今回の記事では、公開年別のマイベスト映画作品をご紹介します。
評点は5.0~1.0まで、0.5点きざみの9段階評価で、平均以上となる3.0以上の作品をランクインさせています。
今回取り上げたのは2011年で、12本の作品が3.0点以上でした。
12位 シャーロック・ホームズ シャドウ ゲーム 3.0
前作よりもさらにアクションの比率が増し、もはやミステリーよりもアドベンチャー要素が勝っています。
シーン個々で観ると、アクションの派手さもクライマックスでの謎解きのユニークさも前作より優れている気がしますが、作品全体を通して観ると中だるみしていて、甲乙つけがたい続編になっています。
メイン2人の関係性はますます微妙になっていて、ある意味一番のハラハラポイントです。
11位 アーティスト 3.0
サイレント映画として80年以上ぶりにアカデミーの作品賞を受賞して話題となった秀作。
単にモノクロのサイレントに取り組んだ物珍しさが評価されたわけではなく、トーキーへと移り変わる時代の波に乗った者と取り残された者とを対比するストーリーが映画史における光と影をリマインドし、業界人のノスタルジーに触れるものであったのだと思います。
とはいえ、その栄枯盛衰をロマンスに重ねて描いたことで、映画オタクだけに向けたマニアックな作品とはならずに済んでいます。
サイレントゆえにカット割とモンタージュに細心の注意が払われているのを感じられるのがおもしろい一方で、テンポの遅さを感じてしまうのも興味深かったです。
結末は甘すぎて好みでなかったですが、最後まで退屈はせずに楽しめました。
10位 ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル 3.0
前作で獲得したチーム感を残しつつ、アクション的な見せ場もふんだんに盛り込んだことで、シリーズの興行成績を一段上のレベルへと押し上げた4作目。
今作からトム・クルーズ本人による体をはったスタントがシリーズの目玉となりました。
一方でチームのメンバーの存在感が増したことで、コミカルさとシリアスさこバランスが良くなった気がします。
ただ、スパイ映画的な雰囲気にあふれたオープニングにはワクワクさせられますが、その後の複数の組織が絡み合うストーリーは利害関係が理解しづらくてイマイチ乗り切れませんでした。
9位 ピザボーイ 史上最凶のご注文 3.0
「ゾンビランド」の監督と主演コンビによるクライムコメディ。
おバカなワルの企みに巻き込まれたピザの配達員がとぼけた友人をさらに巻き込んで起こす騒動を描いています。
登場人物が基本的に皆おとぼけで、主人公が割とまともなツッコミ役というのが新鮮で楽しめました。
それぞれの思惑や行動が思わぬところで作用し合ってストーリーを前に進めていく展開は初期のタランティーノやガイ・リッチーを思わせますが、それを可能な限り肩の力を抜いて、バイオレンス描写も減らして作ってみたような印象で、それこそピザを片手に観るにはうってつけの作品です。
8位 マネーボール 3.0
00年代初頭のメジャーリーグで革新的な球団運営を行なった実在のGMをモデルにした実録スポーツドラマ。
私生活やルックスを考慮せず、選手をあくまで数字として扱い評価するような考え方はビジネスとしては合理的ではありますが、スポーツとしては味気ないものです。
作品もスポーツものとしてのおもしろみには欠けていますが、主人公がどう課せられたタスクに立ち向かうかを丁寧に描いていて楽しめました。
トレードや解雇を告げた時に殴り合いや罵り合いが始まることもないのがやけにリアルで良かったです。
ただクライマックスである連勝記録の場面はベタな感動演出を避けつつも、ドラマチックなカタルシスを生み出したくなったのか中途半端なシーンになっていたのが残念でした。
7位 ドラゴン・タトゥーの女 3.0
世界的なヒットを記録したミステリー小説の映画化。
ストーリー自体は秘密の多い一族の闇を暴いていく過程を丹念に、一直線に描いていきます。その中にアブノーマルな性描写が表れるものの、ミステリーとしては普通の出来です。
一方で、男性に虐げられてきたリズベットがそれを乗り越え、自立を獲得するものの、実らぬ恋をする悲恋の物語としては秀逸です。尖った身なりや言動は自分を守るためであり、心の中では自分を大切にしてくれる人をピュアに求めている人物としての描写は類型的ではありますが、観る価値はあります。
6位 おとなのけんか 3.0
戯曲をポランスキーが室内劇として映画化したシニカルなコメディ。
子供の喧嘩でケガを負った側の両親と負わせた側の両親が話し合いの場を設けるも、一時は穏便に解決しかけた議論がやがて本題を外れ収拾のつかない事態に発展していく物語です。
イメージ通りのキャスティングと役者陣のパフォーマンスが素晴らしく、上辺の仮面が剥がれたり、男女間の対立にスライドしたりといった展開に散りばめられたあるあるネタが笑えました。
意外性や新たな発見はなかったですが、飽きる前に終える尺の短さと痛烈と言うよりあっけらかんとした皮肉のオチは気軽に観られる小品としてうまくまとまっており、名匠と名優のネームバリューに過度な期待をしなければ十分に楽しめる作品でした。
5位 最強のふたり 3.5
身体が不自由で車椅子生活を送る偏屈者の富豪と貧しく荒れた暮らしを送る粗暴な若者が出会ったことで2人に起こる変化を描いた実話に基づいたヒューマンドラマ。
そのキャラクター造形もストーリーの展開もベタで決して独創的な作品とは言えません。
しかし生活環境が真逆だけれど率直なところで共通する2人の間に芽生えていく奇妙な友情は実に心地よく、適度な笑いのシーンも微笑ましいものとして観られます。
ラストのあっさりした引き際も、押し付けがましくならない塩梅を心得た適切な演出だと感じました。
4位 トムボーイ 3.5
引っ越した先で男の子になりすました10歳の少女の一夏を描いたドラマ。
思春期前の性自認をテーマにしながらも、子どもたちの遊び方や話す内容が実に自然で、主人公の葛藤を前面に押し出しすぎていないのが良かったです。
身体上はまだ男女の違いが目に見えてこない年齢の少年少女たちの間では、性別の違いは曖昧な一つの記号に過ぎません。
しかしそこに大人や大人が決めたルールが介入して来た途端、その試みは周囲を欺く嘘と捉えられてしまいます。
真実を確かめようとする子どもたちは罪人を罰するような雰囲気ではありますが、確認する工程があるだけ良く、杓子定規な対応をする無理解な母親の断定的な態度の方が胸が痛かったです。
とはいえ親を悪者として描いて家庭環境による弊害のような印象を生まないようにしているのも巧みで、あくまで一夏の出来事として提示するスタンスなのが良かったと思います。
3位 少年は残酷な弓を射る 3.5
なぜか幼少期から自分にだけ反抗的な息子を持った母親の苦悩を描いたサスペンスドラマの秀作。
時間軸を複雑に入れ替えながらも、何かしらの事件が起きたことを冒頭から示す構成が秀逸でした。
時系列で描けば親子の距離感の変化に違和感が否めなかったと思いますが、過去の記憶として断片的に示さすことで観客に行間を読ませる仕掛けとして機能していたと思います。
そしてその読み方次第で、無責任な母親が怪物を育てた話にも、異常な少年犯罪者を子に持ってしまった親の悲劇にも見え、さらには鈍感な父親の末路や被害者の親のやり場のない怒りといった多様な視点も取り込んでいます。
赤色のイメージの多用や異様な几帳面さなど、言葉に頼らず視覚情報で伝えようとする映像的な試みも良かったです。
2位 ル・アーヴルの靴みがき 3.5
目の前の何気ない幸せを尊重するストーリー、社会的弱者へ優しい視線を向けるスタンス、そしてドラマ性を極力排するような演出スタイル。それらカウリスマキらしい特徴をしっかりとおさえながらも、移民問題という現代ヨーロッパが抱えるテーマに取り組んで新鮮味を出しています。
シビアな目線が薄れ、甘くなりすぎている気はしますが、それによってカウリスマキ入門に最適な万人向けの作品になっています。
1位 少年と自転車 3.5
ドキュメンタリータッチで濃密な人間ドラマを描き出すベルギーの名匠ダルデンヌ兄弟がカンヌでグランプリを受賞した作品。
親に見捨てられ施設で暮らす少年と彼を週末の里親として気にかける女性を描いた、おそらくはリアリティよりも寓意性を重視した物語です。
今作はダルデンヌ兄弟が初めて夏に撮影した作品とあって映像の雰囲気がこれまでとは異なっています。
そして音楽を使わないことも特徴的なスタイルとして知られていましたが、今作ではここが少年の運命の転換点であるとささやかな音楽がお知らせしてくれています。
里親は少年を初めは孤独な世界から、次に暴力の世界から愛情を持って救おうとしており、言うことは漏れなく正論です。
しかしそれゆえに空洞のできた少年の心は満たされないどころか息苦しくなっていき、共感を求めて自ら道を踏み外そうとしてしまうのがやるせない気持ちになります。
「ある子供」で無責任で幼稚な青年を演じたジェレミー・レニエを元凶である父親に配しているのが何とも示唆的です。
制作中の仮題は”Set me free!”だったそうですが、それは前半では父親による残酷な、そして後半は少年による痛切な心の叫びである気がしました。
いかがでしたでしょうか。
2011年はハリウッド製の娯楽大作にも良作が多かった年でした。
次回の記事では、2006年を取り上げます。
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