今回の記事では、公開年別のマイベスト映画作品をご紹介します。
評点は5.0~1.0まで、0.5点きざみの9段階評価で、平均以上となる3.0以上の作品をランクインさせています。
今回取り上げたのは2007年で、15本の作品が3.0点以上でした。
15位 俺たちフィギュアスケーター 3.0
フィギュアスケート界のライバル同士が異例の男子ペアとして優勝を狙うことになるおバカコメディ。
ジョン・へダーは「ナポレオン・ダイナマイト」での強烈なイメージがどうしても思い起こされてしまうのですが、そのイメージを引きずっていたとしても然程違和感のないキャラクターで良かったです。
「プリズン・ブレイク」シリーズでお馴染みのウィリアム・フィクナーは序盤であっさり退場してしまうので残念でした。
ライバル二人のいがみ合いや、度を越したズルの男女ペアとの攻防、そして恋愛要素とストーリーを膨らませる為のエピソードを広げながらも、最初から最後までブレずにくだらないギャグを入れ続ける演出の一貫性には好感が持て、飽きずに楽しめました。
14位 ダージリン急行 3.0
インドを寝台列車で旅する三兄弟の珍道中を描いたウェス・アンダーソン印のとぼけたコメディ。
父親との、あるいは父親が不在でその代わりとなる存在との関係を描くことの多い監督ですが、今作では三兄弟と母親との関係がテーマとなっています。
並んで歩く姿を横移動でとらえるショットや急なパンを繰り返す得意のカメラワークが随所に見られ、それが独特の雰囲気を作り出しています。
三人の仲は険悪ではないのですが、それぞれが秘密を持ち、それをばらし合うように彼らの間には信頼関係がまるでありません。
それが微妙に変化していく過程と迎える結末は劇的とは言えないのですが、じんわりと胸にしみ、旅に出たくなります。
13位 プラネット・テラーinグラインドハウス 3.0
企画としてはタランティーノの「デスプルーフ」との姉妹編的な位置付けですが、内容に関連性はありません。
あちらが十分に溜めて焦らして最後に爆発させる構成だったのに対し、こちらは終始出し惜しみすることなく、監督の好むあらゆる要素を詰め込んだB級ゾンビアクションとなっています。
ストーリーは真面目に追うだけ無駄で、荒唐無稽な設定、ケレン味あふれるアクション、バカバカしいユーモアに身を委ねて楽しむのに最適です。
どのシーンもインパクトは強く、飽きる瞬間もないのですが、飛び抜けておもしろいシーンがないためか、観終えて印象に残っているのは冒頭のありそうな予告とラストのありそうなエピローグという不思議な作品でした。
予告は「マチェーテ」として嘘から出た誠となったので、エピローグからの続編にも期待してしまいます。
12位 コントロール 3.0
ポストパンクの時代に彗星のように現れて消えていったジョイディヴィジョンの結成からデビュー、そして束の間の栄光をフロントマンのイアン・カーティスの私生活と共に描いた伝記ドラマ。
予算の半分を自腹で賄っての映画監督デビューとなったアントン・コービンは、元来写真家としてバンドに関わっていただけあって、過剰な脚色を排して出来事を淡々と積み上げるスタイルをとっています。
製作に名を連ねる妻デボラの綴った原作に基づいているので、音楽での成功をつかむ裏で妻との不和に葛藤し、死へと引き寄せられていくイアンの心理を描くドラマとしては少し物足りないですし、特にそこに迫ろうとする後半は明らかにテンポが悪くなり物語が停滞しています。
ただそれは原作でも後半のページを歌詞の掲載に割くことで、むしろイアンの心境が雄弁に語られているのと同様で、全編に渡って歌唱シーンにしっかり尺を割くことで、その時々の感情を見事に代弁していました。
サム・ライリーはビジュアルの似せ方も良かったですが、自分の身体から脱出しようともがいているかのようだと評される独特のダンスもマスターしていて素晴らしかったです。
11位 レック 3.0
収益性に長けたPOVのモキュメンタリーホラーが00年代後半からしばらく流行しましたが、その中でも高い人気を誇るシリーズの一作目。
消防隊に密着する番組のカメラを通し、一棟のアパート内で起こる恐怖の一夜を描いています。
ガチャガチャと動く手持ちカメラが大事なところは薄暗くてさらに見づらい映像を映し出し、主な被写体はいちいち絶叫する女性というこの手のジャンルの欠点をしっかり抱えながらも、アトラクション的な怖さと臨場感は楽しませてくれました。
凶暴性が増して身体能力が上がるが人を食べはしない「28日後」タイプかと思いきや、悪魔に憑かれた可能性も示唆される終盤の展開はユニークでした。
何より素晴らしかったのは尺の短さで、カメラを回し続ける設定の説得力が失われ、物語の展開上の限界を迎える前に潔く切り上げたのは正解だったと思います。
10位 ミスト 3.0
胸糞悪い映画として悪名高く、賛否が真っ二つに分かれる作品。
登場人物たちの真剣さに対してクリーチャーの造形は笑えるほど稚拙ですが、それはこの映画がモンスターパニックものではなく、極限状態に追い込まれた時の人間の心理の動きを描くことに主眼を置いた結果とも思えます。
こうした類の映画は観客が主人公たちに感情移入し、自分ならどうすると考えながら観るからこそ、最高に皮肉な結末が単なる意地悪ではなく、アンチ予定調和として効いています。
9位 ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン! 3.0
ミステリー要素と激しいアクションを盛り込んだポリスコメディ。
前半は濃いキャラクターたちがおバカ映画的なギャグを連発して笑いどころが多いのでスルーしがちですが、そこに伏線が隠されています。
中盤に人が死に始めてからは、田舎町でアウェイの状態で住人が次々と殺されていくミステリアスな展開へと進んでいき、ひとしきり死んだ後はガンアクションへと急旋回します。
この手のジャンルにしては長尺ですが、盛りだくさんのストーリーと慌ただしい編集で飽きさせません。
軽く楽しめるのに、くだらない笑いだけでない良作です。
8位 ファニーゲーム U.S.A. 3.0
ハネケが自身の代表作をアメリカでセルフリメイクした作品。
キャストにティム・ロスとナオミ・ワッツというハリウッドで実績のある役者を使い、言語がドイツ語から英語になったこと以外はストーリーはもちろん、カット割なども含めてかなり忠実に再現しています。
それはハネケがオリジナルの出来に不満があってのリメイクではないことを示しているように思いました。
そもそもこの物語が訴えていたのは、エンタメとして消費される商品化された暴力への批判であり、その対象の筆頭がハリウッド映画でした。
アメリカ資本で撮り直すことで、本来のターゲットにメッセージを届けようとしたのでしょうが、少なくとも興行的にはその試みは失敗だったのかもしれません。
7位 スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師 3.0
ティム・バートン史上もっとも容赦のないミュージカルホラーです。
分かりやすく心情を説明してくれるミュージカルパートとバートンらしいダークファンタジー的な雰囲気でカモフラージュされていますが、かなりエグいストーリーと並のスプラッターホラーを凌駕する残酷描写が強烈です。
若者を登場させることで悲しいラブストーリーとしての側面が強調され、主人公が悪魔のように血に飢えていても、過去の出来事が思い出されて感情移入してしまう作りになっています。
それゆえに救いがなく、なんのフォローもない突き放したようなラストにはやるせない気持ちになります。
6位 300 3.0
ギリシア世界を配下に置こうと目論む中東の巨大帝国ペルシアに対し、跪くことを拒んだスパルタの300人の戦士たちの闘いを描いた歴史アクションのヒット作。
くすんだ色味の画面の中に赤いマントが映える独特な映像美と、筋骨隆々な男たちが繰り広げる肉弾戦が大きな話題となりました。
ストーリー性を放棄してアクションに注力したのは娯楽作品としては正しい選択だったと思いますし、実際スローモーションを多用した泥臭い戦闘シーンは楽しめました。
さらにはリアリティも放棄し、火薬と動物も投入するぶっ飛びぶりは最早史劇というよりファンタジーでしたが、それはそれで笑えました。
しかし、中途半端に妻との絡みや評議会のシーンを描くくらいなら、ペルシアの最初の申し出を拒絶することにもっと納得のいく理由を彼らの誇りと紐づけて見せてさえくれたら、彼らのテルモピレーでの奮戦が戦局にどう影響し、さらにはギリシア世界の後の発展の為にどれだけ意義のあるものだったのか、史実が十分にドラマチックな後日談を用意してくれているだけにもったいなかった気がしました。
5位 マーターズ 3.5
00年代に巻き起こったフレンチホラーの流行の中でも特に強い作家性を発揮した鬼才パスカル・ロジェの代表作。
トラウマ級の胸糞映画として有名で、前半は狂気とカオスの中で説明不足気味にハイテンポで展開していき、容赦のない殺戮シーンや不気味なクリーチャーに人体損壊描写といわゆるスプラッタホラーの範疇なのですが、物語的な進展が止まる後半は真骨頂とも言える鬼畜ぶりを見せてくれます。
意識が失われていくのを表すかのような立て続けのフェードアウトは、監禁と拷問の絶望的なほどの長さを感じさせました。
肉体的な暴力だけでなく、食事を与えられる際に雑にスプーンを口に突っ込まれる地味に嫌な描写が、尊厳の否定を感じさせて巧みでした。
死後の世界は存在するかという問いに安直な答えを出さなかったのも、作品が安っぽくなるのを避け、逆に深みがありそうにみせるという点で好判断だった気がします。
4位 その土曜日、7時58分 3.5
社会派として知られるシドニー・ルメットが最後にその手腕を煌めかせた遺作。
誰も損しないはずの犯罪計画が一つのほころびから連鎖的に崩壊していくストーリーは「ファーゴ」を彷彿とさせますが、どこかとぼけた雰囲気で人間の愚かしさを強調しているコーエン兄弟と違って、ルメットはより生々しく、重荷や後悔の念に苦悩する姿を描いていきます。
「ファーゴ」が雪深い田舎町の平穏さと血生臭い犯罪とのギャップを見せたように、今作も平穏な暮らしを象徴するような小型ショッピングセンターを出来事の中心に据え、一家をとりまくこじんまりとした世界観の中で起きる悲劇とのギャップを生んでいます。
時間を巻き戻してそれぞれの視点から物語を構成していく手法は目新しくないですし、転換時の演出には若作り感が否めません。
しかし兄弟の転落劇に父親が絡み哀しい結末へと突き進む終盤の展開は見応えがあり、そこに救いも赦しも与えないストイックさが素晴らしかったです。
3位 JUNO/ジュノ 4.0
16歳の少女の予期せぬ妊娠によって巻き起こる騒動を描いた、00年代らしい青春コメディの傑作。
とはいえ、さほどヒステリックな騒動は起こらず、家族との関係も、友人との関わり方も、赤ちゃんの引き取り手とのやり取りも、やけにリアルでありながら、シリアスになりすぎることも退屈に陥ることもないバランス感覚が素晴らしかったです。
ドラマを生むために理解不能な言動をする人を無理矢理登場させなかったことで、爽快感を生んでいると思います。
言葉選びとユーモアのセンスにあふれた主人公がとにかく魅力的であり、その言動が作品の中に笑いを生みつつ、周囲の人々の微妙な感情の動きを引き出していく様が良かったです。
16歳を主人公としながら、ヒエラルキーもイジメもケンカも描かれないハイスクールの描写が新鮮でした。
2位 4ヶ月、3週と2日 4.0
カンヌの常連となったルーマニアの俊英クリスティアン・ムンジウがパルムドールを受賞した出世作。
国力増強の為の中絶禁止令が多くの孤児を生み、病弱な子供たちの治療の為の輸血がエイズを蔓延させたというチャウシェスク独裁政権下で、望まぬ妊娠をしたルームメイトの為に奔走するも、やるせない出来事ばかりが起こる痛ましい物語です。
長回しと揺れ動く手持ちカメラでヒリヒリとした現実を生々しく切り取る手法はダルデンヌ兄弟の影響を感じさせますが、共産圏を舞台にした映画らしいくすんだ色味の映像が独特で印象的でした。
ホテルの予約さえきちんと取れていたら、ルームメイトが闇医者に嘘をつかなければ、こんなタイミングで彼氏の母親の誕生日パーティーに招かれなければ、不条理劇のような一日の終わりには、そんなたらればが他にいくつも湧き上がってきます。
ラストで主人公が一瞬こちらに向けた視線には、ようやく重荷を降ろしたにも関わらず、結果として自分が他に何重もの呪縛に捕われていたことに気がついてしまった絶望に似た疲弊を感じました。
1位 ノーカントリー 4.0
コミカル路線に寄っていたコーエン兄弟がシリアスかつバイオレントな作風に舵を切り批評と興行の両面で成功を収めたクライムスリラー。
追いつ追われつのシンプルなストーリーなのですが、そこからは徹底的に感情が排除され、そのために独特で異様な世界観に思えるのがおもしろかったです。
いわゆるサスペンス的な見せ方をするのも中盤で銃撃戦となるシーンくらいで、ドラマチックに盛り上がるはずの場面をことごとく見せてくれません。
そのために物語としての因果が無くなり、展開を正にコイントスで決めているような不条理さが漂います。
芯を食わない肩透かしばかりの話になりかねないのですが、映像で語ることにこだわった巧みすぎる演出とハビエル・バルデムの怪演によって画面に釘付けにさせられました。
老保安官が蚊帳の外であることで強調されるタイトルの悲哀と無力感はあまり胸に響きませんでしたが、叔父から語られる自惚れの話が説明しているように、そして青信号でも突っ込まれる理不尽さが象徴するように、何者も物事の因果をコントロールすることはできず、それゆえに道理の通らない出来事が起こるのが世の中だと言うメッセージはとても良かったです。
いかがでしたでしょうか。
2007年はシリアスな社会派からおバカコメディまで、秀作が多く放たれた年でした。
次回の記事では、1990年を取り上げます。
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