今回の記事では、公開年別のマイベスト映画作品をご紹介します。
評点は5.0~1.0まで、0.5点きざみの9段階評価で、平均以上となる3.0以上の作品をランクインさせています。
今回取り上げたのは2009年で、16本の作品が3.0点以上でした。
16位 マイケル・ジャクソン THIS IS IT 3.0
人類史上最も偉大なエンターテイナーであるマイケル・ジャクソンの最後のツアーの舞台裏を映し出したドキュメンタリー。
90年代以降に彼を認知した世代からすると、どうしてもスキャンダラスなイメージばかりが先行してしまい、あれだけの文化的遺産を残した生ける伝説にも関わらず、純粋にマイケルの音楽やパフォーマンスに目を向けようとする人は少なかった気がします。
ツアーが発表された時も熱狂していたのはファンだけで、世の中にはどこか冷ややかな雰囲気があった記憶があります。
しかしそれから数ヶ月後にマイケルが突然この世を去ったことで、その業績に改めてスポットライトが当たりました。
そして今作はリハーサルですらそのあらゆる所作からオーラが溢れているマイケルの姿を見せてくれます。
ここに収められたダンサーたちの熱い眼差しは、披露される名曲の数々と共にマイケルを神格化するのに一役買っていると思います。
15位 カールじいさんの空飛ぶ家 3.0
ピクサー作品として初となるアカデミー作品賞へのノミネートを果たしたアニメーション。
亡き妻との夢を叶えるために、家に大量の風船を付けて浮かび上がらせ南米を目指した老人と、そこに同行することになった少年の冒険を描いた物語です。
序盤の数十年の人生を一気に振り返る有名なシーンはやはり素晴らしい出来で、実写であれば白々しくて冷めてしまったかもしれませんが、アニメーションだからこそ自然に受け入れられてとても効果的だったと思います。
互いに寂しい心を持つ者同士の間に絆が生まれるまでを描いていますが、陰気な物語にはせずあくまでアドベンチャーとしたのが奏功しており、正に大人も子ども楽しめる作品として見事なバランスで成り立っています。
バカバカしいギャグではなく、クスッとくるところを突いてくるユーモアのセンスも良かったです。
14位 インビクタス/負けざる者たち 3.0
南アフリカを舞台に指導者として人種間の融和を目指したマンデラ大統領と彼を取り巻く黒人白人混合のボディガードたち、そしてラグビーの代表チームという三つの視点を絶妙に絡ませながら、自国開催のワールドカップでの快進撃を描いた実話に基づく物語。
ストーリーとしてはボディガードたちの存在が効いていて、初めは反目し合いながらも徐々に協調していき、ラグビーごっこをする微笑ましい姿を披露した後には団結して決勝戦の警備に臨む展開が作品の隠れた推進力となっていて、作品を単なるスポーツドラマとして終わらせない要因になっていました。
しかし決勝戦には長い時間を割く一方で、そこまでの戦いはあっさりと省略されてしまうのはアンバランスな気がしましたし、イーストウッドが毒気を出さずに職業監督に徹しているかのような無難な演出は少し物足りなくも感じました。
13位 シャーロック・ホームズ 3.0
あまりにも有名な原作とそのキャラクターを意識的に崩すことを試み、それがある程度成功したと言えるガイ・リッチー流のミステリー風アクション。
スローに語りを重ねる得意の手法で描くアクション直前のシーンは、抜群の洞察力を持つホームズの特性をうまく表現したおもしろいシーンになっています。
作中浮上するいくつもの謎に対してクライマックスで矢継ぎ早に推理を披露しますが、膝を打つような内容ではなく、謎解き要素を求める人からは不評なのかもしれません。
12位 ムカデ人間 3.0
アンモラルな発想の奇天烈さが話題となってカルトムービー化したシリーズの一作目。
人間の口と肛門を接合して新しい生命体を生み出すことに執念を燃やす元外科医の男を描いたスリラーです。
奇抜な設定のイメージばかりが先行していますが、前半は脱出できるかどうかのサスペンス、後半は主体を変えて隠し通せるかのサスペンスを意外にも手堅く見せてくれるのでおもしろかったです。
物語として展開不足なのは否めないですが、動機を写真と墓碑銘だけで語るなどテンポの良さで退屈することはありませんでした。
肝心な結合部分をはっきりと見せてくれないのは物足りなかったですが、観客の想像力で嫌悪感を抱かせるのには十分だったと思います。
11位 ミックマック 3.0
ジャン=ピエール・ジュネのメッセージ性あふれるコメディ。
父を地雷で亡くし、自らも流れ弾に当たって暮らしを失った主人公が、共同生活を送る変わり者たちの力を借りて武器商人たちへの復讐を企てる物語です。
ジュネらしいファンタジックな世界観に軍需産業への批判的なメッセージを盛り込んでおり、説教臭くならないユーモアとのバランスがうまく取られていたと思います。
社会の隅っこで暮らす人々の役に立たなそうな個性が活かされたり、生き抜いていくための悪知恵がお見事だったりとアイディアで楽しませてくれるのも良かったです。
中盤で間延びしている割にはスリリングになるはずの場面が平坦に進んでしまうのがもったいなく、そこをサクッと処理して90分程度にまとめてほしかったです。
10位 お家をさがそう 3.0
アメリカ人家庭の崩壊をシニカルに描いてきたサム・メンデスがユーモア多めで描くロードムービー風のコメディ。
予期せぬ妊娠が発覚し、子育てに最適な街を求めて知人が住む各地を飛んで回るカップルの物語です。
2人は30代ながら将来設計が曖昧で誰かに頼ろうとする様子が見て取れるのですが、行く先々で出会う夫婦はクセのある人々ばかりで、到底先輩としてアテにならないのが笑えました。
そこにはメンデスらしい皮肉が表れながらも、「アメリカン・ビューティー」のような辛辣さは無く、むしろ親という未知の世界に踏み出そうとする2人の成長を温かく見守るスタンスが微笑ましくて良かったです。
家族の在り方に正解などなく、自分たちの居場所は実は最初から分かっていたような甘めの結末はやや物足りなくも感じますが、爽やかな後味を残す良作ではあったと思います。
9位 スペル 3.0
スパイダーマン」シリーズで大成功をおさめてしまったサム・ライミが本来の得意分野に立ち返ったB級感満載のオカルトホラーコメディ。
登場人物と人間関係を紹介しつつ、主人公が老婆に冷たくする理由をしっかりセッティングし、置かれている状況を説明してくれる協力者まで用意する序盤30分のテンポ良い段取りが素晴らしく、その後はバカげた演出のオンパレードを心置きなく楽しめました。
車中の襲撃シーンに始まり、鼻血噴出や喉奥へのパンチなど気色悪くて笑える描写の連発で、それを登場人物たちが最後までちゃんと怖がっている真面目さも良かったです。
終盤は少しダラダラしますが、期待通りにお約束のオチをつけてくれるので満足でした。
8位 (500)日のサマー 3.0
MVディレクターだったマーク・ウェブの映画監督デビュー作。
2人の男女の出会いと別れの500日間が時系列を前後しながら描かれる物語です。
やっていることは他愛ないラブコメですが、序盤に関係の破綻を示されるので、イチャイチャするだけの場面にもどこか切なさを持って観ることになり、徐々に互いへの期待のすれ違いが表れ始めると謎が解けていくような楽しみ方ができました。
MV出身らしい映像的な見せ方の工夫もおもしろかったです。
恋愛には偶然の要素とタイミングが大きく作用し、それを人は運命と呼んで振り回されますが、季節のように抗い難く移り変わり巡って行くものだと示す結末も良かったです。
7位 籠の中の乙女 3.0
犬を育てるように子育てをする一家の話。
散歩にすら連れて行かないあたり、犬よりひどいかもしれません。常軌を逸した行動を全員が真顔でする様は、育つ環境次第で人の価値観や常識はこうも歪み得るのだと思い知らせつつ、ブラックコメディとして笑えるシーンを提供してくれます。
しかし家庭崩壊の要因がささやかすぎて、過剰にドラマチックにしないのは良いとしても、この程度の囲い方ならもっと前にも崩壊の危機は訪れていそうな気がしてしまい、この環境への説得力が薄れてしまったように思います。
6位 第9地区 3.5
宇宙人が被差別民として地球で人間と共生しているショッキングな世界観が斬新と話題になった傑作SFアクション。
ドキュメンタリー風の演出で設定を鮮やかに説明しつつ、ストーリーをテンポ良く前に進めていくので観ていて心地良かったです。
白人と黒人の関係を地球人と宇宙人に置き換えているのは明白ですし、宇宙人の仕草を人間らしくして肩入れさせようとするのが露骨なのは否めないのですが、その分強烈な風刺になっています。
そして宇宙人を迫害する指揮をとっていた主人公自身が宇宙人に変身していく展開も素晴らしかったのですが、主人公が宇宙人の武器を使えることで利用価値が生まれ、後半はアクション要素が増していってしまい、そこから先は今ひとつ掘り下げられていないのがもったいなかったです。
どうせなら主人公には最後まで傲慢で自分勝手な人間として、ブラックな結末に至ってほしかったです。
5位 ゾンビランド 3.5
ゾンビが蔓延した世界で生き延び、出会った4人のロードムービー風コメディ。
主人公が自らに課す生き残るためのルールは、ゾンビもののあるあるに対するメタ的なギャグとして楽しかったです。
軟弱なオタク風の青年を主人公に、マッチョなタフガイと小悪魔な姉とマセた妹で周りを固めるメンバー構成は一見するとありがちです。
しかしタフガイのトゥインキー愛を筆頭に、オタクが案外強気だったり、小悪魔がピュアだったりとそれぞれが意外な面を見せ、それが笑いどころになっているだけでなく、ストーリーを前に進める役割も担っている作りがうまかったです。
作品としてはゴーストバスターズごっこでピークを迎えてしまい、その後はやや停滞するものの、遊園地のアクションから爽やかなラストまで飽きずに楽しめました。
4位 ファンタスティック Mr.FOX 3.5
ウェス・アンダーソン初のストップモーションアニメーション。
キツネやアナグマといった野生生物と、人間たちが対等な存在として共存する不思議な世界観を必ずしも滑らかでないストップモーションで描き出し、そのぎこちなさが唯一無二の味になっています。
人間が演じれば陳腐に見えそうなテンポの良すぎる展開も、アニメーションだからこそ違和感なく飲み込めました。
家庭を持ってもリスクのある野生の本能的な楽しみをやめられない父親は、ウェスがよく描く夢や願望を追いかけて家庭を顧みない父親像に重なりますし、一人前だと父親に認めてもらいたくて嫉妬に燃えて失敗を犯しながら成長する息子は、これまたウェスの作品によく登場するピュアなまま背伸びする少年たちを思い起こさせます。
エンディングは微笑ましくニヤリとさせられはするものの、そこまでの流れに比べると今ひとつパンチに欠けて物足りなかったです。
3位 エスター 3.5
00年代以降のホラーを代表する作品の一つ。
オカルトでもモンスターでもない、執着心や嫉妬心といった人間の異常心理を描いた恐怖は「ミザリー」や「危険な情事」の系譜に連なっています。
ミステリアスな前半から徐々にスリラーへとスライドしていく中盤、そしてショッキングなエスターの正体と共にホラー映画らしい盛り上がりを迎えるクライマックスと構成が良くできています。
その丁寧な恐怖演出はタネを知ってから観ても十分に楽しめるクオリティです。
2位 プチ・二コラ 4.0
フランスの国民的絵本だという原作を映画化した可愛らしいコメディ。
弟ができたら両親に捨てられるかもしれないと不安になった主人公とその仲間たちが、弟を始末しようと作戦を練って騒動を繰り広げる物語です。
将来の夢をキーワードに登場人物を紹介する導入が鮮やかで、子どもたちのキャラクターが見事に立っていました。
妄想や思考の可視化を織り交ぜつつ、子どもの目から見た世界を描写しながらも、そこに主人公の鋭い観察眼が感じられるのが良かったです。
「アメリ」が体現していたフランス的なピュアさは今作にも感じられましたが、毒っ気やひねくれた雰囲気はないので子どもにも安心して観せられる内容でした。
終盤でいじけた息子を笑わせる為に父親が披露する変顔は反則レベルのおもしろさでした。
1位 イングロリアス・バスターズ 4.0
第二次大戦下でのナチスとナチス狩り部隊との攻防に、ナチスに家族を殺された女性の復讐劇をからめた物語。
緊張と緩和を使い分ける演出が素晴らしく、サスペンスフルなシーンでの緊張感がすさまじい一方で、コミカルなやり取りが良いアクセントになって緩急が生まれています。
ハリウッド映画としては珍しく言語を話し分けており、それが単なるリアリティではなく、スリルと笑いを作り出す装置として機能している点がお見事でした。
プロパガンダとして映画の力をよく知っていたナチスに対して、映画館という場所で映画のフィルムを使って復讐する、その阿鼻叫喚の惨劇はクライマックスに相応しい痛快さです。
いかがでしたでしょうか。
2009年はミステリーとアクション、ホラーとコメディなどジャンルを超越した良作が生まれた年でした。
次回の記事では、1996年を取り上げます。
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