映画公開年別マイベスト 2014年

映画年別マイベスト

今回の記事では、公開年別のマイベスト映画作品をご紹介します。
評点は5.0~1.0まで、0.5点きざみの9段階評価で、平均以上となる3.0以上の作品をランクインさせています。

今回取り上げたのは2014年で、12本の作品が3.0点以上でした。

12位 セッション 3.0

メインの二人の鬼気迫る演技合戦が話題を呼び、監督ディミアン・チャゼルの出世作となった音楽ドラマ。
人格否定も厭わない鬼指導者とプロのドラマーとしての成功を夢見て私生活をも犠牲にする青年の狂気すら感じるぶつかり合いが見どころです。
緊張感あふれる特訓シーンは迫力がありますし、終盤の感動方面ではなくサスペンスな展開を経てから結末に至る流れもユニークでした。
ただ、観客もバンドメンバーも身の回りの人々皆なを置き去りにする二人からは音楽への情熱というより、人格異常っぷりを感じてしまいました。
プロとしての厳しさと熱い想いに胸を打たれていれば、最高潮のテンションでの唐突な幕切れが快感のラストに感じられたのだと思うのですが、もはやプロとしての誇りが見えない終盤の展開で二人に異常さを感じてしまうと、どうせなら復讐を仕掛け合うサイコサスペンスにでもしてほしかった気持ちが湧き、消化不良でした。

11位 ビッグ・アイズ 3.0

実在の画家マーガレット・キーンの絵を使ってその夫が企てた成り替わり騒動の顛末をティム・バートンが描くドラマ。
結婚式やスーパーでの買い物シーンにらしい色彩感覚が発揮されていましたが、それを最小限に抑えた実直な演出が実話ベースの題材にマッチしていました。
妻の才能を夫が利用したとしても、そこに互いのリスペクトがあれば夫は自分の過ちに気づくことをジョン・レノンは示しましたが、こちらの夫はそうではなかったようで、愚かな小悪党として描かれています。
夫も芸術家の端くれならば妻の才能に対する劣等感はあったはずで、その葛藤が振り切れて妻への支配に至ってしまう過程を深掘りしたり、シュワルツマン演じる画商との比較をもっと効果的に使ってビジネスマンとしての才能を強調して見せたりすればより奥行きのあるドラマになっていたと思います。
コミカルな法廷シーンの先のライトな結末にはエンタメとしての爽快感はありましたが、物語の見応えとしては少し物足りなかったです。

10位 キャプテン・アメリカ ウィンター・ソルジャー 3.0

アベンジャーズとして他のヒーローたちと並び立った時、戦闘能力的にどうしても見劣りしてしまい、統率力でその存在感を発揮するしかなかった哀しきキャプテンが汚名返上とばかりのアクションを披露するシリーズ二作目。
前半は組織内部に潜む陰謀が語られ、味方が敵になっていく展開がスリリングな一方でアクションはパッとしない銃撃戦に終始します。
しかしハイウェイでの襲撃シーンはスピード感と戦闘のアイディアにあふれて素晴らしく、そこから展開される特殊能力を使わない物理的な戦いは見応えがありました。
続きありきのストーリーにはあまり興味がわきませんでしたが、娯楽映画としての魅力は前作から大きく増した気がしました。

9位 ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール 3.0

スコットランドのインディーポップバンドであるベル・アンド・セバスチャンの中心人物スチュアート・マードックが手がけた音楽青春映画。
全編を彩る瑞々しく、繊細で美しいアコースティックギターを基調とした音楽はベルセバ以外の何者でもなく、ただその心地良さに身を委ねるために作られたような作品でした。
若者たちがバンドを組み、恋をして、それぞれの生き方を選択する展開は青春映画の王道でありながら、今ひとつストーリー性に欠ける印象は否めません。
魅力的なキャラクターたちも活かしきれておらず、友情と愛の狭間で揺れ動く青年の心にもっとフォーカスしてしまっても良かった気がしました。
三人乗りのカヤックで育まれた友情が二人乗りの自転車に終着するエンディングは素敵でした。

8位 サンドラの週末 3.0

勤め先から週明けに自身の解雇か従業員全員のボーナスカットかを決める投票を行うことを言い渡された主人公のみじめな週末を描いた物語。
ダルデンヌ兄弟らしい人生の哀しくやるせない場面を切り取って未調理のまま提示するようなスタンスは健在です。
主人公にとって解雇は単に収入が減るという経済的な問題でなく、あなたは不要な存在だと突きつけられることです。
休んでいる間にいなくても仕事が回ると気付かれてしまうことは、誰しもが陥る可能性のある存在意義の喪失だと感じました。
決して生活に困窮しているようには見えない主人公のみじめで自分本位にも思える週末の行動は、職を失わないためでなく、自身の存在を証明するためだったのなら、この結末は勝利であり、満足気な表情にも納得がいきました。

7位 パラドクス 3.0

同じ空間をループし続けて時間だけが過ぎていく世界に迷い込んだ人々を描くメキシコ製SFスリラー。
前半で描かれる循環構造を持った空間に閉じ込められるという発想自体はワンシチュエーション系の低予算作品にありがちですが、今作はあくまでそれを後半の展開への前フリとして使っているのが新鮮でした。
設定ありきでオチをこじ付けたのではなく、結末ありきで前半の状況を考え出したように感じられるところに好感が持てました。
ループの裏にある真実とそこから訴えたいメッセージに繋げたいが為に、強引な展開に陥っている場面も少なからずあるのですが、シチュエーションへのアイディアだけで物語を着地させることを放棄している作品よりもずっと納得感があったと思います。
ただ、画的なインパクトを優先させたのかもしれませんが、老いに対する偏見に近いスタンスはもったいなく、もう少しフラットに老いることの哀しみや切なさを見せてくれた方が心に響いた気がしました。

6位 ジャージー・ボーイズ 3.0

ブルーアイドソウルの代表格フォーシーズンズの結成とその後の活躍を描いたヒットミュージカルをイーストウッドが相変わらずの早撮りで手がけた音楽映画。
音楽に造詣の深いイーストウッドだけにその使いどころを良く心得ており、初のヒット曲を手にするまでに1時間かけてじっくりと下積み時代を描いています。
そして栄光の時代をヒット曲の数々と共にあっさりと駆け抜けた後は、公私のトラブルに見舞われるパートをしっかりドラマとして見せています。
この構成によってラストに待つ最も有名な曲の誕生がドラマチックになり、能天気に思えたラブソングを見事に意味のあるものにしています。
ショービジネス界での苦労と成功、メンバーとの結束と衝突、家庭内でのトラブルとこの手の伝記映画の定番の内容で目新しさには欠けましたし、イーストウッドらしい重苦しいドラマは見られないのですが、職人監督のように手堅く楽しめる内容を軽やかに撮りあげることもできる手腕は自身のプロダクションでB級作品を多く手がけてきた経験の成せる技のような気がしました。
ただ、観客に語りかける演出は前半の下積み時代においてはテンポを生み出してくれて良かったのですが、ラストはさすがにクドかった気がしました。

5位 グッドナイト・マミー 3.5

双子の少年のもとに顔を包帯でぐるぐる巻にした母親が帰って来るも、どことなく違和感を覚える奇妙な振る舞いに偽物ではないかと疑念がふくらんでいくオーストリア製スリラー。
音楽もなく、台詞も登場人物も少ない中で生活感の薄い親子の暮らしが描かれる前半は双子の不安に観客を同調させ、ミステリアスな雰囲気の中にもし本当の母でなかったらという緊張感のあるサスペンスを生んでいます。
そして後半に立場が逆転してからは虫メガネで虫を焼き殺すような子どもの無垢ゆえの残忍性が浮き彫りになるに連れ、サイコスリラー的な展開へと発展して楽しかったです。
種明かしには今更感がありはしたものの、前半に不自然さが感じられた部分をしっかり回収してくれる気持ち良さはありましたし、救いのない結末も良かったです。

4位 ゴーン・ガール 3.5

夫の裏切り行為に対する妻の復讐を描いたサスペンススリラー。
真相が誰にも分からないまま、マスコミの攻撃に合い、謎が深まっていくミステリーチックな前半から一転、謎が明かされた後半からは夫婦の、そして男と女のせめぎ合いが怒涛の勢いで展開されていきます。ミステリーを手放すタイミングが絶妙で、ストーリーのおもしろさを保ち続けることに成功しています。
前作ではたくましくなっていく女性を描いたフィンチャーは、今作ではそれをさらに突き詰め、たくましすぎて恐ろしい女性を描いているのもおもしろいところです。

3位 ハッピーボイス・キラー 3.5

ペットの犬と猫、そして殺して持ち帰った生首と会話して暮らす男の顛末を描いたコミカルなサイコスリラー。
殺人鬼の心理を描いてその行動原理を炙り出す作品は重苦しいタッチになりがちですが、カラフルでポップな画面作りとユーモラスな演出によってギャップを生み出し、中盤以降のゾッとする感覚を見事に増幅させています。
犯行が無計画で衝動的な割になかなか発覚しない不自然さは気になりましたが、その多少強引なストーリーテリングをテンポの良さでカバーしています。
エンディングはシリアスになり過ぎた終盤の雰囲気を中和しつつ、イエスにフォークリフトで天に導かれる時でさえ主人公は自分にとって都合の良い声だけを聞いていたことを示しており、作品のテーマを端的に表した素晴らしい結末でした。

2位 グランド・ブダペスト・ホテル 3.5

ホテルの伝説的コンシェルジュとロビーボーイが巻き込まれる遺産争いを描いたほのぼのサスペンス。
元々シュールなおとぎ話的な世界観を持ったウェス・アンダーソンですが、前作でアニメーションに挑戦し、そのイマジネーションを存分に発揮しました。
今作は実写でありながら、まるで絵本の世界のような美術が素晴らしく、独特のテンポとも相まって唯一無二の雰囲気を作り出しています。
ストーリーのつかみ所のなさは相変わらずなのですが、後半でダレることの多かったこれまでの作品に比べると、今作では語り手を二重に配することで物語を停滞させずに展開させることに成功しており飽きさせません。
特に中盤以降はサスペンスフルでありながらも、全体としてはほのぼのとした笑いがまぶされていて楽しかったです。

1位 インターステラー 3.5

時空を超えた親子愛を描いたSFヒューマンドラマの傑作。
人類を滅亡の危機から救うため、思い立ったように太陽系の先まで行ってしまう壮大な物語のようで、描かれているのが親子愛という普遍的なテーマなので、小難しい理論や概念が理解できなくても十分楽しめるようになっています。
宇宙のかなたと実家のカットバックは実にドラマチックで、5次元のビジュアル化も魅力的でした。
AIロボットがあれほど万能な時代なら無人探査でもっとやりようあったのではと思ってしまったり、所々に強引さを感じたり、楽観的かつロマンティックすぎる気はしますが、長尺を感じさせないストーリーテリングと演出力がそんな無粋な疑問を忘れさせてくれます。


いかがでしたでしょうか。
2014年は作家性の強い監督の秀作が数多く生まれた年でした。
次回の記事では、2020年を取り上げます。

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