今回の記事では、公開年別のマイベスト映画作品をご紹介します。
評点は5.0~1.0まで、0.5点きざみの9段階評価で、平均以上となる3.0以上の作品をランクインさせています。
今回取り上げたのは1977年で、5本の作品が3.0点以上でした。
5位 カプリコン・1 3.0
火星着陸の映像を捏造する陰謀に巻き込まれた挙句、命を狙われるハメになった宇宙飛行士たちを描いた社会派サスペンス。
権力者たちは国民を騙し、悪事を働く存在であるとする描き方があまりに露骨なのですが、この時代はそれでも信憑性があったのかもしれないと感じました。
前半は緩めな作戦に緊張感が感じられず、何となく逃走劇が始まるのも拍子抜けでしたが、その後は逃げる3人と追うヘリコプターという構図に真相を追う記者も交えたサスペンスフルな展開が良かったです。
カーアクションと航空アクションで適度な見せ場を作る構成もうまかったですが、ラストシーンの演出は感動もカタルシスも生んではおらず、的外れすぎてかえって笑えました。
4位 アメリカの友人 3.0
ハイスミスの原作を基にヴィム・ヴェンダースが仕上げたクライムサスペンス。
家族に金を残すために暗殺任務を請け負う余命わずかな男と彼を利用するために裏で糸を引く贋作美術商の男の奇妙な関係を描く物語です。
序盤はデニス・ホッパーが主人公かと思いきや、いつの間にか視点はブルーノ・ガンツに移り、危なかっかしい任務遂行に作品自体の行方も不安になって来た頃にタイトルの意味が分かり胸がすく思いでしたし、これがハイスミスの原作であることも同時に思い出され合点がいきました。
終盤はその奇妙な関係が不思議な着地を見せドラマとしてはやや消化不良でしたが、そこに至るまでのサスペンス演出といくつもの美しいカットで十分に満足できました。
3位 アニー・ホール 3.5
ウディ・アレンがそのスタイルを確立させると同時に完成させた最高傑作と名高い作品。
ニューヨークを舞台に1組の男女が出会い、恋に落ち、愛し合い、離れていくまでを描いたラブストーリーです。
愛らしくロマンティック、それでいて滑稽で煩わしい恋愛の理想と現実をシニカルなユーモアとナルシズムを交えて描いています。
ストーリー自体におもしろみはあまり感じられませんでしたが、映像ならではの表現手法の数々が楽しく、回想への参加や本音の字幕表示と幽体離脱に画面分割と見どころがたくさんありました。
特に第四の壁の破壊は観客の没入感を削ぐリスクのある手法ですが、自虐的な自作自演である作風には見事にマッチしていました。
2位 欲望のあいまいな対象
晩年まで飽くなき創作意欲で映画制作を続けた鬼才ブニュエルの遺作。
セビリア発パリ行きの列車の同じ客室に乗り合わせた数人の人々。
その乗客の1人である老紳士は列車に追いすがった元小間使いの女性にバケツで水を浴びせます。
なぜ老紳士はそんなことをしたのか、その理由が長旅の暇つぶしとして回想と共に語られる物語です。
ロザリオを手に持ちながらスカートの中は悪魔というセリフが作品のテーマを端的に表しています。
ただしそれは男が女性に対して勝手に抱く都合の良い幻想であって、天使の清らかさと娼婦の淫らさを同時に求める男の欲望の矛盾を嘲笑っているようでした。
タイプの異なる2人の女優が同一人物を演じるのは、欲望が成就しそうな状況か否かによって、男の目に女性がどう見えるかを表している気がしました。
テロや暴力が街中にあふれているのに、若い女性に夢中になって翻弄される呑気で哀れな男を描くコメディの体裁を取りながら、愛とは欲望の愚かさを隠すために装飾を施した姿に過ぎず、だからこそその対象はいつだって曖昧なのだと自身の哲学を見事にストーリーに落とし込んでいて素晴らしかったです。
1位 サスペリア 4.0
美しさと恐ろしさを高度に両立させた稀有な作品。
ミステリアスなストーリーと過激なスプラッター描写だけでもホラーとして十分な見どころですが、むしろそれら娯楽作品としての要素を脇に追いやるだけの多彩な魅力が詰まった傑作です。
ライティングの妙が味わえる色彩感覚抜群の映像美、ロングショットとクローズアップを巧みに使い分けるカメラワーク、そして不安を煽る印象的な音楽、それらは作品を芸術の域に押し上げています。
壁紙がこれほど鮮烈な印象を残す映画は他になく、この独特な世界観を築き上げた美術も必見です。
結末はあまりにもあっけなく拍子抜けなのですが、安堵したような笑顔をさり気なく映すセンスには好感が持てました。
いかがでしたでしょうか。
1977年は映画界をブロックバスター作品が席巻する中、少ないながらも作家性が光る作品も生まれた年でした。
次回の記事では、1965年を取り上げます。
コメント