今回の記事では、公開年別のマイベスト映画作品をご紹介します。
評点は5.0~1.0まで、0.5点きざみの9段階評価で、平均以上となる3.0以上の作品をランクインさせています。
今回取り上げたのは1973年で、15本の作品が3.0点以上でした。
15位 ダーティハリー2 3.0
刑事ものの金字塔となった前作に続くシリーズ二作目。
法では裁けぬ悪人に対し自らの手で制裁を下すことで、警察組織から孤立し、ドロップアウトしていく主人公を描いた前作は正義とは何かを突きつける物語でした。
既存の価値観に対して反発するニューシネマの流れを汲んだアンチヒーローであったからこそ、ハリー・キャラハンは名キャラクターとなり得ました。
しかし今作ではそれを反転させたかのような設定の中で、法のもとにハリーは正義を行使します。
そこに強烈な違和感を覚える一方で、周囲の人々との人間関係を見ると上司以外とは良好な関係を築いており、今作は続編と言うよりはダーティさが薄れて丸くなったハリーを主人公にして作られた別物のサスペンスアクションなのだと思うと納得でき、それなりに楽しめました。
セルアウトしてしまったのは残念ではありますが、シリーズとして継続するためにはこの方向転換は正解だった気がします。
14位 ジャッカルの日 3.0
フランス大統領シャルル・ド・ゴールの暗殺を目論む殺し屋とそれを阻止しようと奮闘する刑事を描いたフレッド・ジンネマン晩年の代表作。
ジャッカルというコードネームで呼ばれるプロの殺し屋のキャラクターが魅力的で、デヴィッド・ボウイのような風貌に、周到に準備や練習を行う緻密さと突発的な殺しも厭わない冷酷さを併せ持ち、それでいて人間的な暮らしをする面も垣間見せるので感情移入ができる人物像でした。
警察側にも明らかに無能な人物はおらず、着々と操作網を狭めていく様はスリリングでおもしろかったです。
ただ裕福な婦人との情事など冗長な要素も散見され、一方でストイックな作風とはいえ、クライマックスのあまりにもあっけない結末は消化不良で、ド・ゴールが現れるその時を待つ暗殺者と、狙撃場所を特定しようと躍起になる刑事のカットバックでもう少し盛り上げても雰囲気は損なわれなかった気がしました。
13位 突破口! 3.0
ドン・シーゲルが「ダーティハリー」の後に撮ったクライムサスペンス。
銀行強盗でささやかな儲けをするはずが、期せずしてマフィアの大量の隠し金を奪ってしまった男たちが警察とマフィア双方から追跡される物語です。
渋いウォルター・マッソーにさそり役で知られるアンディ・ロビンソンが良い味を出しています。
地味ですしテンポが良いとも言えませんが、危機を脱するために常に先を読み用意周到な主人公の行動とその結果にはパズルのピースがはまるような気持ちよさがあり、終盤の丸いベッドでの北北西ならぬ南南西発言もその後の飛行機を使ったクライマックスへの前フリとしてニヤリとさせられました。
12位 ミツバチのささやき 3.0
スペインの寡作な映画作家ヴィクトル・エリセの長編デビュー作。
スペインにイメージする暖かな陽射しや情熱的な感情とはかけ離れ、荒涼とした風景の中で静かな心の動きが描かれています。
純真な少女の目を通して、善と悪、生と死、真実と虚構といった分断された二つの概念が共存する世界を見つめた繊細でイノセントな物語で、姉妹にしては正反対に見えるキャスティングにも二つの対立する概念が投影されている気がしました。
少女が抱いた違和感は、悪とは何か、悪はなぜ排除されるのかというピュアな疑問のみならず、悪とされる方にこそむしろ心惹かれていることへの戸惑いでもあったように感じました。
象徴的なシーンを散りばめすぎると曖昧で意味不明な内容に陥りがちで、今作もその例に漏れず抽象的すぎる気はしますが、画の美しさと少女たちの可愛らしさで観客の興味を引き続けることには成功していると思いました。
11位 燃えよドラゴン 3.5
ブルース・リーの代表作であり、カンフー映画の名作。
有名なテーマ曲とそこに重なる怪鳥音、鉤爪と鏡の間、とどめの後の切ない表情と印象的な要素を挙げだしたらきりがありません。
強い役を本当に強い人が演じたことで生み出された迫力は唯一無二で、それだけで何物にも代えがたい作品の魅力になっています。
ストーリーはいたって単純かつ平凡なのですが、丁寧な前振り、アクションとサスペンスのバランス、クライマックスの盛り上がりと結末の潔さ、それらすべてが過去の作品と比べても良くできています。
10位 ジギー・スターダスト 3.5
ジギー・スターダストとして地球に降臨したデヴィッド・ボウイのロンドンでの伝説的なライブの模様を収めた傑作ライブドキュメンタリー。
時折バックステージの模様を映しながらもライブそのままの構成が素晴らしく、個性的な衣装とメイクとは裏腹にシンプルなステージ演出と楽曲自体の上質さ、そして何よりその佇まいでショーとして完成してしまうことを見事にとらえていた気がします。
暗闇に赤いライトで照らされて浮かぶ顔面のアップだけで尺が持つのはボウイゆえで、それを阻害しない潔い作り手の姿勢は好印象でした。
ミック・ロンソンが見事な長尺ギターソロを聴かせてくれますが、その裏でボウイがスタイリストの手を借りて早着替えしているのは何だか微笑ましかったです。
9位 赤い影 3.5
カメラマン出身の監督ニコラス・ローグによるオカルトスリラー。
娘を水難事故で亡くした夫婦が水の都ヴェネツィアで霊感のある老姉妹と出会い、罪悪感を取り払いたい妻がそこに救いを求める一方で、街では連続殺人事件が起こり夫が不安を募らせていく物語です。
カットバック多用の編集が素晴らしく、特に冒頭の悲劇、有名なセックスシーン、夫婦が行き違うクライマックスと抜群の効果を上げていました。
ネガの染みとレインコートに始まる赤色は、終始画面の中で不吉な予感を漂わせ続けます。
そして事後の身支度の雰囲気を夫婦の営みと同時に見せることで、両者の精神状態が片や安定し片や不安定に陥る交差点として機能している気がします。
さらにクライマックスでは編集の妙が、ミステリーの原動力となっている夫が目撃した光景を予知夢とは思わせないトリックにもなっています。
テンポはゆったりですし、ストーリーも驚くべきミステリーと呼べる程ではないのですが、作りの巧みさが作品の質を数段引き上げていました。
8位 悪魔のはらわた 3.5
アンディ・ウォーホルの映像制作における右腕として知られるポール・モリセイがイタリアで撮ったカルトホラー。
死体を繋ぎ合わせて新たな生命体を生み出す実験に執心するフランケンシュタイン博士の狂気とその末路をエログロ満載で描く物語です。
明らかにイカれた博士が霞むほど、周囲の人々が軒並み常軌を逸しており、特に飽くなき性欲と臓物への異様なこだわりはもはやギャグとして成立しています。
そしてそれをさも崇高なアートかのように描くシュールさがまた笑いを誘います。
バカげた行為は真顔でやるからこそ、そのギャップがおもしろいことをウド・キアとジョー・ダロッサンドロの迫真の演技が見事に証明していました。
悪趣味と芸術の狭間を突き続ける今作を象徴するようなラストカットも素晴らしかったです。
7位 ファンタスティック・プラネット 3.5
SFアニメーションの金字塔と称される怪作。
人間よりも高度な文明を持つ惑星で人々は野蛮人としての暮らしを強いられ、オモチャとして弄ばれ、ペットとして愛玩され、害虫として駆除される中で、やがて知恵をつけた種族による反乱が企てられる物語です。
不気味な絵柄は人間が他の生物に対して行う身勝手な振る舞いを風刺するにあたり、そのおぞましさを見事に表現しています。
穏健派の行いが自らの未来に危機を招く皮肉をどう結んでくれるのかと期待しましたが、結末には意外にもエッジが効いておらず拍子抜けでした。
それでも強烈なビジュアルとプログレ風の音楽は頭にこびり着くのに十分な中毒性を備えていたと思います。
6位 ルドガー・ハウアー/危険な愛 3.5
20世紀最高のオランダ映画に選ばれたというポール・ヴァーホーヴェンのキャリア初期の代表作。
若い男女の欲望に任せた刹那的な生き方を描く物語です。
極めて下品で猥褻な描写が満載なのですが、意外にも暴力的な描写は少なく、シンプルなストーリーがコミカルに展開されていくので面白かったです。
今作で映画デビューのルドガー・ハウアーの存在感は凄まじいですが、それに劣らぬ体をはった熱演を見せるモニク・ヴァン・デ・ヴェンも素晴らしかったです。
終盤はそれまでとは打って変わってシリアスな展開となり、前半の享楽的な暮らしとのギャップで切なさが際立っています。
特に傷ついたカモメを看病して海に放つ比喩的な場面や、銅像と赤毛を印象的に使うラストなど繊細な演出が冴えて素晴らしかったです。
5位 アミューズメント・パーク 3.5
高齢者に対する社会の仕打ちを批判的に描いたロメロ幻の教育映画の怪作。
若者にとっては楽園であっても老人にとっては疎外感と恐怖を味わう場所として描かれる遊園地は悪夢的で、お年寄りを大切にというありきたりなメッセージを表現するにはあまりにも痛烈な描写です。
年齢と共に衰える身体能力、そしてそれを補えるのは貯蓄だが、若者たちはそれを容赦なく奪い取りに来る。
そして視線の先には死神がチラつき、用意された場所へと押し込められる。
ロメロが得意とするサタイアとしては直接的すぎる表現で、説教臭くなっているのが難点ですが、観客を不安にさせる効果としては抜群で素晴らしかったです。
バイカーたちに暴行されるシーンのコミカルなカットの繋ぎの違和感は笑えました。
4位 スティング 3.5
いかさま師たちの姿を軽妙に描いたコンゲームものの名作。
ところどころ設定や展開に無理矢理感は否めませんが、コミカルで軽めの演出が細かいことを気にさせません。その代償としてコンゲームらしいスリルは薄めです。
無難な演出にセット中心のロケーションであるのに加え、時代設定が戦前なので70年代の映画とは思えない古めかしさがあります。
場面転換時の挿絵がさらにそれを強調すると同時におとぎ話感を出しているので、結果的にリアリティの薄さをカバーしている気がします。
3位 ウィッカーマン 3.5
怪奇俳優として名を上げたクリストファー・リーがモンスターによる恐怖ではなく、人間の愚かしさを恐ろしさに転換して体現して見せた怪作。
主人公の高圧的かつ断定的な振る舞いは領主の穏やかで理知的なそれとは好対照で、どんどん主人公が狂信的な異端者に見えていく演出が巧みです。
何を信じ、何を正とするかは結局特定の人間集団が作り出した幻想であり、それが宗教とその対立による争いの真相だと看破するような鋭いメッセージが感じられます。
とはいえ決して説教くさくなることはなく、不思議な歌と踊りで観客をも惑わせながら、それら全てを伏線として終盤のスリリングでカオスな展開へとなだれ込む構成は素晴らしかったです。
2位 エクソシスト 3.5
悪魔と悪魔払いのパブリックイメージを作り上げたオカルトホラーの古典的名作。
緑の吐瀉物や頭の回転、ポルターガイストにスパイダーウォークと冷静に見れば笑ってしまうような演出の数々が、妥協なくシリアスに徹しきった姿勢のおかげでアイコニックな恐怖シーンを作り上げています。
中東での裏付けシーンはなくても良かった気がしますが、余韻を残す結末まで淡々と恐怖を積み上げていく展開も素晴らしく、印象的なテーマ曲とともに映画史にその名を刻んでいます。
1位 都会のアリス 4.0
ヴェンダースがそのスタイルを確立させたロードムービーの傑作。
期せずして共に旅をすることになった男と少女が心を通わせていく物語です。
記者としての務めを果たせない男の満たされない心は、少女をアムステルダムへ連れ帰るまでの過程でパートタイム的に擬似父親を務めることで都合良く存在意義を獲得し、飛行機の中でのシーンを筆頭に幸福感と充実感にあふれています。
しかし母親が現れないことで少女が見捨てられたような孤独を感じると、男は正規雇用に躊躇するフリーターのように煩わしさを覚えますが、祖母の家探しを通じて次第に役に立つことの喜びに目覚めていきます。
移動という行為を通じて、移ろい行く風景を背景に、人の心の微妙な変化を映し出す、まさにロードムービーのお手本のような作品です。
クラウトロックの代表的バンドCANが音楽を務めたらしく、物哀しいギターの調べは印象的ながらも、あまりに乱発気味なのがかえって効果を薄めている気がしました。
いかがでしたでしょうか。
1973年はアクション、ドラマ、ホラーにロードムービーとバラエティ豊かな傑作が生まれた年でした。
次回の記事では、1984年を取り上げます。
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