映画公開年別マイベスト 2008年

映画年別マイベスト

今回の記事では、公開年別のマイベスト映画作品をご紹介します。
評点は5.0~1.0まで、0.5点きざみの9段階評価で、平均以上となる3.0以上の作品をランクインさせています。

今回取り上げたのは2008年で、16本の作品が3.0点以上でした。

16位 ブラインドネス 3.0

視力を失う感染者が蔓延した世界で隔離施設に収容された人々の姿を描いたパンデミックもの。
病の原因を追求することはせず、環境下での人間がどんな行動を取るかに焦点を当てています。
施設の状況や軍隊の言動などその肝心な環境設定に説得力がないのは気になりましたし、奉仕ばかりでなかなか状況を打開するアクションを起こさない主人公が不自然でしたが、欲望と暴力が渦巻き出す展開はありがちながらそれなりに見応えがありました。
序盤では主要人物たちが皆素敵な家に住んでいただけに、収容所の汚れ具合とのギャップは強烈です。
後半の展開は方向性自体は良かったと思うのですが、ほとんど何も起こらず、アイディア不足で尻すぼみな印象でした。
ハッピーエンドなようで、切なさの残る結末も良かっただけに、クライマックスのない終盤の失速がもったいなかったです。

15位 アイアンマン 3.0

闘う社長アイアンマンの1作目であり、マーベルの一連の作品群の始まりとなった作品。
中東のテロ組織に拉致されたことがきっかけとなってスーツは開発され、そこから後々主人公を悩ませることになる暴力の連鎖は始まります。
しかし今作ではそういった悩みや迷いはなく、ただ悪いやつを叩きのめすヒーローの誕生として描かれているのでシンプルに楽しめます。
ストーリーのピークはスーツが完成した時で、序盤のプロトタイプを見せられているからこそ、完成時の喜びとワクワク感を共有できます。

14位 96時間 3.0

「シンドラーのリスト」等に主演し実力派俳優として知られたリーアム・ニーソンが50代にしてアクション俳優へとイメージチェンジした人気アクションシリーズの一作目。
娘が初めての海外旅行でパリに着くや否や人身売買組織に誘拐され、怒りに燃える無敵の父親が娘を取り返す為に組織の居所を突き止めて単身乗り込んでいく物語です。
娘のおバカっぷりは導入でイライラするほど強調されていて、笑えるほど速攻でさらわれるのも納得してしまいました。
主人公が正義の為ではなく、あくまで娘を取り返す為に動くので、無関係な人々を巻き込もうが意に介さないのが特徴で、それが猪突猛進なスピード感と爽快感を生んでいる気がしました。
そして娘の描かれ方は、主人公のそんな親バカっぷりにも妙に説得力を与えていておもしろかったです。

13位 TOKYO! 3.0

独創的なMVで注目されて映画界に進出したミシェル・ゴンドリー、ゴダールの再来と評された鬼才レオス・カラックス、韓国の新進気鋭の若手監督だったポン・ジュノの三人が、東京を舞台に日本人のキャストを使って撮り上げた短編3編のオムニバス。
ゴンドリーによる「インテリア・デザイン」はMVを主戦場としていた成果か短い尺の中でもしっかり物語が成立しているだけでなく、若者のアイデンティティと焦燥感というテーマをファンタジックなコメディにうまく落とし込んでいます。
カップルの独特なノリの会話など、外国語で作ることが難しそうな部分も見事にクリアしていて素晴らしかったです。
制作スパンが長いことで知られるカラックスの「メルド」は、ゴジラのテーマ曲と咆哮の笑ってしまう引用から肩の力を抜いて作ったようなユーモアが伝わってきます。
銀座と渋谷でロケをした後はそそくさと室内に移るあたり、東京という街への理解はミーハーな観光客並みで、その点でも今作へのラフなスタンスが感じられました。
ジュノの「シェイキング東京」は分断された社会の中で、分断を望む人々を天災が結びつける皮肉なユーモアを描いています。
ストーリー性は希薄ですが、隣国の監督とあって日本観への違和感はありませんでした。

12位 ロルナの祈り 3.0

ダルデンヌ兄弟がカンヌで脚本賞を得た社会派ドラマ。
国籍を得るための偽装結婚から生きる道を切り拓こうともがく女性の姿を描く物語です。
ダルデンヌ作品常連のジェレミー・レニエのうだつが上がらない薬中男は過去に演じたキャラクターに通じるもので、ボウルのような器で出された水を犬のように飲む頼りない姿と同時に、純朴な面も垣間見せるのが切ないです。
中盤で愛のようなものが生まれる場面の唐突さに面食らいましたが、それに続く2つのシーンでは更に感情がスキップされています。
ストーリーの中で最もドラマチックな場面を意図的に排除し、その隙間に何を読み取るかで話の受け取り方が変わる驚きの語り口でした。
終盤の展開を見ると、主人公が信じ守ろうとしたものは愛の結晶ではなく、失われた命と引き換えに夢を掴むことへの罪悪感を緩和するものだった気がしました。

11位 ウォレスとグルミット/ベーカリー街の悪夢 3.0

ニック・パークが長編作品への取り組みを経て戻って来た名作クレイアニメシリーズ4本目の短編。
宅配パン屋を営む2人が出会った女性とウォレスは恋に落ちますが、パン屋ばかり狙った連続殺人犯の魔の手が2人にも忍び寄る物語です。
賢いグルミットの探偵ぶりが発揮される前半はスリル満点ですし、後半のドタバタアクションのスピード感も素晴らしかったです。
グルミットの恋愛要素も新鮮で楽しく、短い尺の中に本シリーズの魅力が詰まっていると思います。

10位 ランボー 最後の戦場 3.0

野蛮で下劣で人間味のない悪役に、腹が立つほど清廉なヒロイン。自信家で憎たらしい傭兵仲間に、無愛想だけど世話焼きなランボー。
キャラクター設定と彼らが織りなすストーリーはあまりにも類型的で創造性は感じられません。
しかし見世物映画としての立場を潔く受け入れ、テンポの良いバイオレンスショーに徹してくれたことで、メッセージを受け取ろうという気を起こさずに単純に楽しむことができました。

9位 ダークナイト 3.5

公開当時から高い評価を受け、爆発的なヒットを記録した傑作。
今作で強烈な存在感を放ったヒース・レジャーの死によって作品自体が神格化された感すらあります。
善とは何か、悪とは何か、という哲学的なテーマを真正面から描きながら、説教臭い作品とはならず、娯楽性もしっかりと担保したバランスが素晴らしいです。
マスクとマントを見にまとい、市民のために闘うといういかにもマンガチックなキャラクターをあくまでもシリアスに、リアルに描いて、ある種の寓話として機能させています。
流れるようなオープニング、有名な取調室からの二者択一、白昼の病院爆破と名シーンが続いた中で、味わい深くも地味な結末は続編を見越したようで少し物足りなくは感じました。

8位 スラムドッグ$ミリオネア 3.5

若者たちの成長や葛藤を描きながら、人間の愚かさや醜さを炙り出すブラックな視点が持ち味のダニー・ボイルがその真骨頂を発揮しながら見事な人間ドラマへと仕上げた傑作。
世界的に有名なクイズ番組を軸にして主人公の人生を振り返っていく構成はうまく物語の推進力となっていました。
子どもにとって生きることさえ過酷なインドのスラム街での暮らしを時に残酷でシリアスに、時にコミカルでスタイリッシュに見せていく緩急自在の演出が見事でした。
話がうまくできすぎていて説得力には欠けており、多少ストーリーが複雑化したとしても、問題の出題順に応じて振り返られる過去が前後しても良かった気はします。
運命と結論付ける結末はロマンティックではあるものの、主人公の苦闘の歴史とも言える人生や兄の哀しい末路、ツイテいなかった友人達の存在の意義をぼやかしてしまうものに感じられ残念でした。

7位 レスラー 3.5

リングの上にしか居場所を見つけられない中年レスラーの不器用な生き様をアロノフスキーが描いた秀作ドラマ。
かつてはスターレスラーとして脚光を浴びたが、家族を蔑ろにし、選手としてのピークもとうに過ぎてスーパーでバイトしながら小さなリングを拠り所にする男の悲哀を描く物語です。
ヘアメタルにファミコンにマチズモという角度の80年代懐古には共感できないのですが、主人公の立場と価値観を端的に表す秀逸な演出でした。
賞賛されたミッキー・ロークのキャスティングとそのパフォーマンスも確かに素晴らしいですが、それ以上に世界観の構築が見事に感じました。
ドラマを引き立たせるためには主人公の孤独を強調したくなりそうなところですが、疎遠になっている娘を含めた周囲の人々との距離感や、根強いファンの存在が絶妙なリアリティを演出しています。
それだけに後半の娘とのやり取りをエモーショナルに描きすぎているのがもったいない気がしました。
それでも”Sweet Child o’ Mine”が流れるタイミングは抜群ですし、次作「ブラック・スワン」のラストのダイブと重なる幕の引き方も良かったです。

6位 レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで 3.5

「タイタニック」の主演コンビが再共演して話題となった家庭内ドラマ。
日々の暮らしにそれぞれの不満を抱えた夫婦が現状を打開する計画を立てるも、かえって両者の溝が浮き彫りになっていく物語です。
この2人に加えキャシー・ベイツまで出せば観客が嫌でもあのロマンスのホワットイフを期待するのを見透かすように、人間の生々しい部分を描くことに長けたサム・メンデスは犬も食わない赤裸々な夫婦喧嘩を容赦なく見せつけてきます。
お互いが相手のためにと口にしながら、まるで相手の気持ちを汲み取れていない痛ましさが良かったです。
特に秀逸なのは口論の最中よりもむしろ一見平静な時の描写で、噛み合わないネガポジのトーンは何とも身につまされる絶妙さであり、その極致が今作のメッセージが凝縮された素晴らしすぎるラストシーンのオチだったと思います。

5位 チェンジリング 3.5

衝撃的な実話を基にしたヒューマンドラマ。
ともすれば不条理劇になりかねないあまりにも理不尽な前半のミステリアスな展開ですが、適度に主人公の味方を登場させることでストーリーに説得力を持たせています。
後半のきちんと正義がなされていく過程には一定のカタルシスがあるものの、主人公の心が晴れていかないのは明白です。
それでも折れることがなかった理由を希望とする結末にはイーストウッドらしからぬ前向きな楽観視が感じられるのですが、ラストの字幕の最後の一文からはそれが彼女にとって幸せだったのかという含みがあるようにも感じてしまいました。
無理に美談風にするのでなく、最後まで悲劇は悲劇として描いた方が良かったと思います。

4位 ベンジャミン・バトン 数奇な運命 4.0

老人として生まれ、年をとるにつれ若返っていく男の数奇な運命を描いたファンタジードラマ。
最大の焦点は恋人とのすれ違いで、若返っていく自分と年老いていく恋人という対比が普通の恋愛ものとは異なるどうしようもない切なさを生み出します。
ベンジャミンの一生は誰も体験できないものですが、彼が経験してきた一つ一つの出来事はありえないことではなく、誰にでも起こり得るものです。
人生の中で、ほんの少しどこかでボタンがかけ違っていたら、運命は予想もしない方へと転がるかもしれない。
人生の奇妙さ、不思議さ、おもしろさ。フィンチャーらしいダークさが薄めのファンタジックなストーリーの中には、そんな要素が散りばめられていました。

3位 僕らのミライへ逆回転 4.0

ミシェル・ゴンドリーによる映画愛が詰まったヒューマンコメディ。
時代遅れのレンタルビデオ店が名作映画を勝手にリメイクして貸し出したら思わぬ人気を集めてしまうストーリーです。
ジャック・ブラックが相変わらずハチャメチャな男を演じているのですが、物語の焦点はむしろ相棒と店長に当たっていることで、おバカな展開も不思議とハートフルに感じられて魅力的でした。
映画作りの工夫やアイディアから感じられる青春映画のようなノスタルジーは、映画好きならずとも共感できそうな微笑ましさでした。
劇的すぎる奇跡は起こさず、問題の解決をはっきりと示さないあっさりとした引き際は、映画が現実的な問題を解決できなかったとしても、観客に夢を見せることはできるという控えめながらも胸にしみるメッセージだった気がします。

2位 ぼくのエリ 200歳の少女 4.0

ヴァンパイアはその吸血という行為がエロティックなイメージをまとい、他のクラシカルなモンスターに比べ恋愛要素と相性の良い題材です。
今作はヴァンパイアらしい血生臭い描写でその恐ろしさを保持しながら、少年の儚ない恋というイノセントな要素が見事にブレンドされた秀作です。
印象的なのは少年の親の存在感の薄さで、一緒に食事や歯磨きをするシーンはあっても共に暮らしを営んでいる感がありません。
当然彼が受けるイジメなど知る由もないことが想像でき、解決の糸口がないという意味では、肉体的な虐待を受けるよりもしんどい環境である気がしました。
もう一つ印象的だったのは少年の豹変ぶりで、相手が普通でないと分かった途端、高圧的な態度をとります。
相手の弱みを握ったことで得られる自己肯定感に酔いしれ、自分を頼りすがる存在によって自身の存在意義を感じるような、積み重なった無視と否定によって歪んだ少年の心を見た気がしました。
ヴァンパイアが孤独な人間の自尊心を刺激して生き長らえていくことを示唆する結末は、純愛というより共依存で、切なく悲しいハッピーエンドでした。

1位 グラン・トリノ 4.5

最愛の妻を失い、息子や孫とも分かり合えない頑固者の老人と少年の交流を描いた人間ドラマであり、イーストウッドの遺書にも思える傑作です。
人種が違うから、言葉が違うから、文化が違うから、そして価値観や思想を共にして同化しないから、そんな理由で敵対して憎しみ合い、不安の解消は暴力に訴える。
主人公は作中で朝鮮戦争に言及しますが、それは人間が歴史上何度も繰り返してきた過ちであり、ご近所トラブルのような身近なレベルでさえ、同様に他者と異文化への無理解が原因となっているのです。
自らの正義の下に、トラブルを暴力で解決する役柄を多く演じてきたイーストウッドは、「許されざる者」でその連鎖する暴力の不毛さを描きました。
その後、生きることの意味と意義を問い直すような作品を撮ってきた彼が行き着いた結論が、そのまま今作の結末となっています。


いかがでしたでしょうか。
2008年は00年代を代表する作品がいくつも誕生した中で、70代のイーストウッドが素晴らしいパフォーマンスを披露した年でした。
次回の記事では、1995年を取り上げます。

コメント

タイトルとURLをコピーしました