人間の本質を探究した孤高の映像作家 スタンリー・キューブリック 3/4

映画監督

映画監督、スタンリー・キューブリックについて、今回はその技術的功績を紹介します。

キューブリックが映像技術の発展にどれだけ貢献し、後に影響を与えたかを知りたければ、「2001年宇宙の旅」を観るだけでも十分だと思います。あの映像が月面着陸の前年、1968年に公開されていた事実が、彼の功績を象徴しています。

しかし、映像技術が発展した現在においては、その映像は歴史的価値を抜きにすれば、さほど特異なものではありません。キューブリックが映画界に残した功績は、単に特殊効果的な要素にとどまりません。むしろそれ以外の部分にこそ、彼のユニークさは見て取れるのです。キーワードは「カットへのこだわり」「音楽のコントラスト」「画面の中のリアリティ」の3つです。

カットへのこだわり

キューブリックのトレードマークである不自然なほど調和のとれた左右対称の構図。一つ一つのカットが絵画のように美しく、その場面をどんな画角で写し取るか、徹底的に考え抜かれていることを感じさせます。それは作り手の存在を観客に意識させることであり、劇映画の定石とは外れています。

しかし彼は意図的に存在を意識させるようなカメラの位置取りや動きをします。動物園の檻の内側から見物人を写した若き日の有名な一枚は、映画製作に乗り出す前から社会と人間を見つめるシニカルな視点を持ち合わせていたことと、カメラの扱い方が主張を作り出すと理解していたことを示しています。カメラマンとしてキャリアをスタートさせたことが、キューブリックのカットへのこだわりを生み出したのかもしれません。

音楽のコントラスト

水爆で滅びていく世界に乗せて流れる「また会いましょう」、無音の宇宙空間の響き渡る「美しく青きドナウ」、暴行をしながら楽しげに歌いあげられる「雨に唄えば」、暗闇を行進する兵士たちがうなるように合唱する「ミッキーマウス・マーチ」。音楽の選び方と使い方がメッセージをより明確に浮かび上がらせます。映像と音楽のこれほど皮肉で鮮明なコントラストを作り出す人を、私は他に知りません。

画面の中のリアリティ

キューブリックは渡英後は一貫してイギリスで映画製作をしており、ベトナムもニューヨークも国内にセットを作り出して再現しました。徹底的な事前リサーチや何十回にも及ぶリテイクで、完璧主義者として知られるキューブリックですが、現地に赴いてロケを行うことはしなかったのです。彼の追い求めた「完璧」は、「リアルであること」よりも「画面の中でリアリティがあること」だったのだと考えられます。

これらのユニークな特徴も、キューブリックの魅力のほんの一部にすぎません。哲学的なメッセージ、技術的革新、アートとしての美しさ、エンターテインメントとしての面白さを兼ね備えているバランス感覚が、キューブリックの映像作家としての最大の特性であり魅力なのです。



いかがでしたか?
今回の記事では、キューブリックの残した技術的功績について紹介しました。
次回の記事では、キューブリック作品を時系列順でレビューしていきます。

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