今回の記事では、20世紀を代表するロックンローラー ルー・リードを紹介します。
伝説的なバンド ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのリーダーとして、そして20世紀を代表するミュージシャンとして、ルー・リードの名はロックの歴史に深く刻まれています。
1942年、ニューヨークで生まれたルー・リードは 裕福な家庭で育ったものの、マイノリティな性的指向を持っていたことで両親との間にわだかまりを抱えていました。
両親は彼にクラシックの素養を与え、大学で文学を学ぶ機会を与えてはくれましたが、彼の心を理解してはくれなかったのです。
そんなルーの心の拠り所となったのがラジオから聞こえるロックンロールでした。
そして必然的に音楽活動を始めると、大学卒業後、 ジョン・ケイルと運命的な出会いを果たします。 ジョンのアヴァンギャルドな音楽的実験精神は、後に結成するバンド ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの音楽性に多大な貢献を果たすことになりました。
ルーとジョンを中心に結成されたヴェルヴェット・アンダーグラウンドにとって、最大の奇跡はその二人の天才が出会い、バンドを組んだことそれ自体であり、最大の幸運はポップアート界の巨人アンディ・ウォーホルの目にとまったことでした。
1967年、バンドはデビューアルバムをリリース。
プロデュースはもちろん、アルバムジャケットもウォーホルが手がけ、さらにはウォーホルの提案によりドイツ人歌手のニコを加えた形での制作は決してルーにとって喜ばしいものではありませんでしたが、これによってバンドは世に出ることになりました。
しかし我の強い天才たちが同居するグループが長続きするはずもなく、バンドは分裂状態となり、1973年にリリースしたアルバムを最後にあっけなく解散となりました。
ルーは解散に先立ってバンドを離脱。1972年にソロとしてデビューすると、その後はデヴィッド・ボウイを筆頭に親交のあったミュージシャンから音楽的影響や技術的サポートを受けながら、作風を変化させつつも精力的な活動を続けました。
そのボウイほどの商業的成功や一般大衆からの認知は得られませんでしたが、ロックの芸術性発展への多大な貢献によって、後続のアーティストからロック史上もっとも重要な人物の1人として、ビートルズやボブ・ディランと並び称されています。
彼の音楽的ルーツはシンプルでオーソドックスなロックンロールにありますが、ロックの激しさ荒々しさとは対極にあるような繊細で美しい楽曲も書けてしまう両極端な二面性が作品の魅力となっています。
そしてルー・リード といえば文学性の高い歌詞が最大の特徴となっており、そのストーリー性とメッセージ性に富んだ詩はそれだけでも作品として成立しています。
社会の暗部に目を向けるだけでなく、そのアンダーグラウンドの世界で生きるマイノリティな人々に寄り添う視点は、自身のパーソナリティに起因した、彼にしか描くことのできない世界観です。
ポップとアートのバランスを巧みに保ちながら、あるいは意図的にバランスを崩しながら、その生涯を通じて試行錯誤を続けたアーティスト。
今回の記事では、そんなルー・リードのおすすめ作品をピックアップし、時系列順でレビューと共に紹介していきます。
最高評価は☆×5つ。★は0.5点分です。
- ヴェルヴェット・アンダーグラウンド&ニコ/1967年
- ホワイト・ライト/ホワイト・ヒート/1968年
- ヴェルヴェット・アンダーグラウンド/1969年
- ローデッド/1970年
- ロックの幻想/1972年
- トランスフォーマー/1972年
- ベルリン/1973年
- ロックン・ロール・アニマル/1974年
- 無限大の幻覚/1975年
- ロックン・ロール・ハート/1976年
- ストリート・ハッスル/1978年
- 都会育ち/1980年
- ブルー・マスク/1982年
- レジェンダリー・ハーツ/1983年
- ニュー・センセーションズ/1984年
- ニューヨーク/1989年
- ソングス・フォー・ドレラ/1990年
- マジック・アンド・ロス/1992年
- セット・ザ・トワイライト・リーリング/1996年
- エクスタシー/2000年
- さいごに
ヴェルヴェット・アンダーグラウンド&ニコ/1967年
ロックの歴史上でもっとも重要かつ、もっとも広く知られたジャケットを持つヴェルヴェット・アンダーグラウンドのデビュー作。
冒頭から意表をつくイノセントなメロディとミスマッチな気だるいボーカル、そして示唆に富んだ歌詞という組み合わせはなんとも言えない背徳感があり、これが名盤であることを知らしめるのに十分なインパクトを持っています。
この衝撃的なオープニングに限らず作品全体を退廃的な雰囲気が覆っており、アンダーグラウンドな世界に足を踏み入れてしまった危うさを感じられます。
評価☆☆☆☆★
ホワイト・ライト/ホワイト・ヒート/1968年
ニコが抜け、ウォーホルの手を離れたことでロックバンドらしいアグレッシブさを獲得する一方で、リーディングやインプロビゼーションを取り入れてアヴァンギャルドさも増した2作目。
自らのコントロール権を得たことでバンドとして調和がとれるどころか、それぞれの、特にルーとジョン・ケイルの自我が暴発したカオスな状態をそのままパッケージしたような印象です。
評価☆☆☆☆
ヴェルヴェット・アンダーグラウンド/1969年
ジョン・ケイルが脱退し、初めてルーの独裁的な状態で制作された3作目。
前作の音楽的特徴であったアヴァンギャルドなノイズが削ぎ落とされたことで、美しいメロディとシンプルなロックンロールというルーの代名詞とも言うべき個性が際立ち、デビュー作以上にイノセントな雰囲気を持っています。
ポップミュージックとしてはバンドの最高傑作です。
評価☆☆☆★
ローデッド/1970年
音楽的に時代のはるか先を行っていた2ndまでに比べると、同じバンドとは思えないほど旧時代的なサウンドです。
50~60年代前半を思わせるようなロックンロールとコーラスはルーが自らのルーツを示している点で興味深く、いくつかの名曲も生み出しているものの、楽曲ごとのクオリティにバラつきがある仕上がりで、ディスコグラフィーの中でも極めて地味と言わざるを得ない作品です。
評価☆☆☆
ロックの幻想/1972年
ルー・リードのソロとしてのデビュー作。
自らのルーツに立ち返るように、オーソドックスなロックンロールアルバムになっています。
起伏が少なくやや退屈する場面もありますが、生涯を通じて音楽的探究を続けた彼が試行錯誤することのなかったもっとも素直な作品であるように感じられます。まるで幼少期のアルバムを見ているような感覚になる、デビュー作らしいデビュー作です。
評価☆☆☆
トランスフォーマー/1972年
ルー・リードの商業的な出世作にして代表作。
意味深な名曲”Perfect Day”、ヒットシングルとなった”Walk on the Wild Side”、偏執的なラブソング”Satellite of Love”と代表曲をいくつも生み出しています。
デヴィッド・ボウイのプロデュースの賜物か、マイルドなアレンジと緩急のついた構成で耳ざわりの良い作品になっている印象です。
評価☆☆☆☆
ベルリン/1973年
演劇のサントラのようなドラマチックな構成を持ったコンセプトアルバムの佳作。
作曲よりも作詞に力を注ぎすぎた感は否めませんが、前作の成功で自信が得られたかのような堂々としたパフォーマンスが聴けます。
ポップさとアート性とメッセージとが高い次元でバランス良くまとめられており、アーティストとしての一つの到達点を感じさせます。
評価☆☆☆★
ロックン・ロール・アニマル/1974年
ソロ初期のライブアルバムとして評価の高い本作。
楽曲は人気曲ばかりでパフォーマンスもキャッチーなのでとても聴きやすいです。
しかし演奏があまりに明るすぎて、オリジナル音源にあったヒリヒリするような緊張感や危うさは感じられず、違和感が残る印象でした。
アレンジによって楽曲の印象がガラリと変わることがよく分かるという点で、ライブ盤としての存在意義があるのかもしれません。
評価☆☆★
無限大の幻覚/1975年
全編がノイズで埋め尽くされたルー・リード 最大の問題作にして、ある意味ロックの歴史に残る異色作。
個人的に、ルーの評価すべき才能は文学的な側面で発揮される高いアート性と、ポップミュージックを生み出すセンスだと思うので、音楽的な側面でのアート性を模索した本作は自身の才能を見誤ったような印象を受けます。
しかしこのノイズの洪水には不思議な心地良さがあるのも事実で、ソニック・ユースなど後続のアーティストによって昇華されたことでこの商業音楽へのチャレンジは意義のあるものとなりました。
評価☆☆★
ロックン・ロール・ハート/1976年
レコード会社を移籍して最初に発表した作品で、ジャズ風味のアレンジを取り入れるなど変化を求める姿勢が垣間見えます。
この時期のアルバムは頻繁に作風が変化し、音楽性の広がりと新鮮味こそ感じられるものの、本来の持ち味を上回るような成果を上げたとは言えず、試行錯誤の過程でいつもと異なるアプローチを試みた番外編的な印象は否めません。
評価☆☆☆
ストリート・ハッスル/1978年
引き続き試行錯誤が続いた時代の作品。
以前と比べて楽曲のパワーは明らかに見劣りしているだけでなく、セルフパロディに陥っている場面すらあり、方向性を模索している様子が如実に現れてしまっています。
表題曲の存在感は際立っているものの、全体としては凡庸な作品と言わざるを得ません。
評価☆☆
都会育ち/1980年
ギターは存在感がなく、リズムが強調されたポップな本作はルーのキャリアにおいても特に異色な作品です。
クオリティが低いとは思いませんが、ジャケットの雰囲気そのままに、伝わってくる熱量の低さは否めません。
変化球はそれ自体が一級品でもない限り、ストレートの合間にはさまれてこそ輝けるのだと思い知らされるような作品です。
評価☆☆★
ブルー・マスク/1982年
古巣のレコード会社へと出戻り発表した今作は、数年間に及んだ迷走期間を脱した久しぶりの会新作として知られています。
確かにストレートさを取り戻したサウンドからは迷いのなさが感じられると同時に、クリエイティビティの復活を期待させます。
しかしかつての、そして後の傑作と比べると楽曲のクオリティは今ひとつ物足りない印象です。
評価☆☆☆
レジェンダリー・ハーツ/1983年
バンドメンバーが基本的に前作から変わらない通り、前作の作風を踏襲しています。ただ、ハードさやシリアスさは減り、よりメロディアスで南部っぽい爽やかさと泥臭さが印象に残ります。
趣味としてバイクに乗るようになったことが音楽性やアートワークにも影響しているそうです。
楽曲的にはこれといったキラーチューンがないものの、平均点が高く通して聴きやすい仕上がりです。
評価☆☆★
ニュー・センセーションズ/1984年
商業的な成功を狙って、ささやかながらその目論見が成功した、ルー史上最もポップな作品の一つ。
80年代らしいポップでダンサブルなサウンドは決して悪いものではありません。
しかしボウイほどのセルフプロデュース力はルーにはなかったようで、らしくない違和感がどうしても先行してしまいます。楽曲だけならまだしも、MVを観ると悲しいことにその違和感はさらに増幅されてしまいます。
評価☆☆
ニューヨーク/1989年
シンプルなロックンロールに立ち返りつつ、時代性を感じる音も取り入れた活動中期の傑作。
間もなく勃発するグランジムーブメントを前に、会心の出来と言える本作をリリースしたことで、オルタナティブロックの元祖として存在感を示す形となりました。
決して探求を止めて保守的になったという意味でなく、試行錯誤をせずに、素直に自分の出すべき音を出しているような印象です。
評価☆☆☆★
ソングス・フォー・ドレラ/1990年
亡きアンディ・ウォーホルに捧げるために制作された、仲違いしていたジョン・ケイルとの久しぶりの共作という話題性に長けた作品。
2人だけのパフォーマンスによって制作されており、音数の少ないミニマルな作りにも関わらず、決して一本調子にならず、豊かな表情が見られるのは交わることのない2人が交わったからこそ生まれる化学反応なのかもしれません。
現実と虚構が入り混じったような歌詞もルーの文学的創造性がいかんなく発揮されており魅力的です。
評価☆☆☆☆
マジック・アンド・ロス/1992年
前作に続き友人の死をテーマにして制作された作品で、ルーにとって久しぶりの商業的なヒット作。
道の真ん中に佇むようで、棺に入っているようにも見えるジャケットが印象的です。
音楽的な抑揚が少なくなり、曲はもはや語りとも言えるボーカルを前面に出すためのBGM的な扱いにさえ感じられます。
評価☆☆
セット・ザ・トワイライト・リーリング/1996年
ヴェルヴェット・アンダーグラウンドが90年代前半のオルタナ勢に与えた影響は計り知れません。
そして今作では逆にその時代の音にフィードバックを受けたルー自身が、アップデートした音を響かせています。
シンプルなロックンロールと美しく繊細なメロディ、そんな自身の音楽的特徴をしっかりと捉えながら、若い世代の音を貪欲に吸収しようとする探究心が感じられる作品です。
評価☆☆★
エクスタシー/2000年
自らのキャリアを総括するかのように、ロックンロールと文学的な歌詞の融合を突き詰めながら、当時流行のラウドなサウンドを取り入れる貪欲な探求心を見せた前作の作風をさらに推し進めた作品。
ライトなノリは減退し、ヘヴィなギターサウンドが目立ちます。しかしタイトル通り音に陶酔してしまっているかのように延々と弾き続けられる楽曲には、やや冗長な印象が否めません。
評価☆☆★
さいごに
いかがでしたか?
アンダーグラウンドの世界を美しく過激に、ポップでアヴァンギャルドに、そして何より詩的に表現したロックンローラー ルー・リード。
ぜひ、彼の作品世界に触れてみてください。
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