今回の記事では、公開年別のマイベスト映画作品をご紹介します。
評点は5.0~1.0まで、0.5点きざみの9段階評価で、平均以上となる3.0以上の作品をランクインさせています。
今回取り上げたのは2013年で、6本の作品が3.0点以上でした。
6位 グリーン・インフェルノ 3.0
意識の高い環境保護団体の勘違い学生グループが、食人族が住むアマゾンの森に不時着し、散々な目に遭う物語。
食人族を悪者ではなく単に文化が違うだけの人々として描き、環境を守ろうが破壊しようが文明人たちは皆、傲慢で自己中心的だと批判しているような印象を受けました。
さらには残酷に思える彼らの食文化も、立場を変えれば自称文明人たちがしていることと何ら変わりないではないかと主張しているようでもあります。
とはいえラストのこけおどしで、結局は人体損壊の残酷描写が撮りたかっただけだと思い出させてくれるあたりが素敵です。
5位 鉄くず拾いの物語 3.0
旧ユーゴスラビア出身の社会派ダニス・タノヴィッチがショッキングな実話を演技経験のない本人たちを役者として起用して再現した半ドキュメンタリーのドラマ。
ダルデンヌ兄弟を思わせるテーマ選びとアプローチで、鉄くずを売って暮らす貧しい一家が直面する冷酷な社会の仕打ちを生々しく描いた物語です。
医者以外は全て当事者が本人役を演じているらしく、悲劇のきっかけとなる流産でソファに寝込んでしまった母親の周りで無邪気にテレビを見る子供たちの姿がリアルで、それを手術中に病院の廊下でも繰り返すことで一家を襲っている厳しい現実とのギャップが強調されています。
電気が復旧して部屋に明かりが灯るラストは、改善はされないまでも元の暮らしが取り戻されたことを示す希望ある結末だった気がします。
しかしその後の現実世界で父親を見舞った悲劇を知ると、その慎ましい暮らしとささやかな幸せがいかに尊いものだったかを思い知らされると同時に、こうした環境と状況から抜け出す道はなかったのかとやるせない気持ちになりました。
4位 インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌 3.0
60年代初頭のニューヨークでフォークシンガーとしての成功を夢みる男を描いたコーエン兄弟によるコメディドラマの良作。
ユニークなのはミュージシャンである主人公が音楽に情熱を注いだり、成功をつかむために悪戦苦闘するというよりは、身の回りの出来事に振り回されたり、堕胎費用や船に乗る費用を工面するために奔走したりする姿に主眼を置いているところで、音楽映画を期待する観客の期待を微妙にかわしてくるあたりにコーエン兄弟らしさを感じました。
主人公の歌声は誰が聴いても素晴らしいと感じるにも関わらず、まるで芽が出そうな気配がないあたりには才能の有無を超えた運命のようなものを感じさせ、気まぐれに姿を消しても本能的にいるべき場所に舞い戻る猫は、どんなに運命に抗おうといずれは何者も在るべき居場所に収まることを示しているような気もしました。
3位 死霊館 3.5
後に続編やスピンオフが多数制作された人気オカルトホラーシリーズの一作目。
冒頭の実話であるという前振り、並行して描かれる専門家の夫婦のエピソード、それらによってこれから心霊現象が起こることを十分に意識させられます。
しかし当事者一家の身の回りで起こるのは閉ざされた地下室や動物の死といった周辺での出来事に始まり、続いてポルターガイスト的な現象とひっきりなしではあるもののその進展はじわじわとしたものであり、見えない何かによる恐怖を散々見せつけてから最初のピークを迎えます。
夫婦が調査に乗り出すまでのシークエンスで、お化け屋敷型のホラーとは一線を画していることを十分に知らしめています。
後半以降では部屋中引きずり回されるようなパニックシーンも交えつつも、安易に悪魔を登場させてモンスター映画にしてしまうようなことはせず、オカルトとしてシリアスなトーンを保ったことが素晴らしかったです。
2位 オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ 3.5
音楽に文学に科学に天文学と映画に留まらない引用が散りばめられたジャームッシュ印のヴァンパイアムービー。
何百年も生きてきた吸血鬼の夫婦が、人間の生み出してきた芸術や発明を愛し、それをないがしろにする大衆に嫌悪感を抱きつつも、世の目を忍んでひっそりと愛し合って暮らす日々を描く物語です。
人間の創造物を味わい尽くすには数十年の人生では短すぎるという想いを何世紀も生きる吸血鬼に託す発想は素晴らしく、主演2人のヴィジュアルもその設定に説得力を与えるのに十分でしたし、陶酔感のある音楽も良かったです。
中盤で登場する妹の言動とそれに対する主人公の態度により、どんな種族にも存在する文化芸術に理解のない生き物への嫌悪が際立っていく展開も秀逸でした。
しかし偉人の名前をこれ見よがしに口に出すセリフの陳腐さは否めず、そこにユーモアがあればまだ良かったのですが、メッセージのためのセリフになってしまっているのがもったいなかったです。
1位 天才スピヴェット 4.0
10歳にして永久機関を発明した天才児が、スミソニアン博物館までの冒険を通じて家族と共に心の傷を乗り越えるまでをユーモアたっぷりに描いた物語。
天才児だけれど生意気でなく、子どもらしく奮闘する主人公のキャラクターが新鮮でした。
「アメリ」では頭の中に広がる想像を映像化する演出が楽しかったですが、今作では頭の中に広がる思考を映像化しています。
主人公は双子だけれど体格で勝る弟の方が、カウボーイ気質の父に自分より愛されていたのではないかと思い悩み、その事故死に対して罪悪感を覚えています。
それは賢い頭でも処理できない感情でした。
そしてその死に対しては、飼い犬も含めて家族のみんなが喪失感を抱いていました。
発明がきっかけで舞い込んだ、オハイオからワシントンD.C.までアメリカ横断の大冒険によって、結果的に家族がまた団結する様にはほのぼのとした感動がありました。
いかがでしたでしょうか。
2013年はミニシアター系の作品が強かった年でした。
次回の記事では、2008年を取り上げます。
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