科学的&論理的絵画の発明者 ジョルジュ・スーラ

画家

今回の記事では、19世紀末の画家 ジョルジュ・スーラを紹介します。

スーラは1859年にパリで生まれ、1891年に31歳の若さでこの世を去りました。
印象派の一大ムーブメントが収束気味になり、ゴッホら後期印象派と後に呼ばれることになる新たな表現手法を模索する画家たちが活躍する前の一時的なエアポケットにスーラは現れました。

点描と呼ばれた彼の論理的で科学的な作風は、感覚的な印象派とは好対照を成していますが、旧来の画法から脱却しようとした点では同様でした。新印象派と名付けられたスーラの画法とその理論は数十年後に生まれ、現代では生活に欠かせないものになった液晶画面の源泉と言えます。

19世紀は画家にとって試行錯誤が要求された時代だったのだと思います。
カメラが発明されたのは19世紀の前半です。その普及に伴って、そのままの姿を写し取るだけの絵は存在価値が問われることになったことでしょう。
さらに19世紀末には写真を連続して映し出す技術が映像を生み出し、普段人間が目で見ている通りの光景を再現できるようになりました。
19世紀後半の絵画が写実的でアカデミックな画風から脱却し、象徴的、幻想的な画風を生み出したり、「人間の目で見たそのまま」とは何かを探求し始めたりした要因の一つに、カメラの登場があったと思います。

アートを観る上で、「それが何を表現しているのか」と同様に「それがどうやって表現されているのか」は重要な要素です。
前者には作者の主張や意図、メッセージが十分に込められますが、後者は時代の流れやその時代のルールや慣習、作者が持ち得る技術や資金に左右されがちです。スーラが生きた19世紀後半の美術界は後者のHOW?に作者の主張が込められた特異な時代でした。いわば慣習を打破しようとするパンクの時代であり、彼が発明した画風はそのまま彼のスタンスとアティチュードを表しているのです。

今回の記事では、スーラがその短い生涯の中で残した作品を簡単なレビューと共に、年代順に紹介していきます。
最高評価は☆×5つ。★は0.5点分です。

くわを持つ農夫/1882年

スーラがまだ自身の画法を確立していなかった頃の作品。
この頃、スーラは農民たちを遠くからズームして切り取ったような小ぶりな作品をいくつも残しており、後の大作へ向けての準備段階だったのかもしれません。まだ20歳を過ぎたばかりであり、印象派の影響下から抜け出せていませんが、筆を置いていくような描き方が見られ、後の点描画法への発芽が見て取れます。

評価☆☆★

アニエールの水浴/1884年

スーラの代表作の一つであり、初期の秀作。
唯一有無の画風が出来上がりつつあり、人々が水辺でくつろぐのどかな光景を写し出しています。色彩に豊かさが足りず、人の肌や光と空気、葉の緑は淡い明るさで、中途半端な印象です。

評価☆☆☆★

グランド・ジャット島の日曜日の午後/1886年

スーラのもっとも有名な絵画であり、点描画法を完成させた作品として名高い名画です。
これまでも水辺でくつろぐ人々を描いていますが、今作では色の配置、人物の配置、直線と曲線のバランスが抜群に組み合わさって調和しており、近景の人物の表情も絶妙です。

評価☆☆☆☆★

サーカスの客寄せ/1888年

夜の街を描いたスーラの新境地です。
街中の人工的な明かりを温かくも仄暗い色彩で表現しています。一方で、幾何学的な構図は健在で、一瞬を切り取ったような静止画感は強く残っています。

評価☆☆☆★

シャユ踊り/1890年

これまでの作品が「静」であったとするなら、今作でスーラは初めて「動」の絵画を描きました。大胆な構図で躍動感を出す一方で、直線の多さには動きのぎこちなさを感じさせます。

評価☆☆☆

サーカス/1891年

スーラ最後の大作であり、未完の傑作です。
縦型の構図の中に飛び出しそうなサーカスの躍動感を描き出しています。輝くような黄色とコントラストを生む黒が、暗い客席からライトを浴びたステージを観ているような感覚を生み出しています。幾何学的な人物配置、人工的な直線と曲線にも関わらず、無機質な冷たさはなく、描かれた人物には温かく命が宿っています。
論理的で科学的な形式を確立し、描くべき中身にも踏み込んでいった作品として、スーラの一つの到達点だったと言えるでしょう。

評価☆☆☆☆☆

さいごに

いかがでしたか?
スーラの点描画法は実物を間近で見ると、その細かな無数の点に気が遠くなる思いがします。そしてこの手間のかかる手法を選んだところに、彼の芸術家としてのスタンスとアティチュードが表れていることを実感できるのです。
スーラの主要な作品は海外の有名美術館に所蔵されていることが多いので、ぜひ海外に行った際には足を運んでみてください。

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