映画公開年別マイベスト 1983年

映画年別マイベスト

今回の記事では、公開年別のマイベスト映画作品をご紹介します。
評点は5.0~1.0まで、0.5点きざみの9段階評価で、平均以上となる3.0以上の作品をランクインさせています。

今回取り上げたのは1983年で、6本の作品が3.0点以上でした。

6位 大逆転 3.0

環境が人を作るのか?資質が人を作るのか?そんな問いに端を発した大富豪2人のタチの悪い賭けによって、立場を入れ替えられることになったリッチで真面目な青年とたかり屋の浮浪者を描いた秀作コメディ。
展開にはさすがに無理があるのですが、それがさほど気にならないのは設定のおもしろさとキャスティングによるものだったと思います。
イタズラと犯罪がごっちゃになっている気はしますが、ちゃんと天罰が下るのは良いです。
ただ、復讐を企てるシーンのテンポが悪く、イマイチ爽快感に欠けていることを作り手が自覚しているかのようなラストシーンは蛇足でした。

5位 キング・オブ・コメディ 3.0

ショービズ界とそれを享受する観客を皮肉ったブラックコメディであり、現実と妄想の境目を見失った男の暴走を描いたサイコスリラーでもある、スコセッシ&デ・ニーロのコンビによる佳作。
行き過ぎた憧れと満たされない承認欲求が主人公を暴走させるのですが、比較されがちな「タクシードライバー」と比べると今作は主人公が初めから危うい人物であることが明白です。
孤独を深めていく過程を見ることはできないものの、いつ何をしでかすとも知れないスリルが序盤から溢れています。
それでいて、一人で妄想を膨らませていく姿を母親に怒鳴られる現実と理想の世界の可視化により、滑稽に描いているギャップも良かったです。
しかし一線を越えて犯罪行為に踏み出す後半の展開は今ひとつで、そのきっかけとなる出来事も、実際に行う行為も、共犯者とその顛末もスリルと爆発力に欠けています。
現実だとすれば皮肉に、妄想だとすれば狂気に捉えられるラストこそ良かったものの、終盤の失速感は否めなかった印象でした。

4位 プロジェクトA 3.5

時計台落ちなど数々の命がけスタントで知られるジャッキー初期の代表作。
ストーリー運びは粗く、断片的なエピソードをつなぎ合わせたような印象ですが、その断片の一つ一つにこれでもかと観客を喜ばせるアイディアが詰め込まれているので、ストーリーを追わずとも楽しめました。
力よりも技を重視し、手数が多く、スピード感とユニークな発想にあふれたコミカルなアクションは唯一無二です。
笑いのセンスは正直古臭く、ベタなギャグが多いですが、昔のコント番組を観ているような懐かしさと安心感があって良かったです。

3位 地下室の怪 3.5

シュヴァンクマイエル版の”はじめてのおつかい”的な短編。
少女が不思議な世界を覗き見たり迷い込むような展開は後の「アリス」や「オテサーネク」にも用いられるモチーフでした。
薄暗い地下室への恐怖というオーソドックスなテーマかと思いきや、大人が良かれと思ってする行為に対して子どもが感じる漠然とした恐怖を見事に描写していました。
冒頭の手品や掃除という大人が何気なくする所作に対する不快感や違和感は、地下室で目にする石炭の布団や泥の料理に抱くそれと大差ないことがよく表れていました。
じゃがいもの件は初期から変わらない繰り返しへの偏執的なこだわりがユーモラスに表現され、黒猫がつける不条理なオチも素晴らしかったです。

2位 ノスタルジア 4.0

映像の詩人と呼ばれたソ連が誇る巨匠タルコフスキーが晩年イタリアに渡って撮った傑作。
まだ世界が東西に分断されていた時代を生きた作家にとってその越境には大きな意味があり、作中で語られる作曲家の境遇に主人公が自らを重ねるように、主人公の心境に監督が自身を重ねる三層構造を成しています。
夢の中と白昼夢に過去の記憶と幻想が頻繁に現れ、終盤までほとんど出来事が起こりません。
あまりにも静かな展開が眠気を誘うのは確かですが、そこに目を見張るようなショットの数々が散りばめられているのもまた確かです。
シンメトリーを多用する被写体の配置と、それに対するカメラの距離感が抜群で、不自然な程離れて空虚な心を画面に表しながら、じっくりとにじり寄ってその内面に観客を引き連れて入り込もうとするようなカメラワークが素晴らしかったです。
二つのクライマックスでは、広場においては他のシーンでは見せない細かなカットの繋ぎでこの場面を際立たせ、一方で温泉においては得意の横移動と長回しを見せつけて本領発揮しています。
一本のろうそくに込められた願いが主人公を夢見た故郷に連れ戻しますが、そこには単なるノスタルジーではなく、もう戻れない異世界の場所となった故郷への複雑な想いが美しく映し出されていました。

1位 アングスト/不安 4.5

実在したサイコパスが出所早々犯した凶行の一部始終を生々しく描いた傑作。
ひたすら続く独白が主人公の心理や哲学を説明しながら話を進行する形式は、さながらドストエフスキーを読んでいるようで、「ハウス・ジャック・ビルト」等、後のサイコパス映画にも引き継がれている気がしました。
サイコパスがその犯行時にどんな心理状態にあったのかを鮮明に描き出しており、暴力的衝動が性的欲求に結びつく倒錯ぶりに共感はできなくとも理解へと導いてくれます。
全てを説明してくれるので、思い通りにいかない滑稽さ、隠したいのか見て欲しいのか分からない不器用さがまるでコントのようですが、独白がなかったらと思うと、その異様で不気味な行動をあまりに詳細に、スキップなしで描いていることに恐怖を覚えました。
技術的にも見どころが多く、ナレーションに頼りすぎて陳腐になりかねなかった心理描写をカメラワークと音楽が見事にフォローしています。
特に撮影は素晴らしく、時にカメラを主人公に直結させて周囲だけを揺り動かすことで切迫し動揺した心理を疑似体験させ、時に中空へと舞い上がり神のような視点で愚かしい行動を見つめさせ、観客の目線を自在に操る抜群の効果を上げていました。


いかがでしたでしょうか。
1983年はヨーロッパ映画に傑作が多く生まれた年でした。
次回の記事では、1992年を取り上げます。

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