映画公開年別マイベスト 1994年

映画年別マイベスト

今回の記事では、公開年別のマイベスト映画作品をご紹介します。
評点は5.0~1.0まで、0.5点きざみの9段階評価で、平均以上となる3.0以上の作品をランクインさせています。

今回取り上げたのは1989年で、17本の作品が3.0点以上でした。

17位 エド・ウッド 3.0

最低の監督と評されるエド・ウッドが映画制作に情熱をかける姿を描いたティム・バートン監督作品。
女装癖やピークを過ぎた名優ベラ・ルゴシとの関係など有名なエピソードをしっかり盛り込みながら、最高傑作とされる「プラン9・フロム・アウタースペース」を撮り上げるまでを描いています。
良くも悪くもどこまでもピュアな主人公像は、ジョニー・デップのつぶらな瞳と無邪気な笑顔に良くハマっていました。
トラブルとハプニングだらけの撮影がこんなにも楽しそうに感じられるのは、主人公への高感度に寄るところが大きかった気がします。
生活の苦しさや不憫な妻にはほとんど言及せず、楽天的な主人公に歩調を合わせるようにポジティブな面だけを取り上げる極端に肩入れしたスタンスは潔く、ドラマチックさを捨てる代わりにロマンチックなお伽話として成立していました。

16位 ジム・キャリーはMr.ダマー 3.0

ファレリー兄弟のデビュー作であるおバカなコメディ。
同年に「エース・ベンチュラ」と「マスク」のヒットでブレイクしたジム・キャリーの新作とあって、それらを上回るヒットとなりました。
ロードムービー的な展開の中で下ネタあり、イタズラあり、顔芸あり、妄想ありの小学生男子的なくだらないギャグのオンパレードとなっているのですが、ここまで徹底してくれると観る側の気持ちもセットできるので無心で楽しめました。

15位 スピード 3.0

撮影監督として活躍していたヤン・デ・ボンの監督デビュー作であり、90年代を代表する大ヒットサスペンスアクション。
冒頭にいきなり山場を持ってくることで、一気に物語に引き込むと共に、主人公と犯人の間に因縁を生み出す流れが見事でした。
限定空間が生み出すスリルをエレベーターに始まり、スピードを落とせないバスへと発展させる展開が素晴らしかったです。
しかしストーリーはそこでピークを迎えてしまっており、下車後の終盤の攻防は蛇足に感じてしまいました。
せっかく相棒を用意したなら、並行して描かれる犯人の特定をもう少し早く進展させて、バスからの人質救出とクライマックスを重ねた方が良かったと思います。

14位 フォレスト・ガンプ/一期一会 3.0

風に吹かれるままにふわふわと漂い、どこに落ちるかは偶然であり必然でもある。
有名なチョコレートの箱のセリフとともに、運命の不思議さと人生のあらゆる可能性という作品のテーマを端的に表現したオープニングが素晴らしいです。
歴代の大統領や有名人と並んでテレビに映る主人公の映像は今見てもなんら違和感がなく、それだけでも観る価値があります。
現代アメリカ史をなぞりながら主人公の数奇な運命を振り返るアイディアはおもしろかったのですが、前半はファンタジーとして楽しめた都合の良い展開も、後半になってもそれが連続するとさすがに飽きてしまいました。

13位 リアリティ・バイツ 3.0

90年代らしい青春映画の佳作。
学校を卒業して社会に出た途端、責任というタイムリミットは急激に押し寄せて来ます。
カウントダウンは学生の頃から始まっていたことに、社会人になってから気がついた時の焦燥感。そこで腹をくくって歯車の一部となることの覚悟。現実逃避してバカ騒ぎした後にやってくる自己嫌悪。
そんな20代前半らしい葛藤を時代の空気感を上手に切り取りながら描いています。
作品は若者たちの夢と理想に厳しい現実を突きつけますが、そこにはまだたくさんの可能性が残されています。
四半世紀前の作品ならきっと叶うことなく散っていったはずなので、時代の移り変わりを感じました。

12位 ライオン・キング 3.0

世界中で記録的な大ヒットとなった、ディズニー映画の第二次黄金期における頂点とも言える名作アニメーション。
冒頭で誕生したライオンの息子に名もなき草食動物たちが平伏す構図に違和感を覚え、平和的共存が成り立つ王国なのだと世界観を捉えようとした矢先、王の口から捕食者と獲物の関係であることが真っ当であるかのように語られるので困惑しました。
あまりにライオン目線な設定には終始違和感が拭えませんでしたが、生意気だった息子が叔父の策略によってしっかりその報いを受け、そこから立ち直って成長していく過程は王道ながら楽しめました。
楽曲の質も素晴らしく、主人公の感情の変化が今ひとつ伝わってこない中で効果的にストーリーを盛り上げてくれていました。

11位 シリアル・ママ 3.0

ジョン・ウォーターズが道徳的で模範的な主婦をシリアルキラーに仕立て上げたブラックコメディ。
絵に描いたように健全で豊かで明るく暖かいボルチモアの家庭の良妻賢母が、実は自身の道徳基準や価値観から外れた存在を容赦なく惨殺する殺人鬼であったことから巻き起こる騒動が町中を巻き込み、そして社会現象へと発展していく様を描いた物語です。
ウォーターズらしいバッドテイストぶりが随所に垣間見えつつも、グロさや下品さはほどほどに調整されていて、社会風刺的な皮肉を放つギャグの方が多くなっているのでコメディとしての間口は広くなりおもしろかったです。
事実に基づくというジョークのテロップを入れるのであれば、せめて前半は少しおふざけを控えめにしてシリアスを装っていた方が、後半のメチャクチャな展開へのフリになった気がします。
そして犯行動機に個人的な感情は含めず、あくまで社会規範から外れる者が許せないという極端な正義が暴走する展開とした方がメッセージはシャープになったと思います。

10位 トゥルーライズ 3.0

「ターミネーター」の監督主演コンビによるアクションコメディ。
激しいアクションと家族もののコメディ的なユーモアのミックスが楽しく、シュワちゃんが2つの得意分野で存分に活かされています。
サービス精神旺盛すぎて尺が長すぎる気はしますが、退屈させないテンポの良さはさすがでした。
職権濫用や公私混同のオンパレードのはちゃめちゃな展開や、よく指摘されるアラブ人への偏見や命の扱いの軽さは確かに否めないのですが、このコンビの作品は細かいことを気にするよりも、そういうものだと割り切って観た方が楽しめるのだと改めて思いました。

9位 愛しのタチアナ 3.0

とてつもなく不器用でぎこちない、ウブな恋愛を大人たちが繰り広げる異色のラブストーリー。
序盤こそカウリスマキ作品にしてはセリフが多いと思わせますが、2人の女性が登場して以降はいつも通りのだんまりを決め込み、シュールなロードムービーが展開されます。
数日間閉じ込めた母親を解放して、何事もなかったかのように仕事にとりかかり、母親も平然とやかんに水を汲む結末はアンチクライマックスの極致です。
直前のコーヒーショップに車で突っ込む妄想だけでなく、この旅自体が妄想だったのではないかと思わせる印象的なラストです。

8位 ファウスト 3.0

シュヴァンクマイエルの二作目の長編は、人間の飽くなき欲望という実に彼らしいテーマを扱ったファウスト伝説を自己流に解釈した、実写と人形劇とが入りまじった作品です。
論理を超えた展開は正にシュールレアリズム的で、無意識下での思考の流れに身をゆだねる心地良さがあります。
しかし前作の「アリス」はストーリー自体が脱線の連続であったのに対し、こちらは真っ当なストーリーがベースとなっているためか脱線が控えめで、振り切れていない印象を受けました。
代名詞であるグロテスクで生理的嫌悪感を引き起こすような描写も控えめで、物足りなさを感じます。
とはいえ、人形劇のコミカルさからダークなオチまで見どころの多い作品ではあります。

7位 トリコロール/赤の愛 3.0

トリコロール3部作の最終作にしてキェシロフスキの遺作。
世捨て人のような老人の偏屈な心が明るく優しい女性との交流によって解きほぐされていく物語です。
老人の境遇は近所に住む青年の身にも宿命的に降りかかり、まさに踏んだり蹴ったりな青年ですが、結末でその彼と一緒に救出されるのは例の彼女でした。
フランス国旗の赤が意味する博愛をテーマにした本作において、彼女はまさに救いの女神のように描かれています。
そしてこの場面では3部作で登場してきた主要人物たちが一堂に会することで、キェシロフスキらしい交差する運命を象徴させています。

6位 マスク 3.5

コメディにおけるCGの使い方のお手本のような作品です。
アニメーションのような誇張表現が、もともと2.5次元的な顔芸を得意とするジム・キャリーと抜群の相性です。
ぶっとんだコメディ描写の割に、ストーリー自体は意外と堅実に運ばれていくので飽きずに観ていられます。
話が進むに連れて犬の存在感が増していき、クライマックスでは大活躍の末にオチまで持っていくのが印象的です。

5位 ショーシャンクの空に 3.5

無冠の名作として名高いヒューマンドラマ。
長尺ですが饒舌なナレーションによってダレることなくストーリーが進み、脱獄ものとして楽しめました。
ただ、刑務所の中での苦境にも心折れることなく希望を持ち続け、周囲の信頼を得ていく主人公のキャラクターはあまりにもファンタジーの世界で、その忍耐強さには美徳よりも異常な執念を感じてしまいました。
主人公にとっての刑務所の中での暮らしは暴力や不正はあるものの、良き仲間、理解者に恵まれ、良い待遇を勝ち得ていく姿が強調されています。つまり不自由さが感じられないのです。自由を得たことを物語のカタルシスとするのなら、もっと絶望的な状況が必要だった気がします。
そのため希望の物語としてはあまり心に響かず、年老いてから出所したことで直面する生きづらさのエピソードをもっと広げてほしかったです。

4位 パルプ・フィクション 3.5

ストーリー自体のおもしろさは平凡ですが、ストーリーテリングという点で、おそらくは90年代でもっとも影響力が強かった作品。
バラバラに見えるエピソードが徐々に結び付いていく快感、矢継ぎ早な無駄話のユーモア、唐突に訪れるバイオレンスのインパクト。解体すればなんてことのない要素が、組み立て方の工夫一つで魅力的なシーンへと変貌しています。
構成の妙が味わえる脚本、退屈を恐れない演出、それら素材を存分に活かした編集と映画作りにおけるアイディアがつまっていて、映画ファンを喜ばせたのもうなずけます。

3位 シャロウ・グレイブ 3.5

ダニー・ボイルの長編デビュー作となるクライムサスペンス。
その独特のテンポの編集とスタイリッシュな映像センスがすでに目を引きます。
友だちを信用できなくなったらどうする?と作品のテーマをオープニングのナレーションでズバリ言ってしまうという潔さは斬新ではあるものの、安直と言わざるを得ません。
しかしその中身は、欲による人間関係の崩壊というダニー・ボイルが後の作品でも何度となく扱うことになる要素を巧みに描き出しています。
冒頭から3人は悪党ではないにしても好感の持てない人々であり、観客は事の顛末を客観的に見ることになります。
それがストーリーの後半で疑心暗鬼が渦巻き出してからは、気がつけばもっとも好感が持てなかった男に感情移入しており、結末に爽快感を覚えてしまうのが不思議です。

2位 トリコロール/白の愛 3.5

トリコロール3部作の2作目にして、キェシロフスキのもっともライトな作品です。
性的不能を理由に離婚を突き付けられた主人公は途方に暮れますが、母国ポーランドに帰り暮らすうちにひょんなことから財を成します。
そして自殺願望のある男を救ったことから友情が芽生えます。満たされていく主人公ですが、どうしても取り戻したかったのは妻からの愛でした。
キェシロフスキがこれまで深遠なタッチで描いてきた死や命、愛や人生といった要素はこの作品内では軽く扱われ、深みにはかけるものの、単純に楽しめるブラックコメディとしては随一です。

1位 レオン 4.5

孤独な殺し屋と復讐に燃える少女の危うくも儚く美しいつながりを描いたリュック・ベッソンの最高傑作です。
根無し草のように生きる凄腕の殺し屋というワイルドなキャラクターの男が、ピュアで朴訥とした印象を与えるアンバランスさ。身寄りをなくした少女というか弱い存在が、外見はそのままに内面がたくましく凛々しくなっていくアンバランスさ。そしてその2人が都会の片隅で送る何気ない日常と裏世界の暗殺稼業が交互に描かれるアンバランスさ。
それら絶妙なアンバランスさによって生まれるギャップが物語に笑いとサスペンスを生み、進展しないラブストーリーを特別なものにしています。


いかがでしたでしょうか。
1994年は映画史に残る名作から、大ヒットしたハリウッドアクション、ヨーロッパ映画の秀作と稀に見る豊作な年でした。
次回の記事では、2004年を取り上げます。

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