今回の記事では、「父と息子」をテーマにおすすめの映画を4つの切り口で特集します。
親子の何物にも代え難い信頼関係を感じさせる感動作から、すれ違いや別離を描いた名作まで、いろんな父と息子のかたちをご覧ください。
「父と息子」の固い絆の物語
息子にとって、憧れであり、目標であり、守護者であり、越えるべき壁である父親。
父もそれを知っているからこそ、息子の前では強く賢い父親として気丈に振る舞う。
そこに生まれる切なさはこの上なく心揺さぶられるドラマです。
キッド/1921年
ドタバタコメディから完全に脱却し、映画としての物語を完成させたサイレント期を代表する名作。
窓ガラス修理の自給自足や夢の中でのワイヤーアクションなど、有名な笑えるシーンの数々をつなぎ合わせているのは、現実の厳しさを見せつけるようなシーンと涙を誘うシーン。笑いと涙、喜劇と悲劇が絶妙なバランスで配置されています。
とってつけたようなハッピーエンドですが、チャップリンの横顔と背中から感じられるのは再会の喜びというよりも戸惑いであり、必ずしもハッピーではない10分後の展開を想像させる余白が素敵です。
評価☆☆☆☆★
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自転車泥棒/1948年
敗戦国イタリアが生んだネオレアリズモと呼ばれるムーブメントを代表する名作。
自転車を盗まれるだけの話をここまで悲しみにあふれた悲劇にできてしまうことに驚きです。
ファシズムへの批判、貧しさと社会不安が生んだ心に余裕のない人々、不条理劇を思わせる堂々めぐりの展開、それらすべてが魅力的ではありますが、個人的には親子の微妙な関係性が特に印象的でした。
情けなく頼りない父親を見てしまった時の息子の悲しさと恥ずかしさが入り混じった感情は筆舌に尽くしがたく、ラストシーンで言葉を交わすでもなく、とぼとぼと家路につく2人の姿がそれを象徴していました。
評価☆☆☆☆★
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ライフ・イズ・ビューティフル/1997年
ナチスによるホロコースト下で苦難を強いられても、決して失われることのない父親から息子への愛情を描いた物語。
前半はクラシカルなコメディパートとなっており、ベタな笑いとともに男女のなれ初めを描くのですが、ほとんどファンタジーの牧歌的な展開をいい歳した2人が披露することが悪いとは言いませんが、違和感があるのは否めませんでした。
悲劇と喜劇は表裏一体とはよく言いますが、収容所へ移ってからのつらい暮らしの中でこそ、主人公のユーモアがギャグとして光るようになった気がします。
しかしその一方で、史実として多くの命が奪われた状況下で、主人公の振る舞いはずいぶんと身勝手な気もします。
これをファンタジーでありコメディだからと気楽に楽しめるか、不快に思うかで評価が分かれると思います。
評価☆☆☆
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オーロラの彼方へ/2000年
時空を超えた親子愛の物語というと近年では「インターステラー」を想起しますが、こちらはその15年前にもっとライトなノリで作られた娯楽作品です。
歴史改変による未来への影響度合いを都合良く解釈しているので強引な展開も多いのですが、記憶や感情といった人の内面が変化するだけでなく、物体の変化までもが即座に未来に反映されるあたりユニークで、理屈を考えるよりもファンタジーとして割り切って観るとおもしろかったです。
前半に親子の絆を描いた後は、遠隔操作によって事件を捜査するミステリーをはさみ、終盤は犯人との攻防をサスペンスフルに描く展開へと目まぐるしく変化していくストーリーにはやはり軽さは否めませんが、盛りだくさんで飽きずに楽しめました。
評価☆☆☆
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「父と息子」の再生の物語
疎遠だったり、一緒に暮らしてはいても愛情が希薄だったり、関係が壊れかけていた親子がその繋がりを再確認し、作り直していく過程は感動を呼ぶとともに、家族とは言え人と人として向き合うことの大切さを教えてくれます。
クレイマー、クレイマー/1979年
親であること、夫であること、妻であること、自分らしくあること。生き方を見つめ直す時、幸せを何と捉えるかを考えさせられる名作ヒューマンドラマ。
物語の序盤では、ワーカホリック気味に働くことが家族のためだと思い込んで家庭を顧みなかった夫、不満を溜め込んだあまり唐突に爆発して子どもを傷つけてしまった妻、それぞれ自分がどうしたいかしか考えていません。
息子との2人暮らしを経た夫が人の気持ちを大切にできるようになったのは、親子が本音の感情をぶつけ合ったことで、自分の感情と相手の感情が違うことを理解できたからだと思います。
その感情の変化を丁寧に描くので、どうしても2人に感情移入してしまいますが、裁判の過程で妻にもそれを理解させることで、観客にこの物語の視点も単一的であり、妻には妻の物語があったはずであることを気づかせる手腕が巧みでした。
父と息子の変化を表す有名なフレンチトーストのシーンも良いのですが、主人公の顔がビジネスマンから父親に変化していく演じ分けも素晴らしかったです。
評価☆☆☆☆★
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パリ、テキサス/1984年
ロードムービーの名手ヴィム・ヴェンダースによる傑作です。
変わり者の兄と車での長旅で心を通わせていく序盤の展開はまるで「レインマン」のようでした。
突然現れた実の父に息子が戸惑うように、主人公もまた父親像を探りながら、二人は距離を縮めていきます。
道路をはさんでの下校、ヒューストンへの旅で失われた親子の4年間を徐々に埋めていく過程は心温まりました。
移動が心の溝を埋めるキーになっており、マジックミラー越しにいくら会話をしたところで、その溝は埋まっていかない虚しさが印象的でした。
育ての親の複雑な心境を置き去りにしているのは気になりましたが、安易なハッピーエンドには向かわず、壊れてしまった愛の後片付けをするような結末が良かったです。
評価☆☆☆☆
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ビッグ・フィッシュ/2003年
ホラ話と空想と、思い出話と作り話の境界をあいまいにすることで荒唐無稽な話が味わい深いものへと変わる不思議なファンタジー。
社交的であることが人生を切り拓き、豊かなものにしていくストーリーはティム・バートンらしからぬ気がするのですが、主人公が変わり者であることには変わりなく、その物語に登場するキャラクターたちを含め、彼のアウトサイダーへの愛情をポジティブに転換させたような作品です。
前半のイマジネーションあふれる物語にワクワクさせられた分、後半ややトーンダウンしていくのが残念でした。
息子の物語が始まった時にはまた期待が高まるのですが、割と平凡で拍子抜けし、父の偉大さを変に感じてしまいました。
葬儀の参列者によって空想と現実の境界がまたあいまいになる結末は良かったです。
評価☆☆☆
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ライフ・アクアティック/2004年
海洋冒険家であり映画監督の主人公が癖のあるクルーたちと繰り広げるアドベンチャーコメディ。
主人公が冒険を通じて父親として、息子だけでなく、クルーという家族と絆を築いていく物語です。
親子が1人の女性を取り合うのは、父と息子の双方に監督の思いが投影されているからであるような気がしました。
ストーリー展開は正直冗長で退屈なのですが、とぼけた笑いの中にボウイやイギーを流すセンス、独特の色味とカメラワークが作り出す画のおもしろさは素晴らしかったです。
コメディ慣れした役者があれだけいる中で、強面のウィレム・デフォーが1番のコミカルキャラというギャップが可笑しかったです。
評価☆☆★
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「父と息子」の代替の物語
血の繋がった親子ではなくとも、まるで本当の親子のように、あるいは本当の親子以上に、深い結びつきを感じさせる関係があります。
それぞれに欠けているものをお互いが補い合い、人生の意味を教え合うような関係です。
パーフェクト ワールド/1993年
同年に逃げる男と追う男を描きアカデミーにもノミネートされたヒット作「逃亡者」があることで、影に埋もれがちな隠れた秀作。
時代設定が古いこともあって、逃亡劇自体はスリリングとはほど遠く、むしろアメリカ南部ののどかな雰囲気が印象的です。
ぶっきらぼうでも性根は優しい主人公と人質となった少年の心の交流は、ストックホルム症候群とは違う、擬似ではあっても親子愛の物語となっています。
2人が違う形で出会っていればと思うほど、タイトルに込められた皮肉がきいてきます。
涙を誘う結末ではありますが、名もなきキャラクターに汚れ役を任せてしまうのはズルい気がしました。
評価☆☆☆★
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アバウト・ア・ボーイ/2002年
ロンドンを舞台に父親の印税を頼りに仕事も恋愛も全てを適当に考えて生きるダメ男といじめられっ子の少年の交流を描いたヒューマンコメディ。
イギリス人らしいシニカルな笑いを交えながら、 2人のナレーションがかけ合いのようにそれぞれの心情を語り、テンポ良くストーリーを進めていきます。2人の間に生まれた奇妙な友情がそれぞれの問題を解決していく展開は心地良かったです。
自己中心的だった主人公が、徐々に人のために何かをすることの喜びを知り、さらには自分を犠牲にしてまでも少年を助けるクライマックスは心温まるものですが、あくまでもコメディとして軽めのエピソードにしているところに好感が持てました。
評価☆☆☆★
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キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン/2002年
スピルバーグらしい父性への渇望にあふれた実話ベースのクライムコメディ。
嘘をついて人をだますことに天才的な才能を発揮して、顔色ひとつ変えずにその場を切り抜けていく主人公の無邪気な軽快さは、犯罪者でありながら好感が持てます。
二人の宿敵でありながら相棒でもあるような不思議な関係性は、他の映画であまり見られないユニークなもので、物語が進むに連れて微笑ましくなっていきました。
主人公にとってのきっかけと着地点からは、子どもが両親の愛情で満たされるためには、自分に向けられる愛だけでは不十分で、両親がお互いに向ける愛情も必要なのだと感じられました。
評価☆☆☆
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グラン・トリノ/2008年
最愛の妻を失い、息子や孫とも分かり合えない頑固者の老人と少年の交流を描いた人間ドラマであり、イーストウッドの遺書にも思える傑作です。
人種が違うから、言葉が違うから、文化が違うから、そして価値観や思想を共にして同化しないから、そんな理由で敵対して憎しみ合い、不安の解消は暴力に訴える。
主人公は作中で朝鮮戦争に言及しますが、それは人間が歴史上何度も繰り返してきた過ちであり、ご近所トラブルのような身近なレベルでさえ、同様に他者と異文化への無理解が原因となっているのです。
自らの正義の下に、トラブルを暴力で解決する役柄を多く演じてきたイーストウッドは、「許されざる者」でその連鎖する暴力の不毛さを描きました。
その後、生きることの意味と意義を問い直すような作品を撮ってきた彼が行き着いた結論が、そのまま今作の結末となっています。
評価☆☆☆☆★
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「父と息子」の断絶の物語
愛していないわけではないし、憎んでいるだけでもない。愛憎入り混じった複雑なかたち。
あるいは、どちらかは求めているけれど、どちらかは拒絶する。通い合わない一方通行のかたち。
別の道を行くことは、お互いにとって失望であり、新たな希望でもあるのかもしれません。
べニーズ・ビデオ/1992年
ビデオとテレビに取り憑かれ、モニターの中と現実との区別がつかなくなった少年の物語。
殺人の後にまずヨーグルトを食べて一息ついたり、何事もなく友達と遊びに出かけたり、流れる血をこぼれたミルクと同じように適当に拭き取ったりと、主人公の行動はサイコパスそのものです。
疎外感だ無理解だと甘えるなというやけに的確なお説教をする父親と優しそうな母親の元でなぜ主人公の人格は形成されたのかと思いましたが、冷静に迷いなく隠蔽工作を計画する父親と、そんな話をしている最中に思わず吹き出してしまう母親の姿を見て、これはサイコパス一家の話なのだと気がつきました。
カミュの「異邦人」の世界を現代のメディアと紐づけたような印象です。
マクドナルドにハードロックとアメリカ映画のレンタルビデオ、それら身近な要素の居心地の悪そうな存在感が印象的でした。
評価☆☆★
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トゥルーマン・ショー/1998年
もしも自分の人生そのものが、台本も演出もあるテレビ番組だったら。
哲学的な問いになり得るテーマですが、ジム・キャリーの存在によって重たくなることなく楽しめる作品になっています。
とはいえ、コミカルだった作品の雰囲気は主人公の覚えた違和感をきっかけにシリアスに転調し、アイデンティティを取り戻すための物語へと変貌します。
感動的なクライマックスをわざと台無しにするようなシニカルなエンディングは、どんなにドラマティックに演出されようと、人の人生など所詮は他人事だと言っているかのようです。
評価☆☆☆☆
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マグノリア/1999年
90年代にデビューした作家性の強い監督の初期作には、タランティーノの影響からか、複数のエピソードを終盤で集約させる構成が取り入れられがちでしたが、ポール・トーマス・アンダーソンの長編3作目であり、その評価を確固たるものとした今作は、同様に一見バラバラに思えるエピソードが徐々に結び付いていく構成をとりながらも、その最終的な結集のさせ方が特異であり、どんなに奇妙なことでも起こり得ることは起こる、という作品のテーマを表現することに成功しています。
観客が期待するカタルシスを豪快にスルーしているので、膝を打つようなオチを待ち望んでやや停滞する後半を含めた長尺を耐えていた観客からはひんしゅくを買うことが多いのも納得です。
ままならない人生の一部を切り取ったエピソードたちも良いのですが、人生の不可思議さという作品のテーマが端的に詰め込まれたオープニング、そのテーマと密接に結び付いたエイミー・マンの楽曲群が特に素晴らしいです。
評価☆☆☆☆
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宇宙戦争/2005年
SF小説の古典的名作の映画化。
ストーリーとしては、襲ってくるのが宇宙人であろうと自然災害であろうと関係なく、とある一家の家庭崩壊具合を見せつけるようなものになっています。
英雄気取りの身勝手な息子と叫んでばかりの生意気な娘の2人をまとめきれずに情けなく逃げ惑う父親像は、この手のアメリカ映画としては新鮮でした。
その分、この戦いも家族の行く末も強引にまとめあげるようなラストは残念でした。
原作に忠実な結末は嫌いでないですが、映画である以上、ナレーションに説明させる以外の表現を試みてほしかったです。
評価☆☆
宇宙戦争 – 映画情報・レビュー・評価・あらすじ・動画配信 | Filmarks映画
さいごに
いかがでしたか?
親友であり、ライバルであり、誰よりも頼れる存在であり、何よりも疎ましい存在でもある。
父親と息子の関係は、母親とのそれよりも複雑で多様なのかもしれません。
ぜひあなたの心に響く「父と息子」の物語を探してみてください。
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