映画公開年別マイベスト 1990年

映画年別マイベスト

今回の記事では、公開年別のマイベスト映画作品をご紹介します。
評点は5.0~1.0まで、0.5点きざみの9段階評価で、平均以上となる3.0以上の作品をランクインさせています。

今回取り上げたのは1990年で、14本の作品が3.0点以上でした。

14位 ロボコップ2 3.0

麻薬を売りさばく悪党グループに、裏取引をしようとする市長、そして相変わらずのオムニ社と正しいことをする人が減り、様々な思惑が絡み合うことでストーリーは前作よりも複雑化しています。
それだけに常に正しいことをするロボコップの存在が際立っていますが、シリアスさは減り、サイボーグの宿命的な悲哀は薄れています。
全体的には前作よりも残酷描写が控えめになっているものの、バラバラ解体シーンはなかなかショッキングです。

13位 殺したいほどアイ・ラブ・ユー 3.0

夫の浮気に怒った妻があの手この手で殺害を企てる実話を元にしたコメディ。
人の生死をネタにするあたりはヒッチコックの「ハリーの災難」を思い起こさせ、そのブラックなユーモアは一見すると不謹慎なようで、簡単に人が死んでいくアクション映画よりもはるかに命を丁重に扱っている気がします。
夫が異常なほど丈夫なことで企みに巻き込まれる人が増えていく様は笑えました。
後半は展開が手詰まり気味になってやや停滞しますが、80’sの残り香的なゆるい雰囲気は最後まで楽しめます。
ありし日のリヴァー・フェニックスの美青年ぶり、無名時代のヘザー・グラハムの美少女っぷり、そして本格ブレイク前のキアヌ・リーブスの三枚目っぷりも楽しめました。

12位 ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド/死霊創世紀 3.0

ロメロによる全てのゾンビ映画の原点を数々のスプラッタ映画の特殊メイクで知られるトム・サヴィーニが監督を務めてリメイクした作品。
ロメロ自身が製作に携わり、ロメロ作品に何度も関わってきたサヴィーニが監督とあってオリジナルをほとんど忠実に再現しており、ゾンビの造形も旧作を踏襲しながらビジュアル面でパワーアップしています。
明らかな違いは主人公で、オリジナルでは黒人男性がリーダーシップを発揮していましたが、今作では冒頭に墓場で襲われる女性が主導権を握っていきます。
かつては泣き喚くか心神喪失状態のどちらかという活躍の少ないキャラクターで、今作でも序盤は同様ですが、突如覚醒して銃を握ります。
その変貌ぶりは唐突すぎるものの、時代背景を踏まえた新たな要素としてうまくストーリーに入り込んでいました。
ラストに人間の愚かしさを強調するシーンを増やしたことでメッセージ性は強まっていましたが、切れ味鋭いオリジナルの結末の方が好みでした。

11位 ニキータ 3.0

リュック・ベッソンのキャリアにおけるターニングポイントとなった初期の佳作。
強烈なインパクトを残すオープニングカットから始まる前半は、東欧諸国のような無機質で退廃的で貧しさを感じさせる雰囲気でハードボイルドな物語が展開されます。
中盤に向けてコミカルな場面が増えて、作品のトーンも明るくなって行きますが、主人公の殺し屋稼業が始まってからはまたガラリと雰囲気が変わります。
訓練された殺し屋となったことで自由に生活する機会を得た一方で、その自由な生活によって1人の女性としてのささやかな幸せを知ってしまった皮肉。
終盤はややグダグダした印象ですが、さりげないラストの悲哀が切ないです。

10位 ジェイコブス・ラダー 3.0

セクシャルな描写とサスペンス演出に定評のあるエイドリアン・ラインが「危険な情事」をヒットさせた後に放った心理スリラーの佳作。
ベトナム帰還兵の男が戦場のフラッシュバックや失った息子の面影に悩まされるうちに、身に危険が迫るようになり、軍の秘密に巻き込まれていく物語です。
ベトナム戦争で兵士が負った心の傷という公開当時に用いられることの多かった要素が、今作の仕掛けをうまくカモフラージュしています。
終盤に登場する異様な病院は悪夢のようなビジュアルで、並のホラーよりもはるかに恐怖を与えてくれます。
ややもたつき気味なテンポと、有名な前半での唐突すぎるネタバレがネックではありますが、それでも十分に楽しめました。

9位 トータル・リコール 3.5

記憶さえ売り物になった未来を舞台に、自分の存在を確かめるために主人公が奮闘します。
火星やミュータントを含めた近未来の描写に、ヴァーホーヴェンらしい容赦ない残酷描写、シュワルツェネッガーらしい無敵アクションと、SFバイオレンスアクションというジャンルを最大限に体現しています。
ストーリーをこねくり回しすぎている感は否めませんが、「ロボコップ」にも通じる不確かなアイデンティティの探求という重たいテーマを娯楽作品の中に軽やかに落とし込み、皮肉も交えて描いた佳作です。

8位 バック・トゥ・ザ・フューチャーPART3 3.5

数十年前にタイムスリップし、戻る術を失うものの、歴史改変の危険に立ち向かいながら、現代に戻るために奮闘する。
PART1のストーリーをそのまま踏襲するような展開ですが、時代設定を19世紀末としたことで、新鮮さを取り戻すことに成功しています。
20世紀前半はアメリカにとっては世界一の大国へと登りつめた繁栄の時代ですが、世界史的には二つの世界大戦と大恐慌を経験した時代でもあります。このドラマティックなエピソードには事欠かないものの、エンターテイメントとして描くにはデリケートな時代をすっ飛ばしたことで、このシリーズらしい根明感を見事に獲得していると思います。

7位 羊たちの沈黙 3.5

アカデミー賞主要部門を総なめにしたサイコスリラーの金字塔です。
特筆すべきはキャラクター造形の素晴らしさと演技力の相乗効果。
メインキャスト2人のの存在感と緊張感がすさまじいやり取りだけでも観る価値があります。
ただストーリーは割と普通で物足りなく感じます。せっかくのキャラをストーリーが使いこなせていない印象です。
ダンスや暗視ゴーグルから犯人の変態さがよく伝わってきておもしろいのですが、犯行の猟奇性は薄れてしまっている気がします。
その犯人像からは、レクター博士の知恵を借りなければならないほど緻密な犯行をしていたとは思えませんでした。
男社会の中で奮闘する女性捜査官というアングルも描き切れていません。
用意した素材が素晴らしすぎて調理しきれなかった、そんな印象の作品です。

6位 コントラクト・キラー 3.5

ある日突然仕事を失った孤独な男が、自分を殺してくれる殺し屋を雇います。しかし自暴自棄になったことで、生きる希望となる恋に出会う皮肉な秀作コメディです。
何となく生きていた主人公にとって、ドラマチックでもロマンチックでもない恋が生きる理由となる様が、カウリスマキらしいとぼけたユーモアで描かれます。
殺し屋が病で余命いくばくもなく、それゆえに最後の仕事を意地でも成し遂げようとするのもまた皮肉が効いています。
全体的にゆったりした雰囲気ですが、主人公がトントン拍子で窮地に陥っていくのでテンポが良く感じます。
しかし結末は安易でありきたりなもので、もう一捻りほしかったです。

5位 ダークマン 3.5

顔を失った科学者が人工皮膚を装着し、闇に紛れて復讐の鬼と化すダークヒーローを描いたSFアクション。
アメコミ風のヒーロー物語をサム・ライミ流に解釈した作品です。
悲惨で救いのないストーリーなのですが、それゆえに随所に差し込まれるギャグが見事に際立っていて、ライミのユーモアを堪能できます。
特に遊園地でのデートでピンクの象をめぐってブチ切れるシーンの編集は笑えました。
アクションは昨今の映像技術を駆使したヒーロー映画と比べれば当然見劣りするのですが、限られた予算の中で創意工夫したのであろう今作のアクションの方が魅力的に映りました。
ヘリコプターでのクライマックスから、高所での最終決戦、そして憎い演出のエンディングと流れるような終盤の展開が素晴らしかったです。

4位 マッチ工場の少女 4.0

家庭に恵まれず、働くだけで楽しみもない暮らしを送る主人公が、ささやかな幸せをつかもうと行動を起こしたことで、かえってどん底に落ちていく物語。
悲劇的な出来事とドラマチックに動いているはずの感情を淡々と描くギャップがとぼけた味わいを生み出すカウリスマキ初期の代表作です。
どこまでも救いのない結末ですが、そこには不思議な爽快感があり、それは単に復讐を果たしたからというだけでなく、こんな結末でもそれまでの暮らしに比べたら望ましい変化に思えるからで、主人公の不幸な境遇を際立たせることに成功しています。

3位 ホーム・アローン 4.0

カルキンくんを一躍スター子役にした傑作ファミリーコメディ。
しかけはかなりエグいものも多いのですが、泥棒コンビが謎にタフなおかげで笑って楽しめてしまう恐ろしさを感じます。
一番の魅力はハートフルなストーリーでも泥棒退治のコメディシーンでもカルキンくんのかわいらしさでもなく、音楽を含めたクリスマスのわくわくする雰囲気だと思います。

2位 ミザリー 4.0

異常だけれど理解不能ではない、恐ろしい人間の心理を描いたサイコスリラーの傑作。
主人公に感情移入させ、自分ならどうする?と考えさせるシチュエーションものとしてのうまさが、サスペンスを抜群に引き立てています。
殺人鬼でも、異形のモンスターやゴーストでもないですが、観客に恐怖を与えたキャラクターとしては映画史上屈指の存在です。
やりすぎればただの異常者となるところですが、浮き沈みする情緒の表現が巧みでキャラクターに絶妙なリアリティを与えており、それがより一層生々しい恐怖感を増すことに貢献していると感じました。
ゾッとするようなユーモアあふれるトラウマのオチも素晴らしかったです。

1位 シザーハンズ 4.5

両手にハサミが付いた人造人間の淡い恋心を描いた寓話的ファンタジーの傑作。
人とは違う特徴と才能を持った者が現れることで生まれる人々の熱狂と悲劇のストーリーの中には、異端者への監督の共感と温かい眼差しが感じられて涙を誘います。
リアルとファンタジーのミックス具合が絶妙なバランスで、ティム・バートンらしい純真な心を持った異形の主人公と舞台となる平凡な郊外の町のミスマッチ、彼を普通でないと捉えながらもその存在自体は受け入れるこの世界の人々の価値観、それら微妙な違和感がユニークな世界観を作り上げています。
町に雪が降るようになった理由は、この美しくも哀しいラブストーリーの結末として完璧と言えます。


いかがでしたでしょうか。
1990年は残酷描写やブラックさがユーモアと絶妙に絡み合った作品が目立った年でした。
次回の記事では、1987年を取り上げます。

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