映画公開年別マイベスト 1999年

映画年別マイベスト

今回の記事では、公開年別のマイベスト映画作品をご紹介します。
評点は5.0~1.0まで、0.5点きざみの9段階評価で、平均以上となる3.0以上の作品をランクインさせています。

今回取り上げたのは1999年で、18本の作品が3.0点以上でした。

18位 アナライズ・ミー 3.0

精神状態が不安定なマフィアのボスが分析医にかかったことで起こる騒動を描いたコメディ。
そのキャリアで何度となくマフィア役を演じてきたデ・ニーロがセルフパロディ的な役回りを務めています。
主人公が置かれた状況をひたすら引っ張り続けて笑いを生んでいくストーリーはとてもクラシカルで、50年前に企画されていても同じ脚本で撮れたのではないかと思いました。
二人の友情が強調されていく後半はハートフルな展開になっていき、毒にも薬にもならない着地を見せます。
観賞後の心に残る刺激は少ないですが、その分気軽に楽しめる手頃なコメディとしては良質でした。

17位 隣人は静かに笑う 3.0

ジェフ・ブリッジス主演の隣人サスペンスの佳作。
FBI捜査官だった妻を亡くし郊外で幼い息子と暮らす主人公が向かいに越して来た一家と親しくなるも、その振る舞いや経歴に違和感を覚える物語です。
前半はややスローペースに感じますし、ごくわずかな違和感に過剰に反応する主人公自体が違和感でしたが、後半にテンポが上がり始めたことで何となく受け入れて観られました。
秀逸なのは終盤で謎が明らかになるに連れ前半の強引さが計算づくであったのが分かることで、そこまでの不満点が一転して見事な演出に感じられました。
背景を描写しすぎなかったのも奏功していたと思いますし、容赦のない結末も好みでした。

16位 ハムナプトラ 失われた砂漠の都 3.0

エジプトを舞台にしたロマンあふれるアクションアドベンチャー。
旅の一行が出会い、冒険を通じて信頼関係を築いていく過程は王道の展開ながらテンポの良さとキャラクターの個性で飽きさせません。
演出が子ども向けなところがある一方で、虫などグロテスク寄りな描写もありますが、いずれも程よい塩梅なので家族で楽しむには最適です。

15位 スリーピー・ホロウ 3.0

ディズニーアニメでも知られる首なし騎士の伝承を映画化したミステリアスなファンタジーホラー。
オカルト的な要素と現実的な要素の絡みとギャップがおもしろかったです。
科学の力を信じているはずの主人公が首なし騎士におびえまくっているおかしさ、首なし騎士の真偽定かでない怖さ、そしてその意外にも物理的な存在は、観客を惑わす作品の不思議な魅力となっています。
ただ、ストーリーに関しては少し分かりづらく、終盤で全ての真相を台詞によって急ぎ足で説明するあたりは、雰囲気を重視しすぎてストーリーテリングがおざなりになった感がありました。

14位 ボーン・コレクター 3.0

90年代に流行したサイコスリラーの流れをくんでおり、猟奇的で謎に満ちた犯行は観ていてワクワクしました。
このジャンルを流行させた「羊たちの沈黙」よろしく、頭脳明晰だがその場から動けない男と彼に反発を抱きつつも徐々に理解し合っていく若い女性による捜査を軸にストーリーは進みます。
ミステリーとしてはイマイチで、ラストもあまり腑には落ちません。しかし遠隔操作による捜査が生む独特の緊張感と、ショッキングな犯行の描写で飽きずに楽しめます。
90年代のニューヨークらしい雰囲気をとらえたダークな映像も、ノスタルジックで好みでした。

13位 アモーレス・ぺロス 3.0

ガエル・ガルシア・ベルナルの出世作であり、メキシコの名匠イニャリトゥの初監督作品。
兄嫁に横恋慕して逃避行のために闘犬で金を稼ぐ青年、不倫相手との念願の同棲生活が交通事故と部屋の床に空いた穴から狂っていくモデルの女性、家族を捨て裏稼業で生計を立てながら愛犬たちと暮らす初老の男、三つの運命が交錯するストーリーです。
登場人物が軒並み暑苦しいほど感情的で、多少歪んだ形ではあれそれぞれの物語において割とピュアな愛情が存在し、そしてそれは報われることがありません。
そのやるせなさが浮かび上がっていく適度に入り組んだ構成が秀逸で、後のイニャリトゥ作品が技巧に溺れて複雑化しすぎていると思わずにはいられませんでした。
三つ目の話はもっと決定的な役割を果たすかと思いきや、絡み方が今ひとつ薄いのがもったいなかったです。

12位 ストレイト・ストーリー 3.0

デヴィッド・リンチが実話を基にしたヒューマンドラマを監督したという触れ込みはファンを驚かせ、素直に心温まる物語と聞いても、エンドロールが流れる瞬間までは誰もが疑いの目を向けていたであろうロードムービー。
小型のジョンディアに跨ってのスローペースな旅と、その道中に出会う人々との対話を通じて主人公の人生観を浮かび上がらせる手堅い構成で、さりげないラストも味わい深かったです。
「ロスト・ハイウェイ」と「マルホランド・ドライブ」という複雑に入り組んだ二作の合間に今作を手掛けたのは、映像作家としての懐の深さを見せつけるだけでなく、その二作でテーマとした分裂する人格と人間の二面性をそのまま自身のフィルモグラフィーに当てはめているように感じました。

11位 ゴースト・ドッグ 3.0

自身をサムライになぞらえて生きる孤独な殺し屋を描く、ジャームッシュのカルチャーオタクっぷりが発揮された異色作。
かつて命を救われたマフィアの男を主と捉え、殺しの任務を請け負うようになった殺し屋が逆にマフィアの一味に命を狙われる事態に陥る物語です。
社会から切り離されて時代錯誤な生き方をする主人公だけでなく、金のない老人ばかりのマフィアたち、フランス語しか話さないアイス屋の男、芥川の本を借りる読書家の少女など、キャラ設定がいちいちユニークで素晴らしかったです。
その設定のおもしろさを上回るような驚きがストーリーにないのはもったいなく感じましたが、微妙にピントがズレたやり取りや行動をニヤニヤしながら観るための作品だと思いました。
葉隠の読み上げが頻繁に入るのはやりすぎで最早ギャグになっていましたが、話の運びにリズムが生まれて平坦な物語を退屈させない効果はあった気がします。

10位 マトリックス 3.0

1999年は物質主義、コマーシャリズムに支配されて亡霊のように生きる人生を否定し、作られた幸福の中での暮らしを破壊するような作品が立て続けに発表されました。
その中でももっとも現実世界を空想的にとらえたのが本作だと思います。
その世界観は現実逃避的であり、妄想チックなアニメ的でもありました。
スタイリッシュなのかダサいのか分からない、ケレン味たっぷりのアクションシーンはこの時代を象徴する映像になり、不親切であることでかえって深読みしたくなる意味深なストーリーは多くの考察を生みました。

9位 処刑人 3.0

神の啓示を受け、世の中の悪を成敗する暗殺稼業を始めた兄弟と彼らを追いつめるゲイの敏腕刑事をコミカルかつスタイリッシュに描いたクライムムービー。
単なるチンピラでなく、ポリシーと美学を持った兄弟は魅力的なキャラクターですが、優れたプロファイリング能力を持つ刑事を演じたウィレム・デフォーの存在感は群を抜いていました。
成敗シーンとプロファイリングシーンが並行して描かれ、後半には遂に同じ画面内に登場してしまう演出も楽しかったです。
しかし肝心の成敗の行き先が今ひとつ定まりきらずに盛り上がりません。
刑事の関わり方は衝撃的な女装で期待を高めておきながら尻すぼみですし、殺し屋との合流もご都合主義で残念でした。
賛否両論インタビューでの締めも嫌いでないですが、ストーリー後半の失速がもったいなかったです。

8位 マルコヴィッチの穴 3.5

CMやオルタナ系バンドのMVのディレクターとして活躍していたスパイク・ジョーンズの映画監督デビュー作。
7と1/2階のオフィスで見つけた秘密の扉が俳優ジョン・マルコヴィッチの脳内に繋がっていたことで、人形師の主人公とその妻、そして主人公が密かに想いを寄せた同僚を巻き込んで起こる騒動を描いた奇妙なコメディ。
マルコヴィッチの見た目から名前までいじり倒すようなトリッキーな設定とシュールな世界観は抜群に素晴らしいのですが、謎の四画関係が主軸となっていくストーリー展開はイマイチでした。
ビジネスの拡大と主人公の自己実現の為に欲望が暴走していくようなブラックな笑いに寄せた方が魅力的だった気がします。

7位 風が吹くまま 3.5

キアロスタミがヴェネツィアで審査員特別賞を受けた秀作。
死に行く100歳の老婆の取材で小さな村を訪れるも、その時は中々やって来ず、村の人々の暮らしを眺め続けることになる男の物語です。
時の流れに取り残された村で、テストが気になる少年や子沢山の女性と会話し、携帯電話が鳴る度に慌てて電波の入る丘の上まで車を走らせる場面が繰り返される中盤はさながら迷宮で、劇的なストーリーを期待した観客は姿の見えないクルー同様何も起きない環境に置かれ、自力では如何ともし難い状況で身動きが取れない歯痒さを追体験させられます。
痺れを切らして席を立ち、元居た世界に戻るのか、永遠にも思える時間の流れに身を委ね、それもまた良しと思うのか、価値観と感受性を踏み絵させられているようでした。
そしてそれを切り抜けた先にはご褒美のようにささやかなドラマと、美しいロングショットの中での老医師によるテーマ解説が待っており、この至高のラスト20分が作品をより味わい深くしていました。

6位 ロゼッタ 3.5

ベルギーの名匠ダルデンヌ兄弟がカンヌで一つ目のパルムドールを勝ち取った人間ドラマ。
酒浸りで身体を売る母親とトレーラーハウスで暮らす少女が理由もなく仕事をクビになるなど、理不尽で容赦ない現実の苦難に耐えながら、力強く生き抜いていく姿を描いた物語です。
目先の金や食料ではなく、定職に就くことにこだわる少女の姿からは、それが現状の暮らしから脱出するための糸口であることがひしひしと伝わり、その場しのぎの同情や優しさを跳ね除けてしまう頑固さには、単に彼女が不器用というのではなく、根本から変えなければならないという覚悟を感じさせました。
そのためには人を蹴落とすことも必要で、時折倫理観が揺らぎながらもたくましく道を切り拓く様は圧巻で、ワッフルスタンドで忙しく働いている時の満たされた表情が素晴らしかったです。
抗い難い宿命に屈しかけたラストで再び差し伸べられた手に少女がどう応えるのか、それを見せないのはリアリティを削がないことで説得力を維持する効果がある一方、メッセージとしてはずるい気もしました。

5位 マグノリア 4.0

90年代にデビューした作家性の強い監督の初期作には、タランティーノの影響からか、複数のエピソードを終盤で集約させる構成が取り入れられがちでしたが、ポール・トーマス・アンダーソンの長編3作目であり、その評価を確固たるものとした今作は、同様に一見バラバラに思えるエピソードが徐々に結び付いていく構成をとりながらも、その最終的な結集のさせ方が特異であり、どんなに奇妙なことでも起こり得ることは起こる、という作品のテーマを表現することに成功しています。
観客が期待するカタルシスを豪快にスルーしているので、膝を打つようなオチを待ち望んでやや停滞する後半を含めた長尺を耐えていた観客からはひんしゅくを買うことが多いのも納得です。
ままならない人生の一部を切り取ったエピソードたちも良いのですが、人生の不可思議さという作品のテーマが端的に詰め込まれたオープニング、そのテーマと密接に結び付いたエイミー・マンの楽曲群が特に素晴らしいです。

4位 ジャンヌ・ダルク 4.0

世界史上もっとも有名な女性の一人ジャンヌ・ダルクが選ばれし少女となってから火あぶりの刑に処せられるまでを描いた物語。
フランス史上の英雄を狂信的な普通の人物と捉え、数々の奇跡と功績が彼女の妄想がもたらした偶然であったかのように描いたことで賛否を呼びました。
前半は剣、甲冑、弓矢の泥臭い中世の戦闘が生々しい迫力で描かれ、ジャンヌが人々に受け入れられていく過程を楽しめました。
後半は内面的な問答が可視化されるのですが、そこでのロジカルな追い詰め方は宗教裁判以上で、前半のエキセントリックな言動が人々を動かすパワーだったのと同時に、伏線だったことが分かります。
ジャンヌ・ダルクという現象が、狂人の言葉に人々が踊りたまたま運良く事が運んだのだと捉えることは、彼女の聖性を損なう冒涜的見解なのか、あるいはその事象自体を神聖化することなのか分かりませんが、作品としてはその現実的なスタンスが一般的な観客、特に日本人にとっては受け入れやすいものである気がします。

3位 アイズ・ワイド・シャット 4.5

妻に対する妄想にとらわれ、振り回される男を描いたキューブリックの遺作。
雰囲気は荘厳ですが、ストーリーはほとんどコメディです。
どんなに愛し合っていても、心のうちまでは分からない。だから平穏な夫婦生活を送りたいのなら、余計なことは考えず、ただファックしているのがいい。
人間の「愛」という幻想に対する嘲笑は、芥川龍之介の言葉を思い出させます。「恋愛とは、ただ性欲の詩的表現を受けたにすぎない」

2位 アメリカン・ビューティー 4.5

崩壊寸前だった家族がまさに壊れていく様を描いた名作。
メディアが植え付ける理想的な暮らしに取り憑かれ、物質的な価値だけを追いかける亡霊のような生き方から脱却することを訴える作品が相次いだ世紀末において、そのテーマを他のどの作品よりも身近なレベルで描ききっています。
トピックだけ追えばスキャンダラスで俗っぽいストーリーですが、優れた演出と詩的なセリフによって魅力的な物語になっています。
主人公の飄々としたナレーションと淡々とした音楽、そして神の視点を感じさせるカメラワークが作品に客観性を与え、この家庭内の悲劇をコミカルな寓話に見せることに成功しています。

1位 ファイト・クラブ 5.0

漠然とした不安を抱える時代の空気感を体現した名作です。
今後人類が迎えることがあるのか分からないミレニアムを目前に控えた1999年。上質な物に囲まれ、情報にあふれ、豊かな暮らしを送っているはずの人々の心の中にはぽっかりと空洞がありました。そんな現代の文明社会に対して疑問を投げかけたのが本作。
何のために生きるのか?なぜ生きているのか?その問いかけが行きついた先は自己破壊でした。湧き上がる暴力衝動、性的衝動は人間としての根源的な欲求であり、それは他者に対して発するだけでなく、他者から自分に対して発せられることでも生を感じることができるのです。やがてそれは生を感じられなかった人々を巻き込み、暴走し始めます。死んだように生きることを止めた主人公ですが、気が付くのが遅すぎたことが、悲劇的な結末を招きました。しかしそこには悲哀よりも、すべてをリセットできることへのすがすがしさがあふれています。
倒壊するビルを眺めながらそっと手をつなぐラストシーンは映画史上屈指の美しさであり、もっとも幸福感に包まれたアンハッピーエンドだと思います。

いかがでしたでしょうか。
1999年は個人的には多くの傑作が生まれた年でした。
次回の記事では、1988年を取り上げます。

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