今回の記事では、公開年別のマイベスト映画作品をご紹介します。
評点は5.0~1.0まで、0.5点きざみの9段階評価で、平均以上となる3.0以上の作品をランクインさせています。
今回取り上げたのは2010年で、12本の作品が3.0点以上でした。
12位 RED/レッド 3.0
引退して静かに暮らしていた初老の元凄腕捜査官たちが集結し、派手な銃撃戦を繰り広げるアクションコメディ。
中高年の面々が披露するスマートなアクションと青臭い恋愛というギャップがおもしろみを生んでいます。
ストーリーはいたって平凡で、場面転換を始め演出も古臭いのですが、コミカル度合いがほどよいので楽しんで観られました。
11位 ザ・ファイター 3.0
役者の実力を引き出し輝かせることに定評のあるデヴィッド・O・ラッセルがアカデミー賞の常連監督へとステップアップする契機となった実話を基にしたスポーツドラマの秀作。
ボクサーとしてくすぶっている主人公を取り巻くのは、過去の栄光にすがったままドラッグに溺れ犯罪に手を染める兄、やかましく口の悪い姉たち、過保護で支配的な母親、そしてそんな彼の家族を憎み抜け出させようとする恋人と設定はありがちな家庭ドラマのようですが、どちらを善とも悪とも割り切らない描き方のバランスが素晴らしかったです。
しかし破綻していた関係が崩壊したことで逆にあっさりと結び付き、ポジティブな雰囲気のままラストまで駆け抜けてしまうのは中盤までの絶妙なタッチからすると拍子抜けでした。
ツェッペリンにレッチリにエアロスミスと幅広い年代からロックのビッグネームの楽曲を使うのも安直な演出に感じてしまいました。
10位 英国王のスピーチ 3.0
第二次大戦へと突入していく緊迫した情勢下のイギリスにおいて、吃音に悩む国王の姿を描いた実話に基づく物語。
即位前の聴覚士との出会いに始まり、二人の友情と信頼関係が築かれていく過程を主軸にしながら、困難に立ち向かって克服していく主人公の姿と雲行きが怪しくなっていく国際情勢が逆行するかのように語られます。
主人公の前進と国の平和の後退の交点が、クライマックスでのスピーチとして配置された構成は見事でした。
あの演説が国民にとってどれだけ重要だったのかを伝えるためには、もう少し世の中の状況を描くべきだったと思いますし、純粋な筋の面白みには欠ける気はしますが、良くできた上質なドラマではありました。
主人公をとらえる際に被写体を中心に置かず背後の空間を強調するような美しい構図が印象的で、一夫や一父親としてはさして問題にもならない吃音というビハインドが、国王という立場にあることでとてつもなく重たい十字架になっている主人公の苦悩と不安が感じられる気がしました。
9位 リミット 3.0
棺の中に閉じ込められた男がライターや携帯電話などいくつかのツールを頼りに脱出を試みるスペイン製のシチュエーションスリラー。
過去の回想を挿入したり、外の世界でもう一つの軸を並走させたり、シチュエーション外の要素を組み合わせて成立させている作品が多い中で、あくまでもワンシチュエーションにこだわりきったことは素晴らしかったと思います。
特にそれが一室どころか狭くて暗い棺の中というシチュエーションであれば画的に間がもたなくなるのは避けがたいですが、カメラワークに工夫を凝らした努力の跡がうかがえるあたり好感が持てました。
コミュニケーションがうまくいかないことへの苛立ちが重なる展開は皮肉な意図が感じられておもしろく、後半に尺稼ぎ的なハプニングが起きて脱線気味なのがもったいなかったです。
救いのない結末は容赦ないだけでなく、コンセプトを守りきっていて良かったです。
8位 スーパー! 3.0
後にスーパーヒーロー映画の監督を務めることになるジェームズ・ガンが手がけたコメディ。
うだつの上がらない中年男がマスクとコスチュームに身を包んで悪を成敗することに目覚めてしまう物語です。
わずかに早く公開された「キック・アス」と類似した設定を比較され、必要以上に低く評価されてしまった印象ですが、ギャグのセンスもキャラクターも決して悪くなく、アクション要素が劣る分コメディとしてはむしろこちらの方が楽しめました。
メインの二人の好演に加え、脇を固めるキャストが豪華で、ビッチな妻にリヴ・タイラー、悪党にケヴィン・ベーコンとその右腕にマイケル・ルーカーと贅沢な配役でした。
終盤はオタクの妄想的な都合の良い展開が多くなり、強引で唐突なオチも含めて失速してしまったのがもったいなかったです。
7位 エクスペンダブルズ 3.0
往年のアクション俳優オールスターが集結した豪華なお祭りアクションシリーズの1作目。
独善的なアクション描写やストーリーの薄さは批判するのが野暮であり、潔くおバカ映画に徹することがこの企画の本丸だと理解していることに好感が持てました。
スタローンは監督としての前作でも取り入れたハードなバイオレンス描写を今作にも反映し、80年代アクション的なベタな展開の中にアップデートされた部分をミックスしています。
後の続編がアクションもキャラクターも肥大化していくのを知ってから観ると、一作目のシンプルさが余計に好ましく思えてきます。
6位 127時間 3.0
渓谷めぐりの最中に谷に落ちて岩に手を挟まれ、身動きがとれなくなった男の生き残るための孤独な戦いを描く実話を基にしたドラマ。
ストーリーとしてはそれだけなのでおもしろみはないのですが、今際の際で人生を振り返るありがちな哲学ごっこに終始することなく、妄想や空想、フラッシュバックする俗っぽい記憶を映像的な工夫を凝らして見せてくれるので、変わりばえのない場面設定でも飽きずに楽しめました。
何よりの見どころはジェームズ・フランコの一人芝居で、特にクイズショーごっこでの顔芸が最高でした。
クライマックスでの苦痛の表現も素晴らしく、その後の光に包まれるようなラストシーンからのご本人登場の流れもあざとい演出ではあるのですが、卑怯なほど良かったも確かです。
5位 タッカーとデイル 史上最悪にツイてないヤツら 3.0
ティーン向けスラッシャーホラーの設定をパロディした良作コメディ。
勘違いが連鎖する前半の展開はコントのようでおもしろかったです。
田舎者は都会の人間に比べて粗野で暴力的というステレオタイプなイメージの逆をつくキャラクターも笑えました。
メインの2人が奥手なためか下ネタは控えめですが、代わりにエグい描写を容赦なく見せてくれるので楽しかったです。
クライマックスに向けてストーリーが脱線していきやや停滞しますが、収集つかなくなりかけたところで、軌道修正して元の路線に戻って着地してくれたので安心しました。
4位 トイ・ストーリー3 3.5
10年以上のスパンを経て制作された大ヒットCGアニメーションシリーズの三作目。
前作は人間側にもおもちゃ側にも小悪党を配して今ひとつアドベンチャーへのワクワク感やストーリーの推進力が欠けているような印象でしたが、今作はおもちゃのコミュニティの中に強烈な敵役を配した設定でスタンスが定まり目指すところが明確になったおかげでとても観やすかったです。
保育園の乱暴な遊び方の子どもたちには悪意がないと思うのですが、それをおもちゃにとっての災害かのように描き、いわゆる良い子の遊び方と対比させるのは、大人目線の良い子の遊び方の型を作っているようで違和感がありました。
ただ、前作で主張された持ち主に尽くすことがおもちゃの喜びであり使命であるというメッセージを年月の経過と子どもの成長と共にうまく発展させたメッセージは良かったです。
クライマックスとなる脱出シーンのスリルもメインの二人を中心としながらも、各キャラクターに見せ場を作る構成は素晴らしかったです。
ラストの引渡しシーンでは双方の感情を丁寧に描写して、三作通して描いてきた物語に対するこれ以上ない幕引きを見せてくれました。
3位 キック・アス 3.5
アメコミ原作であり、ヒーローもののアメコミへの愛にあふれたバイオレンス描写満載のアクションコメディ。
ヒーローに憧れる若者がスーパーパワーを手に入れることなく、ただひたすら訓練をつんで悪に立ち向かう物語は少年心をくすぐります。
その成り立ちから成長までをテンポ良く、ハードなアクションと青春映画的な要素も含めてコンパクトに詰め込んだストーリーが良かったです。
主人公よりも本物の2人のヒーローが魅力的なキャラクターになっており、特にヒットガールはその見た目にそぐわぬ言動が一部では批判を浴びたそうですが、それ以上に熱狂的なファンを生みました。
2位 ソーシャル・ネットワーク 3.5
世界最大のSNSとなったフェイスブックの創設ストーリー。実話をベースとしながらも、そのキャラクター描写は大幅に脚色されているようです。
ストーリーは訴訟などトラブルがいくつも起きる割には平坦です。
事業として成功する結果が見えている以上、そこにサスペンスは生まれようがないので、盛り上がりを作ることを放棄しているようにさえ見えます。
代わりに人と人の微妙なすれ違いなど、コミュニケーションの不全を描くことに注力しています。
人とのつながりを世界中に提供しながら、自分自身は本当につながりたい人とつながれていない。
オンライン上の中見ないつながりの虚しさは主人公自身が一番わかっていたのかもしれません。
1位 ブラック・スワン 4.0
抑圧から解放へと向かう人間心理を描いたサイコスリラーの傑作。
バレエの世界を舞台にしていると、主役の座をめぐってのドロドロとした人間関係がイメージされますが、今作はむしろ主人公の内面のドロドロとした部分にフォーカスしています。
母親による異常な支配と抑圧、抜擢された大役へのプレッシャー、ライバルの存在によって刺激された自身が抱える劣等感。
自身の殻を強引に破ることの苦しみは、主人公の精神を追いつめ、ストーリーを悲劇的でありながら多幸感あふれる結末へと運んで行きます。
芸術至上主義的な雰囲気をまといつつ、自己破壊による自己実現の物語として普遍的な魅力を持った作品です。
いかがでしたでしょうか。
2010年はアクション大作からアニメにコメディ、スリラーまでバラエティ豊かな作品がそろった年でした。
次回の記事では、2022年を取り上げます。
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