今回の記事では、公開年別のマイベスト映画作品をご紹介します。
評点は5.0~1.0まで、0.5点きざみの9段階評価で、平均以上となる3.0以上の作品をランクインさせています。
今回取り上げたのは2015年で、14本の作品が3.0点以上でした。
14位 おバカンス家族 3.0
さえない父親が家族の絆を取り戻すために家族旅行村を計画するも、その道中でハプニングが巻き起こるロードムービー風コメディ。
目指すは遊園地という説明不要のゴールを用意してストーリーを簡略化したことがうまく働いており、各シーンで繰り広げられるコントを何も考えずに楽しめました。
登場人物がほぼ全員おバカで終始ふざけっぱなしなのですが、一つ一つのギャグは引き際が良いおかげかしつこくなく、程良い塩梅で笑えました。
クリス・ヘムズワースとノーマン・リーダスの肉体派イケメンがしょうもない役柄を楽しげに演じているのが微笑ましかったです。
13位 ザ・ウォーク 3.0
ロバート・ゼメキスが大道芸人フィリップ・プティの歴史的なパフォーマンスを描いたサスペンスドラマ。
ニューヨークで建設中のワールドトレードセンタービルの間を綱渡りしようと企んだ男が協力者を集め、無謀な挑戦への準備を進めていく過程を描く物語です。
主人公が語り部として進行することで実話であることを思い出させ、フィクションならば強引に感じてしまう展開にも説得力を持たせています。
とはいえ道端で双眼鏡を覗き続けているのに誰も気にしないなど不自然な点の多さは否めないのですが、冒険心と恐怖の間で葛藤するドラマを深追いせず、エンタメとしての見せ方を重視してくれたおかげで多少の粗は気にせず楽しめました。
クライマックスが見せ場であるのは間違いないのですが、結末が分かっているのであまりカタルシスは感じられず、いっそ一歩踏み出すところで終えてしまっても良かった気がしました。
12位 エージェント・ウルトラ 3.0
平凡で情けないアルバイト青年が実はCIAの極秘実験を受けた凄腕エージェントだったことから、実験の証拠隠滅を図る暗殺者から命を狙われることになるコミカルなタッチのサスペンスアクション。
冒頭のプロポーズ失敗に始まるヘタレで天然な主人公のキャラクターはアイゼンバーグにハマっていて、面倒見の良い恋人役にクリステン・スチュワートというのも良いキャスティングでした。
そしてその二人のキャラクターがストーリーの進展と共に明らかになる設定に効いていました。
敵を瞬殺するアクションはワクワクさせられ、ユーモアのセンスも良く、二人の逃避行と次々に送り込まれる刺客との攻防が展開されるかと思いきや、中盤はやや息切れ気味で中だるみしたのがもったいなかったです。
ただクライマックスのホームセンターでのボロボロになりながらのアクションは満足感高く、後日談からの続編の匂わせとエンドロールまで短尺の中でコンパクトにまとまっていました。
11位 帰ってきたヒトラー 3.0
もしもヒトラーが現代のドイツに蘇ったら、という設定をコミカルに描きつつ、移民流入が社会問題となる中で国民の間に燻るナショナリズムを浮き彫りにして原作共々話題となった作品。
市民と語り合うシーンは実際に街中にゲリラ的に登場して撮影したらしく、確かにその事前情報がなくともそれと分かる生々しさがあります。
しかしそれによってかえってフィクションシーンが嘘臭く見えてしまい、ドキュメントなのかブラックコメディなのか中途半端な印象を受けてしまいました。
終盤はシリアスな雰囲気に転調しますが、わざわざ説教じみた結末にする必要性は感じられず、最後までブラックな笑いで終えていた方が鮮やかだった気がします。
風刺の効いたユーモア自体は好みだったので、演出上の小細工が余分でもったいなかったです。
10位 ウィッチ 3.0
ロバート・エガースの長編監督デビュー作。
植民地時代のニューイングランドの人里離れた農場で暮らす敬虔なピューリタンの一家が森の中に潜む邪悪な存在によって崩壊していく様を描く物語です。
舞台設定からして集団ヒステリーと魔女狩りが連想され、もちろんそれがモチーフとなったオカルトホラーが展開されるのですが、監督の興味が次作「ライトハウス」同様に閉鎖的な環境で狂っていく人間心理に向いているのはおもしろかったです。
配分としてオカルトパートに寄っており、全体の尺も短いために作家性強めな作風の割には娯楽性が担保されていて良かったですが、その分疑心暗鬼に陥った人々の心理をグイグイ掘り下げていく肝となるはずの描写がやや手薄になった感は否めませんでした。
追い詰められた心が見せる妄想なのか、邪悪な力の導きなのか曖昧にしておくバランス感覚は的確で、ラストの裸踊りも悪魔との契りを想起させつつ明確には示さない絶妙な距離感の幕引きだったと思います。
9位 ワイルド・スピード SKY MISSION 3.0
ユニバーサル最大のフランチャイズとなったシリーズの最高傑作との呼び声高い大ヒット作。
ジェイソン・ステイサム演じる恨みを抱いた敵役の襲撃に政府の秘密組織やヨルダンの王子も絡んだ戦いが繰り広げられる物語です。
ポール・ウォーカーへの追悼の念だけが観客を呼んだわけではないことがよく分かる、見せ場をやりすぎなほど詰め込んだコッテリな味付けの娯楽大作でした。
ジェームズ・ワンがホラー作家という訳でではなく、観客を楽しませる術に長けた演出家であることを見事に証明しています。
格闘に爆発、銃撃戦にカーチェイス、さらにはスカイダイブに潜入ミッションと息つく間もなく、災害級のクライマックスに至っては最早笑えるほど荒唐無稽なのですが、ここまで振り切ってくれれば無心で楽しめました。
8位 ひつじのショーン いたずらラマがやってきた! 3.0
イギリスのストップモーションアニメ製作会社アードマンアニメーションによる人気シリーズのスペシャル版。
競り落とした3匹の極悪ラマを牧場に連れ帰るも、悪行の限りを尽くすラマに耐えかねたひつじたちが立ち上がる物語です。
ラマが思い切り悪なのが秀逸で、彼らに反省の機会を与えないのも良く、それゆえストーリーに振り幅が出ている気がします。
ラマが来るきっかけを作ってしまったショーンが初めは同調しているも次第に歯止めが効かなくなり、仲間たちから孤立する展開を短尺で台詞もなしに表現しているのはお見事でした。
7位 アメリカン・バーガー 3.0
アメリカ人の肉で作るバーガー店で若者たちが血祭りにあげられる様をくだらないギャグ満載で描いたスウェーデン製のホラーコメディ。
残虐描写は控えめなのでそちらを期待して観ると肩透かしですが、下ネタあり、バカバカしいギャグあり、わざとらしい選曲によるギャグあり、青春ホラーのパロディネタありとお笑いとしては結構がんばっていて笑えました。
ストーリーがないので後半は少しダレますが、潔い尺でまとめてくれているので、飽きることはなかったです。
なぜ100%アメリカンにこだわるのか謎でしたが、その辺のシュールなゆるさも良かったと思います。
6位 ヴィジット 3.0
初めて会う祖父母の元を2人で訪れた姉弟が体験した恐怖の一週間を描いたスリラー。
ドキュメンタリー映画を作っている姉のカメラを通しての映像のみで構成されており、視点を絞ったことがうまく活かされていました。
父親の不在を乗り越える家族の物語という要素は後付け感が否めず、不要だった気がします。
祖父母の行動は異常なのですが、身体的な危害を加えてくるわけではないので、妙にリアルな恐ろしさがありました。
そしてそれは終盤の種明かしにおいてもストーリーに説得力をもたらしていたと思います。
さらにはすぐにふざけたりカッコつける弟の言動がやけにリアルな13歳で良かったです。
そしてエンディングでラップさせるユーモアも素晴らしく、良質なB級映画でした。
5位 ヒッチコック/トリュフォー 3.5
ヒッチコックの映画術。
批評家としての出自を持ち、映画作家として数多の傑作を世に放ち、役者としても活動したトリュフォーのもう一つの忘れてはならない功績は、インタビュアーとしておそらくは世界で最も有名な映像演出のノウハウ本を作ったことです。
ドラマや史劇よりも一段落ちる低俗なジャンルと見なされていたサスペンス専門の監督として正当な評価を受けていなかったヒッチコックに確かな作家性を見出し、映像表現の幅を広げる技法をいくつも発明した功績を世に知らしめました。
百科事典のように巨大で分厚い本ですが、インタビュー形式なので読みやすく、何よりトリュフォーのヒッチコックへの愛情が伝わってくる名著です。
今作は本人たちの肉声をベースにスコセッシやフィンチャーなど名匠たちへのインタビューも交えながら映像化しており、興味深く楽しめました。
手紙を受け取ったヒッチコックの、涙が出るほど嬉しかったという返答に、こちらも涙が出る思いでした。
4位 マッドマックス 怒りのデス・ロード 3.5
初期3作をリアルタイムで知らない世代からも熱烈な指示を受けた10年代を代表する傑作アクション。
シリーズとしては4作目ですが、迎え撃つ→逃げ出す→追いかけられるというプロットが逃げ出す→追いかけられる→引き返すという流れに変わっただけで、実質2をリメイクしたような内容です。
とはいえ、ウリであるカーアクションは格段にパワーアップしており、監督が初期の自作を数十年後にバージョンアップして作り直すパターンはヒッチコックを思い出しました。
息つく暇もないほどほぼ全編にわたってハイテンションなアクションで埋め尽くされており、悪役たちは何に対してそんなにハイテンションなのか分からないほどですが、画面から伝わる圧力に、勢いで押し通すとはこのことだと感じさせられます。
3位 キングスマン 3.5
恵まれない家庭環境でも、意志の強さと優れた身体能力を持つ男気あふれる主人公。そこに秘密の組織から隠された血筋を明かされるとくれば、少年心をくすぐらないはずはありません。
漫画的な設定をとことん盛り込みながらも、リアルとアンリアルを絶妙なバランスでスピーディーに仕上げたアクションとコリン・ファースの存在感のおかげで陳腐になっていません。
ストーリーの大半をエピソード1的な部分に割いているので、本筋の物足りなさは否めませんが、それでも10年代を代表するスパイアクション映画として十分すぎるおもしろさです。
2位 ロブスター 3.5
動物になることが罰であるとする価値観を持ち、人間が持ち得るパートナーシップとしての愛を必須条件として強制する国家と、独りであることを形式的に信奉するレジスタンスとの狭間で、いたってノーマルな恋愛感覚を持っているがゆえに居場所のない男の物語です。
設定こそカリカチュアライズされたトリッキーなものですが、その中で繰り広げられているのはラブコメかのようなやり取りです。
気になるあの娘との会話のきっかけに、無理やり共通の話題「鼻血が出やすい自分」を作り出す男。わざわざそれを暴露しに行き、すごすご逃げ帰る主人公。そして結局自分も同じことをする結末。
気になるあの娘との共通点「近眼」が、他の誰かとも共通でないか嫉妬する主人公。
パートナーが見つかった時に得られる利点は、心の安らぎや肉体的な快楽というよりもむしろ、背中の手が届かないところに軟膏を塗ってもらえることだったりします。
現実世界でも、いい年なんだからそろそろ相手を見つければ的な同調圧力を感じたことのある人は多いと思います。あるいは、結婚してあいつ変わったな的な理不尽な敵意を向けられたことのある人もいるはずです。
それを極端にした世界だと捉えると、一見シュールなそれらのやり取りが途端にあるあるに見えてきます。
何事も極端に考えるより、ほどほどでありたいと思わせられました。
1位 沈黙ーサイレンスー 3.5
遠藤周作の原作をマーティン・スコセッシが映画化した神の不在を問う重厚なドラマ。
師の棄教の噂を聞いて江戸時代の日本にやって来た2人の神父が、キリスト教徒への激しい弾圧の中で信仰を問われる物語です。
前半の密入国して地下の穴蔵に身を潜めながら行う布教は正にミッションで、作中言及される通りカタコンベさながらです。
後半の信仰が揺らいでいく過程は説得力十分で、スコセッシ得意の暴力描写がマフィアものよりも遥かに効いていたと思います。
万物に命が宿ると考え、形あるものを崇めたがる日本人の性質の描写が、その後の絵踏という行為に意味をもたらすのも巧みでした。
印象的な暗闇で響く虫の音は目に見えなくても無数の芽があることを、打ちつける波音は絶えず押し寄せることを示唆している気がしました。
巨匠としての地位を築くに連れスケールの大きな成り上がり物語のイメージが強くなったスコセッシですが、個人的にはこの手の内向的かつストイックな作品の方が好みでした。
いかがでしたでしょうか。
2015年はバカバカしいコメディからメッセージ性の強い難解な作品まで振り幅の広い年でした。
次回の記事では、2021年を取り上げます。
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