映画公開年別マイベスト 2019年

映画年別マイベスト

今回の記事では、公開年別のマイベスト映画作品をご紹介します。
評点は5.0~1.0まで、0.5点きざみの9段階評価で、平均以上となる3.0以上の作品をランクインさせています。

今回取り上げたのは2019年で、15本の作品が3.0点以上でした。

15位 ほんとうのピノッキオ 3.0

ディズニーアニメーションで有名なイタリアの児童文学を実写化したファンタジー。
原作に忠実な映像化らしいのですが、美しいイタリアの田舎町の風景とそこに次々と現れるグロテスクなビジュアルのキャラクターたちよりも、とにかくピノキオの悪ガキっぷりが印象的で、キツネと猫にそそのかされるまでもなく、コオロギに悪態をつく姿には純真さのカケラも感じられず驚きました。
ストーリーラインはアニメで知るそれと変わらないのですが、ディズニーが描かなかったエピソードがいくつか追加されており、子どもの妖精と屋敷で過ごすシーンは幻想的かつコミカルで良かったです。
エピソードの一つ一つが短くテンポ良く進むので、アニメよりもむしろ童話を読んでいる感覚が味わえた一方で、ディズニーのストーリー構成の方がドラマチックに脚色されていることもよく分かりました。
親の言いつけを守らないこと、うまい話に身を委ねること、欲にとらわれることを戒め、勤勉であることを推奨する教訓的なメッセージは無難で月並みではあるものの、下手に新たな視点での解釈を提示して台無しにするよりも素直で良かったと思います。

14位 デッド・ドント・ダイ 3.0

ジャームッシュがゾンビ映画を撮ったらどうなるか。
その想像の範疇にちょうど収まってくるような作品です。
ゾンビ映画にありがちな設定や展開、キャラクターまでを徹底的にパロディにしています。さらにメタ的なネタがいくつも仕込まれており、映画好きな人ほどニヤリとできると思います。
生前の執着対象に死後も執着し続ける場面は、ゾンビ映画らしい文面批判でありながら笑えるシーンになっています。
いつものメンバーで楽しんで作っているのが伝わってきて微笑ましく感じますが、結局内輪ノリでしかなく、物足りなさが残るのも事実です。

13位 リアム・ギャラガー:アズ・イット・ワズ 3.0

90年代のイギリスで最大のロックバンドだったオアシス。
そのフロントマンだったリアム・ギャラガーのソロキャリアへのチャレンジを追ったドキュメンタリーです。
基本的にリアムを全肯定するスタンスなのでドキュメントとしては物足りないですが、その分本人が実家案内までしてくれるサービスぶりで楽しめました。
兄ノエルとの確執によるオアシス解散から間を置かずに開始されたビーディ・アイとしての活動は、作中でも指摘されている通り解散という事実から目を背ける為だった気がします。
そしてそのビーディ・アイすら失ったリアムが傍若無人なロックスターとしての仮面を外し、家族や周囲のスタッフやバンドメンバーとの良好な関係を築きながら、唯一無二の声を持つソロシンガーとして新たなファンを獲得していく過程には心が温まりました。
ノエルとの関係は修復しておらず、口の悪さも相変わらずなのですが、ランニングをして自らの身体をケアしながらクルセイドと称した音楽活動を続けるリアムの姿は歳をとって丸くなったと言えばそうなのですが、地に足をつけた良い歳の重ね方だと思いました。

12位 トイ・ストーリー4 3.0

シリーズ最大のヒット作となる一方で過去作品のファンからは賛否両論となった四作目。
「チャイルド・プレイ」のリブート作と公開時期が重なり、動くおもちゃの映画被りということで挑発的なポスターで宣戦布告を受けたことも話題となりました。
所有されるおもちゃにとっての幸せとは何かというテーマに対し、持ち主の視点まで含めて15年の歳月の中での成長と変化を描き、過去三作でたどり着いた一つの答えが判断ミスだったと感じさせるような展開がシリーズのファンから不評だったことは理解できます。
その点、過去の作品での流れを考慮しなければ一つの選択として違和感はないのですが、一方で従来のキャラクターたちの描写が少ないので、彼らと別の道を行くことの重大さは過去作品を観ていなければ感じられないのが残念でした。
メッセージはともかく、アドベンチャーとしては今作も十分に楽しめました。

11位 ジェントルメン 3.0

ガイ・リッチーの原点回帰と歓迎されたクライムアクションコメディ。
イギリスの裏社会を舞台に大勢が入り乱れ、ストーリーが思いもしない方向へ二転三転していく展開は正に初期の作風へと立ち返った印象でした。
ユーモアとバイオレンスの配分が程良く、登場人物を把握しきれないという難点が有名キャストを多数起用することである程度解消されているのも良かったです。
ただ主人公が作中一番の大物なうえに、ピンチをあっさりと切り抜けてしまうのでスリル不足の感は否めませんでした。
音楽の使い方も平凡な範疇で、良くも悪くも成熟したガイ・リッチーは娯楽作品をソツなくこなせるようになった分、キレ味がマイルドになったような気がしました。

10位 アイリッシュマン 3.0

巨額の制作費をネットフリックスが請け負って完成したマーティン・スコセッシの集大成的な大作。
裏社会を牛耳る大物の右腕として汚れ仕事を請け負ってきた男がその半生を振り返り語る物語です。
重厚すぎるキャストが一堂に会した光景を眺めるだけで感慨深いものがありますが、人生の終え方を意識した時に浮き上がる後悔が示されるストーリーも胸に迫るものがありました。
あちらを立てればこちらが立たずの主人公の姿は有力者というよりしがないサラリーマンのようで、マフィアの成り上がりストーリーよりも共感できるものでした。
娘から向けられる憎悪は暴力よりもむしろ、八方美人な生き様に対してであるように感じられ、晩年の孤独には200分かけて語られる人生に達成感がないかのようで哀しかったです。

9位 ANIMA 3.0

現代ロックシーンで最も重要なバンドと称されるレディオヘッドでフロントマンを務めるトム・ヨークの同名ソロアルバムから3曲をフィーチャーしてPTAが制作したショートフィルム。
近年は仙人のような風貌になってしまったトムがお団子ヘアで登場し、”There there”のMVでも見せたような不可思議な世界に迷い込み翻弄される男の姿を披露しています。
中盤の”Traffic”パートで斜面上でのダンスに巻き込まれた時のあたふたぶりはかわいかったです。
アルバム自体は過去のソロ作や本体レディオヘッドのアルバムと比べると今ひとつ物足りなく感じていましたが、今作の不安や恐怖を感じるディストピア的な雰囲気とそこに儚く現れる束の間の美しい瞬間をとらえた映像は音楽にしっかりと肉付けをしてくれるものとして楽しめました。

8位 ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド 3.0

タランティーノが60年代末のハリウッドを舞台に描く、虚実入り乱れたサスペンスあふれる二人の男の友情の物語。
90年代にトップスターとなって以降、それぞれ第一線で活躍を続けるディカプリオとブラッド・ピットの初共演が大きな話題となりました。
マンソンファミリーによるシャロン・テート殺害事件を下敷きにしながら、転換期にあったハリウッドで落ち目の役者が自身の価値を取り戻そうともがく姿を描いた物語です。
必要性を感じない断片的なエピソードを連ねていく構成はお馴染みのタランティーノ節ではあるものの、今作はその冗長さが特に顕著でした。
シーン毎の繋がりが薄いストーリーにアクションとサスペンスを提供し、クライマックスでのカタルシスを担当するだけでなく、両者の運命を交錯させるスタントマンが重要な役割を担っており、その存在が魅力的なほど不在のシーンが退屈に感じられてしまって残念でした。

7位 フォードvsフェラーリ 3.0

24時間耐久レースのル・マンで絶対王者フェラーリにフォードが挑んだ実話をジェームズ・マンゴールドが映画化したスポーツドラマ。
味方であるはずのフォードの上層部すら敵に回すほどこだわりの強い2人の男が、衝突しながらも最速のマシンを作り上げてレースに臨む物語です。
理解のある妻に支えられ、息子からは憧れの眼差しを受け、情熱を注ぐ仕事では結果で口うるさい上司を黙らせるという男の妄想に近い展開は観ていて気恥ずかしくなる程でしたが、マット・デイモンとクリスチャン・ベイルの2人はそれを受け入れさせるだけの説得力を携えていました。
クライマックスのレースシーンはテレビ観戦の息子が状況を解説してくれるので、車に興味がなくても手に汗握れる親切な作りで良かったですが、クドいエピローグは不要だった気がしました。

6位 2人のローマ教皇 3.0

カトリック教会がスキャンダルに揺れる中、教皇と枢機卿が言葉を交わす様をフェルナンド・メイレレスが描いたドラマ。
コンクラーベで政治的な駆け引きや白熱した議論があるのかと思いきや、そこは意外にすんなりと進み、保守派の教皇と改革派の枢機卿が一対一で意見をぶつけ合うのが面白かったです。
立つ背がない教皇を糾弾して激論を交わすのでなく、比喩や例示を用いた対話で相互理解を図るのが新鮮でした。
神に仕える身でも中身は普通の人間であることが浮き彫りになっていく展開が良く、それを象徴するようなピザとファンタとワールドカップのエンディングが秀逸でした。

5位 ロッジ 白い惨劇 3.0

父親の再婚相手を忌み嫌う兄妹が雪深い山のロッジに3人で取り残されたことで、気まずい時間が流れ、やがて怪奇現象が起こり始める心理スリラー。
再婚相手を一家を引き裂いた元凶であるだけでなく、暗い過去を抱えた危険人物として偏った子どもの視点で強調する前半はかなりスリリングで、序盤のなかなかその姿を見せない演出も相まって楽しめました。
過去が明らかになってからの中盤は視点が子どもたちから離れ、再婚相手にスライドしていきます。
怪奇現象によって追い詰められていく精神とその末の悲劇はインパクトがありました。
ただ、父親の無神経ぶりはシチュエーションを作り出すためとはいえあまりに不自然でした。
せめて父親は過去を知り得なかった設定があれば、子どもたちと打ち解けてほしい一心だったと説明がついて、作品に説得力が出ていた気がします。

4位 ミッドサマー 3.0

スウェーデンの村で若者がペイガニズムに直面して味わう恐怖を描いたホラー。
「ヘレディタリー」の成功で一躍新時代を担うホラー映画作家として脚光を浴びたアリ・アスターの新作とあって期待を集めただけでなく、カップルで観たら別れる胸糞映画という触れ込みが世間一般にもアピールして話題となりました。
のどかな牧歌的風景と残虐行為のギャップは、監督がインタビューで見せる屈託のない笑顔と作風のギャップと同様に、その狂気性を際立たせています。
ストーリー的には傷ついた孤独な心を抱えた主人公が運命に引き寄せられるように新しい家族を見つけるまでを描いた物語としてシンプルに楽しめました。
家族に先立たれ、不安定な心を恋人に共感してもらえない主人公にとって、仲間の苦痛を分かち合う村人たちは自分を受け入れてくれる気がしたのかもしれません。
恋人の名前がクリスチャンというのも象徴的で、キリスト教文化の中で安らぎを得られなかった彼女がそれを見捨てて共同体という新たな居場所を見つけたのならば、ラストの微笑みも納得でした。
ただ、村人たちの言動からは無垢な信仰心よりも打算的な悪意が感じられ、常軌を逸した価値観のインパクトが薄れて残念でした。
また、いくつかのショッキングなシーンで飾られているものの、全体的には間延びしてテンポが遅い印象でした。

3位 ジョジョ・ラビット 3.0

コメディアン出身のタイカ・ワイティティが監督、脚本、出演の三役を務め、アカデミー脚色賞を受賞した戦争コメディ。
第二次大戦下のドイツでヒトラーに心酔する少年と反ナチスの母親、屋根裏にかくまわれたユダヤ人少女の奇妙な暮らしを描く物語です。
序盤はビジュアルだけでなくユーモアや編集のテンポまでウェス・アンダーソンのセンスを無闇に模倣しているようで、あまり良い印象は持てませんでした。
しかし母親との暮らしが描かれ始めてからはコミカルな中にも時折ゾッとする場面を差し込むバランス感覚が絶妙で、役者陣の好パフォーマンスもあって魅力的に感じられました。
足元と靴ひも、ダンス、手紙などアイテムをうまく使って感情の変化や心の距離を表現する演出も素晴らしかったです。
ただ少年の心の動きにフォーカスしてみると、重大な悲劇を割と簡単に乗り越えてしまっており、その経験がその後の変化に与えた影響が曖昧になっている気がしました。

2位 ジョーカー 3.5

スーパーヒーロー映画が活況の中、DCコミックスで最も有名なヴィランをモチーフに孤独と貧しさと心の病で犯罪に手を染める男を描いて大ヒットしたスリラードラマ。
周囲から邪険に扱われる男の苦難がひたすら積み上げられる展開で、演出として少し大げさな見せ方をしてしまっている気はしましたが、リアリティを失う程ではない絶妙なバランスを保っています。
一線を越えたら決壊するのではなく、しばしの潜伏期間を経てからというのも行動原理に説得力を持たせる素晴らしい構成でした。
「タクシードライバー」×「キング・オブ・コメディ」inゴッサムシティであるのがあまりに明白で、ジョーカーという結末も確定してしまっている中でどう終盤の展開で独自性を作るのかと思いましたが、その点が期待を上回るものではないのが惜しかったです。
一犯罪者の末路としてはテレビ出演以降の展開が十分にクライマックス足り得ているのですが、ジョーカーの名を冠して自ら押し上げたハードルを超えるほどではなかった気がしました。

1位 Swallow/スワロウ 3.5

自己肯定感の低い女性が異食症に陥りながら人生の呪縛に向き合うまでを描いたドラマ。
ビー玉やピンを飲み込むショッキングなシーンが目を引きますが、望まれた子でないという出自にコンプレックスを持つ女性が周囲からの期待に無理して応え続けることを止めるまでの物語として見応えがありました。
夫とその両親が悪意なく新妻を精神的に追い詰めていく描写は、露骨にやり過ぎれば安っぽくなりかねないところを生々しく巧みなバランスで描いていました。
後半はややそのバランスを欠いて家庭内ドラマのようになりかけるのがもったいなかったですが、終盤の展開で夫とその両親からのストレスは彼女にとって原因ではなく一つのトリガーにすぎなかったことが示される展開は良かったです。
洗面所で行き交う女性たちを長回しでとらえたラストカットは、主人公の物語が特殊ケースではなく、誰しもに潜在する普遍的なものだと示しているように感じました。


いかがでしたでしょうか。
2019年は心理スリラーの秀作が多く生まれる一方で、アニメからドキュメンタリーまでバラエティ豊かな良作が放たれた年でした。
次回の記事では、1956年を取り上げます。

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