそうな彼らの過去をほとんど描かず、あくまであの車の中とその周りで起きる出来事からじんわりと人柄をにじませる采配が素晴らしかったです。
特に恋に敗れて自殺未遂を図った叔父と夢の為に沈黙の誓いを立てた長男の距離感の描き方は絶妙で、ドラマチックになりそうなところであえてナチュラルな展開を選択する判断が憎かったです。
諦めの悪い一家は最後まで諦めないことの大切さを体現しているようで、結局誰一人願いは叶いません。
それでも後味が爽やかなのは、諦めずにがんばることはもちろん大事だけれど、どうしようもない時は逃げたって良い、人生ってそんなものだと一家が理解したからこそだと思いました。
いかがでしたでしょうか。
2011年はミニシアター系の傑作からヨーロッパ映画の秀作にハリウッド大作までバラエティ豊かな年でした。
次回の記事では、1997年を取り上げます。
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